国立文楽劇場での文楽公演は、第一部から間を開けて、夜の第三部です。
まずは、「御所桜堀川夜討」。 義経が住む堀川館を土佐坊が夜襲した、全五段の時代物。
そこから、歌舞伎でも上演される、三段目切の「弁慶上使」です。
産声以外では泣いたことがない弁慶が、ついに大泣きするところがクライマックス。
なんですが、この狂言の中心は、弁慶と一度だけ契りを結んで娘を生んだ、おわさなんです。
義経の妻となったものの、ひっそりと暮らす時忠の娘、卿の君。 義経の子を身籠りながら、辛い立場。
そこに、屋敷に仕える腰元・信夫の母が見舞いにくる。 このおわさが、根っからの明るさ。
先祖から子沢山だったとか、安産のお守りに海馬をどうぞだとか、まあぺちゃくちゃとよく喋る。
表情の使い分けが難しい、老女方を遣うのは和生。 まずは、軽妙さで始まって、この後たっぷりの人間味。
つかの間の、おわさと信夫の体面。 愁いと嬉しさが混じる娘は、玉誉が遣う。 この後の悲劇を思うとつらい。
そこにやって来た弁慶が告げたのは、鎌倉方への弁明のために、卿の君の身代わりに、信夫を討つこと。
ここからの、母としてのおわさの語りが熱い。 激しい場面でも、乱れずに人形を遣うのが、和生の技。
睦太夫と勝平に合わせた動きが、気持ちいい。 身代わりを断る理由は、信夫と父親を合わせたいため。
その父親は、実は弁慶。 隠れて話を聞いていた弁慶が、なんと信夫を刺し殺す。 ええっ。
瀕死の信夫を介抱しながら、嘆き悲しむおわさのクドキが、あまりに長くてあまりに切ない。
息絶えた娘を抱いて、弁慶の前に運んでいく母。 ああ、涙がぽろぽろとこぼれてしまうのです。
弁慶の遣いは玉志。 生き別れの娘を主のために殺す。 怖い大団七が、とうとう大落とし。
無表情から、本当に泣いているように見えるところまで、これが文楽の味。 首を携えて館を去る、悲壮さはどうだ。
切の太夫は錣太夫で、ずっと高いテンションに圧倒。 そこにスペースを埋める、三味線の宗助。