カールちゃんとお茶をしたとき、話題になったのがアフィリエイトでした。
「アフィリエイトは、1つしか登録していませんけど」
と、これまた私のよりおいしかったケーキをつつきながら(ひと口味見させてもらいました)、
「先日、ATMで記帳したら、数千円になってました」
「本当? それはすごいわ」
買い物上手な彼女は、お小遣いを作るのも上手でした。
たずねてみました。
「アフィリエイトって、最近よく聞くけど、どういう仕組みなの?」
「広告を、自分のブログやHPに貼るんです。紹介の記事を書いたり。で、誰かがそれを経由して商品を買うと、何%かが自分のところに来るんですよ」
「へえー」
広告代理店を個人でやるようなものかな?
「そんな感じですね」
「たとえば、自分でリンクを貼って、自分で買ったら、その何%かが付く?」
「セルフバックはダメです」
あらら。
「できる物もあるみたいですけれど。できないところのほうが多いですね」
「そうなんだ……」
「あと、新曲の感想をブログで書くと数百円、というのもありますよ」
「そんなのもあるの?」
「面白いですよ」
音楽好きなカールちゃんにとって、それは趣味と実益がマッチしていました。
アフィリエイトの基本について、いろいろ教えてもらいました。
ネットでは最近流行っていたけれど、よく分からなくて遠巻きにしていましたけれど。
ふうむ。そういう仕組みなのか。
知っている人がやっていると、敷居が下がった気がします。
ちょっとひとつ……どうかな?
欲が出てきました。
皆もすなる、アフィリといふものを、我もしてみむとて、するなり。
――しかし。
自分のブログ。
いろいろ商品を貼ってみようとはするのですが、どうもできません。
そもそも日常の天気だの、家族の会話だのしか書いてないので、関係する物が思いつかない。
たまに本やCDの話があるので、ぽつりぽつりと貼れますが、1年分の記事の中で、片手分くらいしかありませんでした。それも、流行からはほど遠いものばかり。
どうも商売っ気がないなあ……。
売ろうとすると、文章が濁るし。
「このネタは売れるか? 売れないか?」で世の中を見始めてきた自分がいて。
うーん……@@@
まあいいか、と思いました。自分は商売下手なようだから、無理はしないことにする。
今までどおりで行こう。
そう考えたら、すっきりしました。
いつものように、家族のことや、季節の風のことを書いていこう。おいしかったお菓子のことも。
詩をつづっていこう。
それが一番いい。
しばらく書いていなかった音楽のことを、書いてみよう。
もしかしたら、ちょっぴりだけ、モノの話題も増えるかもしれませんけど……。
先日、カールちゃんとお茶をしました。
場所は、オープンしたてのショッピングモール。建設当初から気になっていたので、ではそこで落ち合おうということに。
わたしは初めて、カールちゃんは2度目です。
外から見ても広いそのモールは、中に入るともっと広さを感じました。奥のつき当たりが見えないくらいです。洋服、バッグ、雑貨。フードコーナーはもちろんのこと、家電、映画館、銀行の店舗まで入っています。
無いものは無いというくらいの品揃えでした。
わたしはずっと目を丸くして歩いていました。
最近はこういう複合施設が増えましたね。
昔は、奥さんが服を見ているあいだ、ご主人が所在なさげにベンチに座っている、という光景をよく見かけましたが、最近は少なくなりました。
「じゃあ俺は本屋で本を探しているよ」
「ボクは友達と、映画館でポケモンを観る」
なんて、それぞれの時間を過ごすことができるようになったからでしょう。
便利になりました。
面白かったのは、300円ショップ。
よく100円ショップというのがありますが、それの300円版です。
狭いスペースに、よくセレクトされた品物が並んでいて、お客さんがいろいろ手に取っていました。ナチュラル・ベーシックとでもいうのでしょうか、生成りの布やレースを使った、やさしい雰囲気のリビング用品、キッチン用品、アクセサリパーツ。レジャーバッグ、スカーフホルダー、カーテンレールまでありました。
300円という価格のため、品質はそこそこ良く、値ごろ感もあります。
カールちゃんとこれがかわいい、あれはセットになっていておしゃれ、などと言いながら、楽しく悩みました。
わたしの戦利品は、陶器の小物入れ。切り株の形をしていて、上の切り口の年輪が、蓋になっています。
ちょうどようじ入れを探していたので、これにしました。
「ようじでしょう? 入るかなあ?」
カールちゃんは疑わしげ。
「大丈夫よ、入るわよ」
とわたし。
「蓋が閉まらないんじゃないかしら?」
陶器は高さが5センチくらいです。
「もしかしたら、ようじの頭がはみ出てしまう?」
「たぶん」
「うーん」
「それもそうね」
と一度は棚に戻したわたしですが、
「ま、そうなったら、そうなった時のことで」
かわいさに目がくらんで、買ってしまいました。
(案の定、蓋は閉まりませんでした。でもちゃんとようじ入れにしてますよ! 蓋ははずしているけど……)
カールちゃんの戦利品は、ティーポットと、雑貨をいくつか。いい買い物ができた、とうれしそうでした。
きっと忙しい家事の合間に、お茶をいれてくつろぐのでしょう。
そうそう、すてきなバッグも買っていました。手ごろな大きさで、里帰りの1泊旅行にぴったりでした。
結局、1日ですべてを回りきることはできませんでした。
「また次の機会に」
「並んでいたカフェ、今度行きたいね」
両手に戦利品のつまった袋を下げて、2人で建物を後にしました。
モールは、暗くなっても客足がとだえることはありませんでした。
帰っていく人もいましたが、同じくらい、夕飯を食べにくる家族連れや、夕飯の材料を買いにきた仕事帰りの人が、入ってきていました。
外の広場では、なにか出し物をしているのか、人垣ができていました。
等間隔の街灯が、新しい人気スポットになったモールへの道を、明るく誘導していました。

あれから1年がたちました。
休日だったため、世間では慰霊、被災地応援など、さまざまな催しがあったことと思います。
わたしもなにか書こうとして……結局、翌日になっても手が動きませんでした――。
「死は突然やって来る。テロリストのように」
昔読んだ言葉です。
さっきまで普通に笑い、歩き、生活していた人々が、次の瞬間、いっせいに冷たい骸(むくろ)になってしまう。
日常とは、なんともろいものでしょうか。平和とは、なんと危ういものであるか。
祖母も、ある日倒れたきり、10年間意識が戻ることなく、亡くなりました。
「さよならを言いたかった」
そう思います。
亡くなった方々も、わたし達も。お互い。
せめて一言、さよならだけでいいから、と。
いえ……
「ありがとう」のほうが、いいかもしれません。
生きていてくれて、ありがとう。同じ日本に生まれ、いっしょの時を刻んでくれて、ありがとう。
ありがとう……。
この不条理な世界で、空だけは青く澄み。
たむけられた香の煙がはかなげにゆれ、風となって還っていきます。
伝えられなかった、言葉とともに。
風を入れるには、
窓を2ヶ所、開けなければならない。
==========
入れようと思ったら、今ある所のものを、出さなければいけない。お金でも、掃除でも、なんでも言えること。
循環が大切。
(写真:フリー素材ぱくたそ)
学生の頃ほどマンガは買わなくなりましたが、新作が出るたび買う作品がいくつかあります。これはその1つ。
花よりも花の如く(10)』成田美名子(白泉社 花とゆめコミックス)
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主人公の榊原憲人(通称ケント)は能の役者。能仲間との葛藤や、海外公演での出来事などを経験しながら、役者として成長していきます。前作『NATURAL』に出てきた家族も再度登場し、昔を思い出しながら、互いの関係を見直したりもします。
そんな能一筋の憲人に、テレビドラマ出演の話が舞いこみます。異なる演技の世界にとまどう憲人ですが、引き受けることにします。
そこで新たな出会いがあり……
最新刊では、その続きが描かれています。
ドラマで共演した葉月さんに好意を抱く憲人。けれど相手の気持ちが分からない。ライバルらしき人も出てきた。相手のことを考えると、自分の恋愛感情をおおっぴらに出すことはためらわれる。
また、そのことを芸のこやしにしようとする役者魂もあったりする。
自分の気持ち、他人の気持ち……役者としての成長……。
読んでいて「ああ、大人の恋愛だなあ」と思いました。
ケーキの食べ方には笑ってしまいました。本当にあんな食べ方をする人、いるのかな?(気になる人は読んでみてね)
あと、隆生先生(通称ゴッホ先生)の語る、戦後の舞台のエピソードは印象的でした。ほんの1、2ページの話でしたが、その場の空気まで想像してしまいました。
知らなかった能の世界は勉強になりますし、途中から登場してレギュラー化した俳優、琳さんの今後も気になる(次の作品では彼が主役でしょうか?)。
これからの展開に期待します!
持ち直していたパソコン。
夕飯を作っていたら、たまたま早く帰宅してパソコンをいじっていた栗栖さんが、台所に入ってきました。
「ダメだ、またパソコンが壊れた」
「ええ? また?」
私は包丁の手をとめました。
「電源を入れても反応しない。10回くらい入れなおして、やっと画面が出た。そしたら、こんどはキーボードが認識されない。やっとキーボードでパスワードを入力して、入ったら、また動かない」
「あらら」
栗栖さんはイスに座って、うーんとうなりました。
「しばらく快調に動いていたのになあ。ここのところ寒くて、帰ってきてもパソコンもしないで、すぐ寝てしまったからな。3日ほど立ち上げていなかったら、とたんに具合が悪くなった」
「あなたにかまってもらえなかったから、ヘソをまげたのかしら」
なんとなくおかしくなりました。
ところが栗栖さんは大真面目に、
「そうなんだよ。使っていないと、機械が冷え切ってしまって、温まりが悪いんだ」
「車みたいね」
私も合わせてうなづいてみせました。あれはバッテリーだったかな。
「北の、あの寒い部屋で組み立てたんだから、寒冷地仕様だったはずなのに」
「ねえ。パソコンも冷え性になったもんだわ」
まったくだ、と栗栖さんは、なべをかけているガス台に手をかざしながら、
「俺も寒さに弱くなって、すっかり“関東人”になってしまったけど……」
しみじみと、
「パソコンも“関東人”になってしまったとはなあ」
PCが瀕死です。
といっても、私が使っているThinkPadは健在なんですが。
栗栖さんのデスクトップPCが、瀕死の状態です。
以前はそれほどでもありませんでした。
中でディスクがぶれながら回転しているような、ワンワンうなっている音はしょっちゅう聞こえていましたけれど。
でも、それも栗栖さんが本体をゴンとなぐったり (^^;)、私がちょっと押してゆらすと、静かになったものです。
それが数ヶ月ほど前から、カーと、ディスクがどこかにこすれるような音がし始めました。
私が押しても、主がげんこで黙らせようとしても、言うことをききません。
カー……。その音から無数の傷がディスクに生まれていそうな、嫌なかんじでした。
「そろそろ寿命かな?」
「かもしれないね」
二人で顔を見合わせました。
そのパソコンは、栗栖さんがまだ北に住んでいて、私とは遠距離だった頃、パーツを組んで自作したものでした。
10年前のことです。
こちらに引っ越してきたときも、それは栗栖さんといっしょに、車に乗ってやって来ました。
思い入れはひとしおです。
苦楽を共にした相棒の不調に、栗栖さんは悲しそうです。
「今年の夏は越せないかもなあ」
「今年は新しいパソコンを買わなきゃならないわね」
私は家計簿を広げ、積立金をどうやって捻出するか考えはじめました。
予算はいくらくらいかな。メーカーは? NECにしようか、Toshibaにしようか。大きさは? 今までと同じデスクトップにするか、持ち運びしやすいノートにするか……。
「メーカー製は買わないよ」
栗栖さんは、私の案を一蹴しました。
「どうして? 新しいのを買うんでしょう?」
現役の小さなノートブックPCだけ置いて、デスクトップは処分したら、もう買い換えないつもりかしらん。
「違うよ。作るんだ」と楽しげに、「今のパソコンで、大丈夫な部分は取っておいて、次ので使うんだよ」
「使えるの?」
「グラフィック部分は生きてるし、ほかにも色々と」
調べればわかる、と栗栖さんは、工作好きの血が騒ぎ始めたようすでした。
それから週末は、電気屋をいくつかハシゴして、パーツを売っているかどうか、値段がいくらくらいか、を見て回りました。
「だいたい10万くらいかなあ」
「そのくらいでいいの?」
「たぶん。自作すれば」
了解。ではその金額を目標に、これから積み立てを始めるとしましょう。
なんだかワクワクしてきました。パーツを組み立ててどうやってPCが作られるのか、見学できるのが楽しみです。
……と思っていたら。
あれほどうるさかったPCから、異音が消えました。
「持ち直した……かな?」
見学は先送りとなりました。なんとなく残念です。
でも、またいつ調子が悪くなるか分からないので、とりあえず予算の積み立ては、始めておこうと思っています。
「でも……」
自分用のコーヒーをいれながら、私は栗栖さんの手に触れて、
「体は冷えないわよね」
彼の指先は、じゅうぶん温かみがありました。氷の指先に熱を奪われ、ひゃっと栗栖さんは手をひっこめました。
「相変わらずキミは冷え性だなあ」
「寒い寒いとは言っても、ちゃんと自家発電ができてるわよね」
そりゃあね、と彼は手を開いたり閉じたりしながら、
「ある一定の気温になったら、自家発電のスイッチが入るようになってるんだ」
私は感心して、
「それは北国の人みんなができるの?」
「生まれたときからだよ」
「いいわねえ」
「遺伝子に組み込まれてるのさ」
それはすばらしい、それができている間はまだあなたは北の男だ、という話をしているうちに、出勤の時間になりました。
雪はまだ止みそうにありません。
前の道路を、小学生たちが走っていきます。小さな長靴が、雪をけちらしています。後にはぬかるんだ足跡が点々と残っています。
栗栖さんは白い息を吐きました。
「こんな大きな雪は嫌だなあ。べしゃべしゃしてて、しみこむし、歩きにくいし」
「そうでしょうね」
「北海道では雪は細かくさらっとしていて、体に付かないんだよ」
「滑りやすいかも。気をつけてね」
「慣れてるから大丈夫」
「それもそうね」
歩きにくさに同情していると、でもね、ちょっと嬉しいんだよ、と栗栖さんはドアを開けながら、にっこりしました。
「北国ではね、ボタ雪が降ると、春が近づいてきた証拠なんだ」
そう言って、北国の心を持つ、関東の男は、出勤していきました。
雪は音をたてて降り続けています。
空気は底冷えのする冷たさです。
今日はうるう日の2月29日。
明日から、3月です。
とたんに元気になる関東人です。
階段をいつもの2倍速で下りて、
「栗栖さん、雪だよ!」
「おお、雪だね」
栗栖さんは、タバコをぷかりぷかりと吸いながら、おはようと言い、
「またよく積もったなあ」
ややうんざりした顔で窓の外を見やりました。
北国出身の彼にとって、雪イコール雪かきです。関東の人間にはうかがい知れない重労働を、思い出しているようでした。
この冬は例年になくよく雪が降りました。今日はいちばん積もったようです。
「音がするから、もう雨になるんじゃないかしら?」
「いや、雪のほうが増えてきているみたいだよ」タバコを耳のあたりで振りながら、「音がだんだんしなくなった」
「あら本当」
たしかに、降ってくるものが白さを増している気がしました。
「今日は冷えるなあ」
栗栖さんがぶるっとして両腕をこすりました。
「寒い?」
「うん」
「前は大丈夫だったじゃない」
「もう俺は関東人になったんだよ」
「ええ?」驚いて笑ってしまいました。「いつ? あれほど寒さに強かったあなたが」
そうなのさ、と栗栖さん。
「今年かな? それとも去年? ま、とにかく俺は、寒いのがダメになった」
「まああ」
なんと、11月でもTシャツに短パンで歩いていた北の男は、滞在7年目にして、ついにやわな関東人になってしまったのでした。








