プローブ顕微鏡で分子構造を見る
最近ちょっと本業(?)が忙しく、更新が滞っています。
さて、以前 、透過型電子顕微鏡で分子構造を直接観察する話を紹介しましたが、今度はプローブ顕微鏡 で分子構造を見たという例です。出典はdoi:10.1038/nchem.765です。
プローブ顕微鏡とは、大雑把に言うと、試料を極細の針(プローブ)で引っ掻くと、試料の凹凸に応じてプローブが上下しますが、それを画像化することで、試料の表面構造を見るという装置です。
うーん・・・すごい。図cが分子構造ですが、図bなど見ると、くっきり構造が見えてるじゃないですか。
近年、プローブ顕微鏡は長足の進歩を遂げています。私はこの分野の先端技術を知っているわけではないですが、
・プローブに極細の素材(カーボンナノチューブなど)を用いる
・PCの演算が向上している
・画像だけでなく高度や電磁気的・熱力学的情報が得られるため、近年急速に普及し始めている
などの理由から、急速に利用が拡大していることは知っていました。 にしても、まさかここまでとは。
プローブ顕微鏡は電子顕微鏡以上に多彩な情報を得ることができます。非常に将来性を秘めた技術ではないかと思います。
追記:この記事、無料公開されているのですね。
http://www.nature.com/nchem/journal/v2/n10/pdf/nchem.765.pdf
興味のある方はぜひ。
Invitation to Oceanography
東京出張
のついでに買った本です。今まで積んでいましたがやっと読んでみました。まだ流し読みですが。
これはいいですねえ。本の帯にも書いてあるのですが、海洋学の入門書としてこれほどいい本はないのではないかと思います。オールカラーで写真や図版も多くて、見ているだけでも楽しい。お勧めです!
ホークスも強い!
前にも書いたように セリーグでは中日ドラゴンズ好きですが、実は福岡に長く住んでいたこともあってパリーグではソフトバンクホークスが好きなのです。
杉内すごい。これでほぼセリーグもパリーグも決まったかな?この2チームがもし日本シリーズでぶつかったら、個人的にはすごくうれしい。
で、ちょっとばかりお疲れ気味なので、ちょっといいワインをオープン!
なんとヴォーヌ・ロマネのプルミエ・クリュですよ!ミシェル・グロですよ?!
実は、夏場にうっかりクール宅急便設定を忘れて注文して、吹きこぼれて到着したという、いわくありものなのです。だからまあいいかー、と思いまして。さて、どうかな・・・。
しまった。こんなどうでもいい時に飲むんじゃなかったかもしれない。すごくおいしい・・・。
チャールズ・キーリング①
NOAA HP
より
チャールズ・デービッド・キーリング(Charles David Keeling)、1928-2005、アメリカ
大気中の二酸化炭素濃度が増加していることを発見
チャールズでデービッド。世界に何万人もいそうな名前ですが(笑)、その業績は他に並ぶ者がありません。気候変動に関する研究の最重要人物と言っても過言ではないでしょう。
その業績は、上の写真でキーリングの後ろに写っている1枚のパネルに集約されます。単に右上がりの線が引かれているだけに見えるグラフ。パネルに描かれたこのグラフこそが、人類により地球温暖化が確かに起こりうることを決定づけたものなのです。
このパネルは、ハワイのマウナ・ロア観測所
内のキーリング・ビルディング(もちろんキーリングを記念して命名された建物です)に掲示さてているものです。拡大してみましょう。
NOAA HP
より
横軸は年代を、そして縦軸は大気中の二酸化炭素濃度を示しています。パネルは、大気中の二酸化炭素濃度の経年変化を示したものなのです。二酸化炭素は年々増え続けていることと、細かいギザギザがあることが分かるでしょう。
現在、大気中の二酸化炭素濃度が増え続けていることを知らない人はまずいません(注1)。しかし、誰もが知っているこの事実も、キーリング以前には誰も知らなかったのです。
どのような経緯からキーリングはこの重大な発見をしたのでしょうか。また、なぜキーリングが「最初の一人」になれたのでしょうか。
・背景~温暖化への「危惧」の芽生え
アレニウス は、二酸化炭素濃度が増加すると温室効果が強まり地球の平均気温は上昇すると予想しました。紆余曲折ありましたが、この予想は徐々に科学者たちに受け入れられていきました(注2)。しかし、これはあくまで計算上の話。人類が大気組成を変えるほど大量に二酸化炭素排出することはないだろう、と思われていました。
ところが、産業革命から二度の世界大戦を経て文明は飛躍的に発展し、化石燃料の消費量は猛烈な勢いで増加していきました。地球に関する理解も少しずつ進み、どうやら地球環境は思っていたほど不変のものではなさそうだと分かってきました。
これらのことから、「机上の計算だけでなく、実際の地球でも平均気温の上昇は起きうるのではないか?」と考える学者達も増えてきました。その代表が、スクリプス研究所 のロジャー・レヴェル です。後に、キーリングの上司となる人物です。
ロジャー・レヴェル(Roger Revelle) Harvard Square Library
より。
この危惧は当たるのか、それともただの杞憂にすぎないのか。それを確かめるためには、何をおいても大気中の二酸化炭素濃度を正確に分析する必要がありました。
人類が二酸化炭素を多量に放出しているのは事実として、それが大気に蓄積しないと温室効果が強くなることはありません。海に吸収されたり石灰石として固定されるなどとして、大気からすみやかに失われる可能性も高いと思われていたのです。
しかし、大気中の二酸化炭素濃度を測定するのは想像以上に難しいのです(注3)。例えば滴定 という方法があります。私もたまに滴定しますが、細かい分析はなかなか難しいものです。
しかも対象は大気中に存在する二酸化炭素です。もし私が二酸化炭素濃度を滴定しろと言われたら・・・。真っ先に、どうやって二酸化炭素の混入を防げばいいか頭を抱えるでしょうね。何しろどこからでも混入するのですから。水や試薬にも二酸化炭素は溶け込んでいます。この影響を除去するのも悩むでしょうね。これらは、私よりずっと実験が上手い人でも共通して悩む点でしょう。
そして、なんと言っても、二酸化炭素は大気中に300ppm(0.03%)程度しか含まれないのです。
また、観測場所の問題もありました。すでに都市化や工業化が進んでいた時代です。人間が放出する二酸化炭素濃度は、地理的・時間的ばらつきが大きくなっていたのです。加えて、滴定をするような化学者はたいてい都会に住んでいましたから、ばらつきの影響をもろに受けてしまうのです(注4)。
正確な二酸化炭素濃度を測定する必要性は認識されていましたが、なかなか妙案はありませんでした。
・キーリング登場
キーリングは元々、ウランの抽出に関する研究をしていたと言います。戦争の影がまだまだ色濃かったのかもしれません。
しかし時代は変わります。師の勧めもあってか、大気・水・石灰岩間の二酸化炭素平衡に関する研究を始めました。このような研究をするためには、二酸化炭素濃度を正確に測定する必要があります。測定を通して、キーリングは、二酸化炭素濃度が例えば昼と夜で異なること、炭素同位対比も昼夜で差があることなどに気づきました。
もう一つ重要な発見として、キーリングはワシントン州の森林やアリゾナ州の高山などで二酸化炭素濃度を測定していましたが、これら人里離れた地域であれば二酸化炭素濃度はほぼ均一であることにも気づきました。
これらも今振り返ってみれば重要な発見ですが、当時はあまり重要視されることはありませんでした。しかし、レヴェルはこれを見逃しませんでした。レヴェルはキーリングをスクリプス研究所に招聘し、大気中の二酸化炭素を継続的に測定することを要請します(注5)。1956年のことでした。
次回に続きます。たぶん第3回くらいまで。
注1:地球温暖化が起きていることに最も否定的な人ですら、二酸化炭素濃度が増加している事実は認めているのではないでしょうか?
注2:いずれこの「紆余曲折」も調べてみたいですね・・・。
注3:以前、このブログでこのことに関するコメント がありましたね。
注4:キーリング以前の二酸化炭素濃度に関する研究が、以下にまとめられています。
http://www.biomind.de/realCO2/literature/CO2literature1800-1960.pdf
いくつかリンク先を読んだ感じでは、ばらつきは非常に大きいですね。
(9/25追記:リンク先のHPの作者は、二酸化炭素は増加していないという主張の持ち主のようです。注1の数少ない例外でした。
http://www.biomind.de/realCO2/
ここまで調べているのにどうしてそういう結論に至るのか・・・、)
キーリングのブループラネット賞記念講演では、熱帯大気で319~349ppmと予想したBuchの研究が引用されています。
注5:レヴェルは後日、自分のことを「私は温室効果の祖父だった」と語ったと言います。
http://earthobservatory.nasa.gov/Features/Revelle/revelle_3.php
無名だったスクリプス研究所を短時間のうちに世界最高峰の研究機関に育て上げたり、政治に対する強い影響力を持っていたりと、人を見、育てる能力はすばらしいものだったのではないでしょうか。
参考:
スクリプス研究所
http://scrippsco2.ucsd.edu/home/index.php
ブループラネット賞HP
http://www.af-info.or.jp/blueplanet/list.html
The Discovery of Global Warming
http://www.aip.org/history/climate/index.htm
参考文献:
温暖化の<発見>とは何か
http://www.msz.co.jp/book/detail/07134.html
チェンジング・ブルー
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/1/0062440.html
CO2と温暖化の正体
2010年8月の気温
恒例の月平均気温の記事、書いてなかったですね。
気象庁によると、2010年8月の世界平均気温は、1971~2000年までの平均気温に対し+0.33℃を記録しました。これは観測史上第4位の高温です。
日本では過去に例を見ない高温でした が、世界的には「例がない」ほどの高温ではなかったようですね。ラニーニャ現象発生により、南半球はさほど高温ではなかったのが効いているようです。
なお、NOAAの発表では 、20世紀平均気温に対し+0.60℃を記録し、これは観測史上第3位の高温とのことです。