「でも……」
自分用のコーヒーをいれながら、私は栗栖さんの手に触れて、
「体は冷えないわよね」
彼の指先は、じゅうぶん温かみがありました。氷の指先に熱を奪われ、ひゃっと栗栖さんは手をひっこめました。
「相変わらずキミは冷え性だなあ」
「寒い寒いとは言っても、ちゃんと自家発電ができてるわよね」
そりゃあね、と彼は手を開いたり閉じたりしながら、
「ある一定の気温になったら、自家発電のスイッチが入るようになってるんだ」
私は感心して、
「それは北国の人みんなができるの?」
「生まれたときからだよ」
「いいわねえ」
「遺伝子に組み込まれてるのさ」
それはすばらしい、それができている間はまだあなたは北の男だ、という話をしているうちに、出勤の時間になりました。
雪はまだ止みそうにありません。
前の道路を、小学生たちが走っていきます。小さな長靴が、雪をけちらしています。後にはぬかるんだ足跡が点々と残っています。
栗栖さんは白い息を吐きました。
「こんな大きな雪は嫌だなあ。べしゃべしゃしてて、しみこむし、歩きにくいし」
「そうでしょうね」
「北海道では雪は細かくさらっとしていて、体に付かないんだよ」
「滑りやすいかも。気をつけてね」
「慣れてるから大丈夫」
「それもそうね」
歩きにくさに同情していると、でもね、ちょっと嬉しいんだよ、と栗栖さんはドアを開けながら、にっこりしました。
「北国ではね、ボタ雪が降ると、春が近づいてきた証拠なんだ」
そう言って、北国の心を持つ、関東の男は、出勤していきました。
雪は音をたてて降り続けています。
空気は底冷えのする冷たさです。
今日はうるう日の2月29日。
明日から、3月です。
