南座の三月花形歌舞伎は、上方狂言の合間に、常磐津舞踊劇の「忍夜恋曲者」、通称「将門」です。
昼と夜の二部構成で、配役を変えての「将門」が組まれるとは、おもしろい趣向。
滝夜叉姫には、しなやかさの中に華が増している壱太郎。 4演目すべてに、主役級で出演とはすごい。
しかも、座頭級の働き。 それぞれにテーマがあり、「河庄」は愛、「油地獄」は情、そうして「将門」は艶とか。
初役の壱太郎が、熟成した玉三郎とはちがった艶を、どう見せてくれるのか。
真っ暗な舞台に、どろどろどろ。 山颪の鳴物が響くと、傾城如月がスッポンから姿を現す。
面あかりに浮かぶ立姿が、おどろおどろしい。 細身ですっと伸びた背中が、初々しい。
2人の四天を軽くさばいてから、オキの常磐津にのって、舞台中央まで進みます。
これは、いいツカミ。 相馬の古御所でまどろんでいるのは、大宅太郎光圀。 今回は、隼人です。
「嵯峨や御室の花ざかり 浮気な蝶も色かせぐ 廓の者に連れられて 外珍しき嵐山」
壱太郎のクドキが、きびきびして軽快。 常磐津の一佐太夫や菊寿郎に、ぴったり合っています。
「さても相馬の将門は、、、」と、次は隼人の番。 合戦の物語が、体のサイズと同じく大きい。
同世代の花形3人の中では、一番年下。 遠慮なくぶつかっていきたいとは、隼人が意欲的。
廓話に続いての手踊り。 壱太郎がリード気味ながら、きれいに息が合っています。
そうして、如月が滝夜叉姫の正体を顕して、蝦蟇の妖術の派手な立廻り。 そーうれぃ~。
花四天は、八大、獅一、隆松、新次、新八、まつ虫、福五郎、翫延で、きれいなとんぼに拍手喝采。
で、がらんがらんがらん、と屋体崩し。 隼人は下手、壱太郎は屋根の上で蝦蟇に乗ってキマリとなりました。
随所の名場面が古風な味わいで、まさに錦絵のような美しさ。 壱太郎と隼人が、また錦絵のよう。