文楽の絵本太功記に人間の苦悩 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

ブログの説明を入力します。

国立文楽劇場での「絵本太功記」の続きは、お馴染みの「尼ケ崎」と、時々演じられる「夕顔棚」です。

 

主殺しの息子が許せないながら、孫を気遣う老母さつき。 義母と夫との板挟みに苦悩する、妻の操。

ひたすら十次郎を想う、許婚の初菊。 この女三人に愛されながら、非業の死を遂げる十次郎。

 

そこに、主君殺しの十字架を背負って、自分を曲げずに、最後に愛情を爆発させる光秀。

悲劇に向かう人物が揃ったところで、初夏の風物が涼し気な「夕顔棚」の段から。

 

太夫のメリヤスによる、ツメ人形の何無妙法蓮華経が賑やか。 そこは、尼ケ崎の詫び住まい。

一徹なさつきと、訪れた操のやり取りに人間味。 主遣いの勘壽と勘彌が、いい駆け引き。

 

出陣の許しを得に来た十次郎が悲壮、おろおろする初菊が可哀そう。 玉勢と簑紫郎の息が合います。

太夫の三輪太夫と、三味線の團七が、几帳面なノリで進めていきます。

 

そうして、クライマックスの「尼ケ崎」の段。 十次郎が出陣し、残された女3人の哀しみが印象的。

そこに、夕顔棚で突然やってきて、湯が沸いた風呂にさっさと入る、謎の僧。 この人物がキー。

 

隠れて様子をうかがっていたのが、光秀。 眉間に傷のある文七を重厚に扱う、玉男を見届けたい。

僧を久吉と勘ぐって、突き出した竹槍に刺されたのが、さつき。 命を懸けて、息子を諭す母。

 

それに耳を貸さず、大義を述べる光秀。 やり方は乱暴でも、ここは光秀に一理ありかも。

瀕死の十次郎が戻って、さつき、操、初菊がそれぞれの立場で嘆き悲しむのがつらい。

 

とうとう、光秀が我慢できずに、大落とし。 大げさにならない感情の動きは、玉男の技です。

ここから、文楽ならではの展開に。 尼ケ崎の閑居が下手に動いて、大きな松と背景の海。

 

松に登り、遠くを見まわす光秀、そこには久吉の大軍勢。 動じない玉男の光秀が、大きい。

そこに、陣羽織姿に改めた久吉。 検非違使を遣う玉佳がきびきびして、舞台が華やかになります。

 

で、光秀と久吉が、天王山での再会を約束しての別れ。 光秀が、夕顔棚の実をバシッと斬ってちょーん。

 

前の太夫は呂勢太夫、三味線は清治で堅実。 切は、ずっとエネルギッシュな千歳太夫と、冷静な富助。

それぞれの特徴でぐんぐん盛り上げながら、しっかり人間味を感じる、いい時間でした。