プロローグ「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」 | 「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 

1.一億総中流社会から格差社会へ

 

 かつて「一億総中流」といわれた時代がありました。1960年代から70年代にかけての高度経済成長期に日本の国民総生産(GDP)が世界第2位に達し、新・三種の神器といわれたカラーテレビ、クーラー、自動車が各家庭に普及した頃です。

 

 例えば、昭和ひとケタ生まれである私の両親は、戦前戦中と貧しい子供時代を過ごし、この高度経済成長期が結婚、子育ての時期にあたります。間違ってもお金持ちといえる家庭ではありませんが、一所懸命に働いて子供を大学にやって、世間並みに電化製品や車を所有するようになったとき、意識の上では「これで自分も中流にはなれた」と感じたとしても不思議はないでしょう(両親の口から「自分は中流」と聞いたことは一度もありませんので、「下ではない」がより近い心情かもしれません)。

 

 「一億総中流」の根拠は、経済企画庁(現内閣府)が実施した「国民生活に関する世論調査」です。70年代の後半には、この調査結果等を基にした政府やメディアの広報、報道により「日本人の9割は中流」が多くの国民の共通認識となっていました。しかしその後、バブル経済とその崩壊を経る中で、中流意識も崩壊し、2000年代には、日本は「格差社会」であるという認識が一般的となっていきます。

 

 「国民生活に関する世論調査」の設問は、「生活の程度は、世間一般からみてこの中のどれに入ると思いますか。」、選択肢は「上、中の上、中の中、中の下、下、わからない」というもので、これでは、そもそも「下」を選択する人は限られる、と指摘する研究者が少なくないようです。実際、令和511月の同調査でも、「下」を選択した回答は8.1%しかなく、現在の国民の意識とはかなりかけ離れたものとなっており、なぜ「中の下」を中流としたのか疑問符がつきます。

 

 早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授は、その著「中流崩壊(朝日新聞出版)」の中で、調査方法やその解釈に対する問題点を指摘したうえで、「『9割中流』論は政府が自らの政策を正当化するのに利用した」と断じています。一億総中流自体が、幻想もしくは虚構であったという指摘です。

 

 一方、NHK放送文化研究所が公開している「放送研究と調査」20205月号に「減少する中流意識と変わる日本人の社会観」というリポートは、「所得格差が大きすぎる」と思う人が20年前より増加している、②20年前と比べて「高所得層」が減って「低所得層」が増えている、社会構造を「中流層」が分厚く格差の少ない社会だとみる人の割合が、20年前よりも10ポイント以上下がっている、この20年間で自分が中流よりも下の階層にいると思う人が増えている、等の分析結果から「日本人の中流意識が減少している」と結論付けています。(199911月、200911月、201911月の3回の調査による分析)

 

 90年代初めのバブル崩壊以降の「失われた30年」といわれる長期デフレ経済の中で、平成元年に19.1%であった非正規雇用労働者の割合は、平成30年には37.9%まで増加し(厚生労働省第284回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会資料)、終身雇用や年功序列賃金を特徴とする日本型の雇用システムも大きく変化しました。

 

 雇用の不安定さに加え、国民負担率(国民所得に対する税負担と社会保険料負担の割合)が、2020年度時点で45%近くにも迫っており、さらに2022年以降は、資源価格高騰や円安に起因する物価上昇が重なって、生活実感として「苦しくなった」と感じることが増えています。

 実際、日銀が実施している「生活意識に関するアンケート調査」、20243月実施結果で、「1年前に比べて現在の暮らし向きにゆとりがなくなってきた」と回答した人の割合は、ほぼ半数の49.5%に達しています。生活不安が募れば、離婚、未婚、子供なし世帯の増加につながるのは当然でしょう。

 

 高齢単身者(65歳以上の単独世帯)は、既に300万人を超え、母子世帯は、約120万世帯といわれています。これらの人たちが家を持たない場合には、賃貸住宅を探すことになりますが、貸主から敬遠されることも珍しくありません。「中流」どころか「格差社会」への流れが続いているのです。

 

2.不動産リテラシーの向上で令和版「新中流」へ

 

 格差社会の是正や貧困層に対する支援の責任は、一義的には政治にあり社会全体で取り組むべき課題です。しかし、その対策は十分とはいえず、相対的貧困率は増加傾向にあります。この先、少子高齢化がさらに進むことで、「社会保険等の負担が増える一方で年金給付は減少」という流れも、もはや既定路線です。国や自治体の施策に期待するだけでは、中流どころか生活困窮に追い込まれてしまう恐れさえあるのです。

 

 そこで不動産リテラシーの向上を通じて、ひとりでも多くの人が、「老後の安心生活」を実現できることを願い、ブログをシリーズ投稿することにします。政府がいうところの「自助」のひとつと捉えていただいても構いません。

 私が、長年かかわってきた不動産業界で学んできたことが、一人でも多くの方の安心生活の実現に寄与することを心から願います。

 

3.住宅編、不動産投資編

 

 令和版「新中流」生活を、「生活不安のない老後」具体的には「年金給付と家賃収入で、不安なく暮らせること」と定義したいと思います。それは、決して富裕層になることではなく、それゆえに多くの人にとって「実現可能な目標」であると考えます。

 

 生まれながらのお金持ちではない、いわゆるフツーの人たちが「新中流」生活という目標を達成するためには、不動産投資は大変有効な手段のひとつです。しかし、「富裕層」という高い目標を設定すると、過大な借入金というハイリスクを負うこともありえます。まずは、着実に「中流というプチ成功者になろう」と提言したいと思います。

 

 令和版「新中流」生活、すなわち「老後の安心生活」を実現するための方策は、次の二つです。

 

「住宅取得における失敗の防止」

「富裕層を目指さない不動産投資」

 

 よって、ブログは「住宅編」「不動産投資編」の二つのパートで構成しています。

 

4.住宅取得における失敗の防止

 

 「住宅取得における失敗の防止」とは、すなわち「資産になる家」を手にすることです。住宅の資産価値は、土地の価値と建物の価値の合算を意味します。

 

 戦後、量的な充足を目指して建築された住宅の、不動産流通市場における経済的価値は、「築25年でほぼゼロ」とされてきました。ゆえに、中古住宅の市場価格は、年数の経過とともに土地の価格に収れんしていきます。しかし、欧米においては、「丁寧に手入れされた住宅の価格は、上がっていくのが当然」です。それは、地価の上昇のみならず「建物の価値」も向上させているからです。

 

 近年は、日本においても、古民家をリノベーション再生し、住宅や店舗として活用する事例が増えていますが、築30年、40年の「古家」よりも、築100年、120年といった「古民家」の方が高く評価されている点が興味を引きます。

 当然です。ベニヤ合板やアルミサッシといった、いわゆる「新建材」で建てられた住宅よりも、「樹齢100年も超えるかという地元産の梁や柱を職人技で組み上げた構造」「地域の気候風土が育てた意匠」は、誰の目にも魅力的に映ります。歴史、風土、伝統に根差した意匠や技術といった、日本人の多くが忘れていた価値が再認識されているのです。

 

 そして、リノベーションという現代の技術により、耐震性、耐火性、機能性、快適性といった新たな価値が付加されるようにもなりました。

 資材価格も人件費も上がり続ける今日、古民家再生はもちろん、既存住宅のリノベーションと中古住宅流通が当たり前の世の中になりつつあります。「築25年でゼロ円」は過去のものになっていくでしょう。

 

 また、土地についても従来からの尺度である「広さ」「利便性」「人気度」といったものの他に、災害への耐性や地域の将来性といった視点も外せなくなっています。不動産バブルの崩壊によって、土地の価値が大きく毀損し経済的に痛手を負ったという例は、枚挙にいとまがありませんが、これからも社会、経済、政治等の外部環境の変化によって、不動産の価値は影響を受け続けます。

 「現在の価値」の比較のみに目を奪われるのではなく、将来の価値を読む力、それが難しいとしても、変化に対し機敏に対応する力を養うことが、生活を守ることにつながっていきます。(その意味においては、土地取得時のみならず、「保有期間を通じた失敗の防止」という方が正確な表現ではあります。)

 

5.富裕層を目指さない不動産投資

 

 「富裕層を目指さない不動産投資」とは、老後の生活資金確保を目的に、「時間をかけて」より安全かつ確実に不動産を運用することをいいます。ポイントは、あくまで「生活資金確保」を到達点におき、無理な運用をしないことと、そのために時間をかけることです。

 

 不動産投資を誘うSMSの広告や、成功者によるセミナーには、「アパート、マンションを何棟も持っています」とか「毎年多額の家賃収入が入ります」という言葉が並びます。ついつい「自分もこんなお金持ちになれるのか」と思ってしまいがちですが、「こんなに沢山の家賃が手に入ります」という誘いは、過大なリスクと表裏一体です。

 

 欲望は失敗を運んできます。「リッチな大家さん生活」を夢見るあまり、過度なリスクを負って、その結果「人生の敗者」となることは避けなければなりません。とりわけ、無防備なオーバーローンのハイレバレッジは、まったくの結果オーライでしかありません。備えのない借入は、「おいでおいで」と地獄に誘う悪魔の顔を持っているのです。

 

 老後の安心生活という無理のない目標に向けて、コツコツと積み上げていくことが、結局は成功への一番の近道だといえます。

 ブログは、「住宅編」「不動産投資編」「不動産取引編」という三つのカテゴリーに分けて、毎回、様々なテーマに関して投稿して参ります。一人でも多くの方にお読みいただければ幸いです。また、「敬体」「常体」が混在しますがご容赦下さい。

                           202461日 中小企業診断士 桑岡伸治