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統合失調症 

 治療

 普通、病気の治療と言うときは、その原因となっている問題を修復して症状を除去することを指します。しかし、統合失調症という病気は、残念ながらその根本的な原因がまだよくつかめていません。最近の研究では「ドーパミン」やそれに類似の脳内物質の問題が取り上げられていますが、現段階では何とも言えません。このため統合失調症の治療は原因を取り除くということよりも、幻聴や妄想といった症状を取り除こうという、いわば対処療法に近いものになっています。風邪で言えば咳止めたり、鼻づまりをとってしまおうということです。今の科学で原因がわからない以上、治療の現場で原因論をうんぬんしていてもはじまらないわけで、とりあえず症状を無くしてしまえば、病気も無くなるというのが現実的な考え方でしょう。

 統合失調症の治療の中心は薬物療法です。つまり、お薬を飲むことです。当たり前のようですが、実は先にあげたように統合失調症の治療が症状に対する対処療法であることを忘れると、治ったと思って簡単に薬をやめてはまだぶり返し、また薬を飲んではやめるという、堂々巡りにおちいりやすい傾向があります。統合失調症は今のところ糖尿病などと同じように慢性的な病気の仲間に入りますので、本人も家族も服薬の継続については注意していただきたいところです。
 近年、薬の開発は非常に進んでおり、幻聴や妄想といった陽性症状には特にその効果が大きくなっています。2~30年ほど前は電極をつけて電気を流す電気ケイレン療法や糖を分解するインシュリンを投与して脳内に刺激を与えるインシュリンショック療法などが多く行われていましたが、現在はこうした療法を使う場面はほとんどなくなっています。また、最近でも本によっては「進行性で、やがて人格の荒廃にいたる…」などという恐ろしい記述を見かけますが、実際にはそういう人は少数で、ほとんどの人が再発やぶり返しはあってもほぼ進行していないと思われる状態で経過しています(私の狭い経験からですが、私自身も「荒廃する」と書かれた教科書で勉強しましたが、実際病院に勤めてから、発病してすみやかに人格が荒廃していったという人は今のところ見たことがありません)。最近、精神科医療の現場では統合失調症の軽症化が話題に上ることが多くなっていますが、こうしたことはやはり薬の進歩によるところが多いのです。

 病院の治療では作業療法というものも行われています。薬の進歩は明らかなのですが、その薬も陰性症状についてはまだ多くの面で課題を抱えています。陰性症状は生活意欲の問題と関係がありますので、さまざまな活動の場を用意し、それに取り組んでもらうことで精神的な活力を落とさないようにしていくことが必要です。活動には園芸や木工などの簡単な労働系のものから、スポーツや遊びを取り入れたレクリエーション系のものなどいろいろなものが考えられています。最近では病院だけではなく、地域の保健所を中心に「デイケア」と言って、退院後もそうした活動の場を広げていこうという試みも盛んになってきました(病院での活動の紹介は「2番ホーム」をご覧ください)。

 精神療法やカウンセリングも行われています。これらは統合失調症の直接的な治療というわけではありませんが、精神病という病気を背負って生きるという現実の重さを少しでもやわらげ、その人なりの生き方を見つけていくということも治療に含まれる大切な役割であると考えられるからです。

 また、治療には家族の協力はかかせません。家庭内の不和や仕事への焦りが再発を招きやすいことはよく知られています。特に幻聴や妄想などに強く影響を受けている時は家族もそれに巻き込まれやすいので注意が必要でしょう。幻聴や妄想は本人にとってもどうすることもできないことなので、それをうち消そうと家族が躍起になってもほとんど成功しません。むしろ、相互の関係がこじれるばかりになりがちです。幻聴や妄想の影響が強いと思われるときは、そうした話題を広げたり深めたりせずに、話題を切り替えていく方が無難です。どうしてもそれができなくなってきているならば、早めに病院に相談する方がよいかもしれません。
 日常の生活についても家族は心配のあまり消極的になりがちです。その気持ちもわかりますが、長期的にみると本人の依存性が増して、できていたこともできなくなるということがあります。統合失調症には陰性症状という問題がありますので、こちらも注意していく必要があるのです。病状が安定してきたらまずは身の回りのことからでかまいませんので、自立を助けるような援助を考えていくとよいと思います。家族で判断が付きにくい時は、こうした生活の知恵こそ、主治医の先生とよく相談していくことが大切です。

 このように統合失調症は明確な原因が究明されないまでも、さまざまな角度からの治療が行われています。残念ながら欧米に比べると日本の精神科医療は立ち後れているという批判が多くあるのも事実ですし、いまだ発展途上の段階にあることも認めざるをえません。しかし、統合失調症の問題は医学的にも進歩し続けていますし、社会的な問題からも注目されつつあります。本人も、家族も、そして医療者もあきらめずに病気克服に向けて前進し続けていく気持ちを失わないことが、今は何よりも大事なことなのです。