住宅編 第8回 外断熱の家 | 「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

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中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 住宅評論家、南雄三さんの話は衝撃的だった。

 

 それは、ミレニアムという言葉を耳にして間もなくのことだった。会社の方針で「外断熱の家」をメイン商品に据えることになり、顧客向け「外断熱住宅セミナー」の講師として、南さんが招かれたのだ。

 

 衝撃の一つ目はそこで耳にした「断熱・気密・換気」に関する真実の数々。二つ目は、自分が、そのことを知らないままに何年も住宅の営業をしてきたという現実を突きつけられたことだった。何しろ、それまでの私の認識は、「断熱とは断熱材を入れること、気密とはサッシをきゅっと締めること」、そんなレベルでしかなかったのだから。

 

 当時の勉強不足の自分を恥じるが、ハウスメーカーの営業マンの実態は、今もそれほど変わらない。考えてみれば当然だ。会社が用意したマニュアル通りに自社商品を売り込むのが通常で、ひどいのになると他社の欠点をあげつらう。自ら問題意識をもって、断熱・気密の何たるかを学習しようという人がいたとしたら、それは例外中の例外である。

 

 話がそれた。さて、バックパッカーとして世界中を旅した南さんの話は、韓国やヨーロッパの住まいの話から始まる。(ここから当時の記憶をたどり、また、南さんの著書を参考にしつつ講義の中身をご紹介したいのだが、とてもあのクオリティは再現できないのでご容赦願いたい。青文字の記述が、私の解釈による講義の趣旨である。

 

 韓国の住宅には「マル」と呼ばれる冬用の部屋があり、調理時に発生した煙を床暖房に利用した「オンドル」で冬期も暖かい。調理具、暖房器具、そして換気装置でもある暖炉を備えた欧州の家は、その熱を家中に配り暖かく過ごす、煙や煤が室内に入ることはなく、いつも新鮮な空気を取り入れて快適である。

 

 日本の家は、春夏秋の快適な気候の時期に合わせて造られている。冬季には囲炉裏や火鉢で暖をとり、分厚い服を着て、寝るときは「寝間」で布団にくるまって眠った。欧州でも韓国でも、煮炊きに使った熱を上手に暖房にも使って、「快適に」暮らしてきたというのに、日本はなぜ「我慢」の生活を送ることになったのか。

 

 南さんは、日本の住まいについて「二つの愚か」を指摘する。

 

 欧州や韓国の家では、寒いときにはなるべく熱が逃げないように気密にして部屋全体を暖かくする「暖房」を採用したの対し、日本人は気密には無関心で、熱は逃げ放題、わずかに火に当たること採暖」にしか頼ってこなかった。これが一つ目の愚か。

 

 戦後の高度成長期を経て、暖冷房が普及していく中で、ようやく日本でも「断熱・気密化」が始まるのだが、欧州に比べればその基準は緩く、さらに暖炉のような「換気装置」を忘れたことで、石油・ガスストーブによる酸欠、室内への有害物質と水蒸気の放出という状況を生んでしまう。

 そして、暖房する部屋としない部屋、つまり温度差のある部屋をつくったことで、ヒートショック結露発生を原因とするカビ・ダニの繁殖と喘息などのアレルギーを誘発ということにつながっていく。これが二つ目の愚かである。

 

 寒い家の中で、布団や半纏(はんてん)のような「断熱材」にくるまって不自由に過ごすなら、なぜ、家全体をすっぽりと断熱材でくるんで、小さい熱で快適に過ごすという発想にならなかったのか。気候がいいときは開放的に、悪いときはシェルターのように閉鎖して暑さ寒さから守ればいいだけのこと。(これを南雄三さんは「開けたり閉めたり」と表現していた。)

 

 コロンブスの卵のような話だが、「日本の夏は蒸し暑いから開放的な家にするべき」という先入観がそうさせなかったのかと思ってしまう。

 

 さて、その先も、断熱・気密・換気に関する目からうろこの話が続く。

 

 断熱された室内で暖房をすれば、室内は暖かくなるが、暖められた空気は、冷えた窓ガラスやサッシに触れて結露を起こす。同時に内壁の隙間から壁の中に入り込み冷たい外壁に触れてそこでも結露を起こす。その結露を断熱材が吸収し、カビが生え、腐食の原因となるだけでなく、ダニが繁殖しアレルギーを引き起こす。

 

 だから、断熱するなら絶対に気密にしなければならない

 

 一般には「気密にしたら息苦しい」という感覚がある。ところが、そのことに関しても南さんは明快であった。「換気とは空気をコントロールできることであって、そのために気密が鍵になる」と。

 

 換気とは「常に出入口を明確にして、必要な量の新鮮空気を取り入れ、汚染空気を排出すること」である。

 

 「常に」とは一年中二十四時間、「出入口」とは居室から新鮮空気を取り入れて(入口)、室内で発生する化学物質や埃、水蒸気、臭い、埃(ダニの死骸やカビの胞子等を含む)を取り込み、一番汚染物質が発生するダーティーゾーンから排出することである。「必要な換気量」とは、空気中の炭酸ガス濃度を基準として、CO2濃度1,000ppm以下を実現する量であり、一人当たり1時間に20~30㎥であるとされている。

 

 さて、いよいよクライマックス。(笑)

 

 この計画的で適正な換気を実現するためには、建物は高気密でなくてはならない。あちこちに隙間がある状態では、「入口」からではなく「隙間」から空気が流れ込み、意図したとおりに換気をコントロールすることはできない

 

 「いわれてみれば」というのは、こういうことを指すのだろう。穴の開いたストローでジュースは吸えない。入口以外の横穴から、勝手に空気が流れ込んでくる。常に空気環境がよい家、つまり健康な住宅に住むためには、断熱・気密・換気、そして暖房が切っても切れない関係にあったのだ。

 

 断熱・気密・換気・暖房の四つのバランスを実現した家がどのようなものか、後に私は、実際に南さんのご自宅見学という形で体験させてもらうことになる。なんとまあ、家まるごと、冬の暖房は太陽、時々こたつ。昼間の太陽の輻射熱を取り込んで、真冬の朝でもほぼ暖房無し。曇天続きなら、ちょっとエアコンでサポートみたいな高性能な日本家屋だったのだ。

 そして風流人の南さんは、沢山の温湿度計をあちこちにおいて、季節ごとに変化する庭の景色と同様、ちょっとした温度や湿度、風の動きを楽しんでおられたのだった。

 

 「おい、外断熱の話はどうなった⁉」そうでした。南さんの講義は、ここもシンプル。

 「室内の壁には、コンセントのように穴もあけるし、配線も通る、外側からすっぽり覆う方が工事しやすいし簡単でしょう?

 

 そう、工法の違いなんて、超越していたのだった。

 

 内断熱でも外断熱でも、必要な性能が実現できればよいのだ、ただ内断熱は気密シート頼みになる部分があり、一層の技術力と細心の注意(これは住んでからも)が必要ということだった。

 

 南さんのセミナーは、まるでマジックの種明かしをするようで、感動的なものだった。「こういう話が聞きたかった」と泣き出すお客さんもいたくらいだ。そして、参加記念に配られた南さんの著書「高断熱・高気密バイブル」を、宝物を抱えるようにして帰って行くのだった。

 

 さて、後日談。経営的に厳しかった会社の救世主になるかと思われたこの「外断熱の家」をもってしても、収益の悪化を食い止めることはできず、清算という形で会社は最期を迎える。後に知ったことだが、このことにより南さんに多大なる迷惑をかけることになったらしい。

 私は知っている、会社清算の原因はマネジメントにあったことを。今でいう超ブラック企業、社員を駒としか考えない経営手法は、次々と退職者を出していた。「下請けは言うことを聞いていればいい」という上から目線の姿勢が社内に蔓延し、取引先の不平不満を聞くことは日常茶飯事だった。
 外断熱の家とは全く関係のないところでの清算だったのだ。南雄三さんの名誉のために付け加えておく。