隼人の女殺油地獄に工夫の味 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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南座での三月花形歌舞伎、午前に続いての午後の部は、「女殺油地獄」です。

野崎詣りの徳庵堤が、善男善女で大賑わい。 上方勢による板付きで、すっかり世界が上方に。

 

そこに、遊び人の升三郎と翫政が来て、更に上方味。 遅れてきた若造が、今日こそ男を見せたるって。

これが、河内屋与兵衛。 中身はからっぽで、粋がる次男坊を演じるのは、隼人。

 

壱太郎のお吉に説教されても上の空。 馴染みの芸者、小菊を待ち伏せての、すったもんだ。

千壽の小菊に丸め込まれて、もうしんなり。 あげくは、會津客と大げんかで、泥だらけ。

 

とうとう、侍一行に泥をかけての切り捨て騒ぎ。 いてこましたれ、から、許してくだされの、急降下。

お馴染みの場ですが、ここで隼人の演じ方がくっきり。 指導を受けた、仁左衛門にそっくりじゃないですか。

 

型にこだわらずに、上方味で個性を出そうとする右近。 模倣を徹底して、上方狂言に溶け込む隼人。

心の動きを大切にする仁左衛門に教わりながら、生々しくなりすぎないように、気を付けているとか。

 

右近も隼人も、どちらもあり。 大切なのは芯を押さえているか。 昔の上方の雰囲気が出せているか。

松之助、橘三郎、吉弥、寿治郎などのアクの強さに負けていない。 肩ひじ張らない隼人が、しっかり馴染んでいる。

 

それがよく分かるのが、河内屋内の場。 不良息子がかわいい、橘三郎と吉弥の親子。

そんな親心がわからずに暴力をふるい、勘当される与兵衛。 わざとさのない、隼人の小物ぶりがいい。

 

で、クライマックスの豊嶋屋油店の場。 与兵衛を思う、橘三郎と吉弥の親心に涙が誘われます。

それを知っていながら、借金を返して男を立てるプライドと、感情の高ぶりを押さえられずに殺しに向かう与兵衛。

 

ここから、延々と続く殺し場。 薄暗い油屋で、光る刃、流れる油の音、ほどける帯とぐしゃぐしゃの髪。

この生々しすぎる凄惨さ。 それを煽る、宏太郎の三味線が低くうなる。 更に、愛太夫の重い語り。

 

自分から与兵衛の殺しを誘ったような、お吉の死が残酷。 壱太郎が見せるのは、全く美のないリアルな死。

そうして、狂気から我に返った与兵衛。 憑りつかれたような隼人に圧倒されながら、呼吸を忘れていた一瞬でした。