国立文楽劇場での「妹背山婦女庭訓」、四段目はいよいよクライマックスです。
舞台は同じ入鹿御殿で、金殿の段です。 求馬の後を追ってきたお三輪、苧環の糸が切れたのが不吉。
豆腐買いに、求馬と橘姫の祝言の様子を聞く。 ふっくらしたお福が天然、簑二郎が愛嬌たっぷり。
御殿に入り込んだところで、出たっ、官女たち。 なぶつてやろと目引き、袖引きとは、憎たらしい。
この者に酌とらそ、エエマア不調法な。 婿様が見たくば早よう謡や。馬子の唄なら面白からう。
竹にサ雀はナア、品よくとまるナ。 いじめに耐えて、馬子唄まで歌ったのに、突飛ばされておいていかれる。
お三輪は、勘十郎。 杉酒屋では娘さんっぽかったのに、目が三角で、既に恋の狂いを見せています。
そうして、祝言の謡を聞いてからの、怒りと嫉妬による変わりよう。 袖も袂も喰ひ裂き、乱れ心の乱れ髪。
髪を振り乱しての逆上ぶり。 スキンヘッド軍団の呂太夫と清介が、ここぞとばかりに盛り上げます。
妬ましや、腹立ちや、おのれおめおめ寝さそうか。 この素直な嫉妬、娘のかしらが怖すぎる。
コリヤ待て、女。 と、お三輪を止めて、突然わき腹を刺すのが、鱶七。 この恨み晴らさいで置かうか。
忌まわしき有り様のお三輪に、あつぱれ高家の北の方、と、意外なことを語り出す鱶七。
入鹿を倒すためには、疑着の相を持つ女の生き血が必要だとか。 いかつい文七でも、玉志の扱いが優しい。
そうして、金輪五郎の見顕し。 絡む四天が衣装を引っこ抜く演出が、ユニーク。 玉志が、硬軟使い分け。
卑しい身を北の方と呼ばれ、愛しい御方の手柄になると聞かされて、喜ぶお三輪。
たとへこの世は縁薄くと、未来は添うて給はれ。 もう目が見えぬ、懐かしい、恋しい恋しい。
ああ、もう、涙、涙。 せめて葬り得させんと、雑兵を蹴散らしながら、お三輪の亡骸を背負って去る鱶七が、男前。
キリは、入鹿誅殺の段。 玉輝の入鹿を、文哉の鎌足、玉助の淡海、玉志の金輪五郎が征伐します。
太夫は、鎌足に睦太夫、淡海に南都太夫、入鹿に芳穂太夫、橘姫に咲寿太夫。 咲寿太夫に、色気があります。
芝六が入手した爪黒の鹿の血と、お三輪の血を注いだ笛で、正気を失った入鹿の首が打ち落とされました。
そのあと、その首が飛び交って大騒ぎとなっても、宝剣の威光によって、無事に壮大な物語は幕となりました。
筋のおもしろさとともに、芝六一家やお三輪などの庶民の哀しみ、ツメ人形の黒衣が目立った、通し狂言でした。