Black Planet -6ページ目

KFCのチキンフィレサンド

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 気付いたら食べ終わっていたので、イベントで買ったヘッドドレスを公開します!可愛いでしょう?2個で3500円でした!!手作りのオリジナルだよ(・∀・)

赤ずきん5

「…ん…」

 寝返りをうった拍子に、肩から毛布がずり落ちる。
 露になった白い肌に口付けてから、白狼は毛布を直してやった。

甘い時間を過ごした証の、乱れた髪を優しくすいて整える。

ベッドの下、清潔なリノリウムの床に脱ぎ捨てられた衣服を片付けている途中、ぽつんと床に転がったままの赤い帽子を見つけて、彼はふっと笑みを漏らした。

「赤ずきんですか…」

よく知られているのはグリム童話のほうだろうが、ペロー版のほうが印象に残っている。
ペロー版には、猟師は登場しない。

赤ずきんは狼に食べられたまま物語は終わるのだ。

「物事はそうそう都合よくいかないものですよ」

 ひっそりと笑みながら呟き、毛布でくるむようにした少女を抱き上げると、白狼は真っ白な病室を後にした。

「愛していますよ」

 窓際で揺れている紅い花だけを残して。

END

赤ずきん4

 空っぽのベッド。

「どういうこと…? お祖母ちゃんはどこ…?」

 赤ずきんはすっかり混乱しきっていた。

 いるはずの祖母がいない。
それに、さっきからこの男は何を聞き出そうとしているのだろうか?
医者のようだが、そういえばまだ名も聞いていない。

 赤ずきんは急にこの男が恐ろしく思えてきた。

「あなたは、誰?」

「私は白狼」

 男はそう言って薄く笑った。

「貴女のお祖母さまは既に亡くなっている」

「嘘っ!」

 嘘だ。だって、この前来た時は──

「貴女は彼岸花を持って見舞いに来た。その時に亡くなったのです」

 白狼は淡々とした口調で続ける。

「貴女もその一部始終を見ていたはずだ」




 無機質なリノリウムの床に落ちる紅い花

 慌ただしく走ってくるスタッフの足音

 奇妙な形で倒れた、痩せ細った老人の体




「祖母の死を認めたくないあまり、貴女はその記憶に蓋をした。まるでまだ祖母が生きているかのような言動を繰り返す貴女を心配した母親は、友人の医者に頼み、カウンセリングを受けさせることにした──この、サナトリウムで」

 赤ずきんはいつの間にか椅子から立ち上がっていた。
白衣を着た目の前の男を蒼白な顔で見上げる。

「母親は、貴女に祖母を見舞いに行くように言い、ここに来させていたのです。実際にはいない祖母の見舞いをする為にサナトリウムに通いつつ、そこで診察を受けさせる為に」

『──赤ずきんちゃん、今日もお見舞いに来たの?偉いわね』

 白衣姿の女の人が、赤ずきんを迎え、病室へ連れて行く。
そうして、さっきのように向かい合わせに椅子に座り、たわいのない世間話を交わした。

「でも…でも…花が……」

 白狼の口ぶりでは、もう自分は何度もそうしてここに通っているかのようだった。
では、窓際で揺れている彼岸花は、何故まだ枯れていないのか。
炎のような紅がゆらゆらと風に揺れている。

「それは私が用意したものです」

 意外なほど近くに歩み寄っていた白狼が、そっと赤ずきんの肩に手をかけた。

 怯えて身をすくめる赤ずきんの肩から首を這い上り、その手は頬を包み込む。

「この花は言わば記憶を取り戻すキィワードだ。何の準備もなく不用意に触れれば、堰を切ったように溢れ出した記憶に、心を破壊されてしまう可能性もある。だから、あの時貴女に触れさせるわけにはいかなかった」

 僅かに憐れむような響きの声に、赤ずきんはますます混乱した。
窓から冷たい風が吹き込んできて、体を震わせる。

「この辺りは都心と違って随分暖かいのですね。だから、彼岸の時期に咲く花がまだ咲いているのでしょう」

 白狼が白衣を脱いだ。
迷子の子供のような顔で途方に暮れている赤ずきんにそれを着せかけ、淡く微笑む。

「貴女のお祖母さまが亡くなったのは、去年の秋のことなのですよ…」


 全てを思い出した赤ずきんは、白狼の胸に縋って声をあげて泣いた。
力強い腕がしっかりと抱きしめてくれる。

 もう大好きな祖母は戻ってこない。
時が止まっていたのは、サナトリウムではなく自分だった。

 幸せだった時間の中に閉じ籠って、辛い現実を忘れてしまおうとしていた。

「全て…思い出したのですね」

 白狼の胸に顔を埋めたまま頷く。

 あの日、祖母の見舞いに来た日。
嬉しそうに花を受け取った直後に、祖母は致命的な発作を起こして亡くなったのだった。

「大丈夫、もう大丈夫ですよ…」

 白狼が優しく頭を撫でてくれる。

 大切な存在を喪ったことで、胸の中にぽかりと開いた暗い穴。
真実を知り、無防備になった心の隙間に潜り込んでいくように、白狼は優しく優しく耳もとで囁きかける。

「お祖母さまがいなくなっても、貴女は一人ではない。これからは、私がずっと貴女の側にいます」

 赤ずきんは涙に濡れた眼を上げた。

 柔らかなものが目元に触れる。
それは濡れた頬にも滑り、最後に唇へと降りていった。

 抱きしめていた腕が、腰の辺りを撫でて、ぞくりと何かが背筋を走る。

 寂しくて悲しくて冷えきっていた心の中が、甘く心地よい気持ちで満たされていくような気がして、赤ずきんは白狼の腕の中でほうっと安堵の吐息を漏らした。


─可愛い、可愛い、赤ずきん

森に棲む狼には気を付けるのですよ

甘い言葉でお前を騙して食べてしまいますからね

幼い頃に祖母に言われた言葉は赤ずきんには届かない。

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