【8098】稲畑産業/豊富な政策保有株式の処分で、業績によらず高配当を維持か。 | なちゅの市川綜合研究所

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【8098】稲畑産業(東証1部)  OP

現在値 1,404円/100株 PER8.05 PBR0.55 3月配当 9月配当・株主優待

化学品専門商社。住友化学系だが稲畑オーナー色も。アジア広域展開。
配当金は3月・9月の計53円配当のため、配当利回りは3.77%となります。

稲畑産業は株主優待制度を実施しており、9月末に100株以上を6ヵ月以上保有する株主に対して、1,000円分のクオカードを進呈しておりますので、配当優待利回りは約4.48%となります。

業績を確認していきます。   
■2017年3月期 売上高 5,866億円、営業利益 126.1億円、EPS 156.3円 
■2018年3月期 売上高 6,221億円、営業利益 59.6億円、EPS 109.9円 

■2019年3月期 売上高 6,347億円、営業利益 140.3億円、EPS 211.4円 
■2020年3月期 売上高 6,003億円、営業利益 132.2億円、EPS 188.8円

■2021年3月期 売上高 5,500億円、営業利益 120.0億円、EPS 174.4円 ce修正(11/5)
□2020年9月2Q 売上高 2,671億円、営業利益 62.1億円、EPS 97.2円(11/5)


2020年9月中間期の売上高は前年同期比13.1%減の2,671億円、営業利益は同12.8%減の62.1億円となり、2桁の減収減益となったものの、対予算では大幅に上振れして着地しました。主力の合成樹脂事業については、樹脂コンパウンドを軸に好調を続けてきたものの、新型肺炎禍の本格化により自動車向けが低調に推移しました。同様に化学品事業については樹脂原料、塗料・インキ等が低調だったほか、生活産業事業も回転寿司向けが好調だった食品事業を除いて、医薬原料が苦戦しました。その一方、第2の柱である情報電子事業については、巣ごもり需要の拡大により、中国パネルメーカーの高稼働が続きTVやノートPC用のFPD部材が順調に推移したため、当該セグメントが全社業績を大きく下支えする形で上振れ着地となりました。


2021年3月期の通期見通しは1Q時点で公表に踏み切っていましたが、上期の順調な業績進捗を鑑み利益のみ増額しており、売上高は前期比8.4%増の5,500億円(従予:UNCH)、営業利益は9.3%減の120億円(従予:95.0億円)に修正しています。主力の合成樹脂事業について、フィリピン・インドネシア・タイといった東南アジア領域における自動車分野が上期のロックダウンを経て、下期に急回復していることなどから、新型肺炎の影響が想定より軽度で済む見通しとなったことが主たる要因です。また情報電子事業については、どちらかというと新型肺炎が“追い風”となる分野であり、上期に引き続きFPD部材の好調持続が見込まれるほか、在宅勤務の増加により家庭用のプリンター等が一段と伸長する見通しです。


今期は4年中計「NC-2020」の最終年度となっており、当初この2021年3月期に売上高7,300億円(CAGR5.6%)、営業利益155億円(CAGR5.3%)を見込んでいましたが、新型肺炎の影響もあり、今次公表の予算は全くこの水準に届かないことから、大幅未達が確定的となりました。本来の重点施策は海外事業の強化により、海外比率を53%→70%にまで引き上げるほか(直近期実績は53%)、従来より注力してきた自動車・医薬・環境・エネルギー等の成長分野にくわえ、農業分野での本格展開を狙う方針でしたが、実際に伸びたのは自動車向けの高機能樹脂や液晶原料など一部に限られており、最終年度となる今期は新型肺炎の影響を色濃く受けたものの、その影響なくとも進捗に物足りなさを感じるような状況でした。

 

例えば、医薬品原料領域における臍帯由来細胞の供給といった再生医療分野に取り組んでいるものの、研究を開始して未だ1年程で上市まで相当な時間がかかるほか、農業領域におけて北海道でブルーベリーやニンニクの栽培を開始していますが、こちらも商業収穫を開始したのは昨年といった具合です。取組が比較的進んでいる情報電子事業では、太陽電池やリチウムイオン電池を軸に水素発生装置や、小型風力発電、バイオマス発電といった再生可能エネルギー関連の取り扱いを増やしており、現時点で伸びシロがありそうなのは当該分野のみといった状況です。

 

そのため、次世代事業の育成が殆ど出来ていないことから、一部の成長領域を除いて化学品“市況なり”の業績確保が精々と思われますが、中計に掲げる財務目標の「ネットD/Eレシオ0.4倍以下」については、足許ベースで0.08倍と良好な水準を維持出来ているため、今後の成長の如何はこの財務余力を活用したMAの有無によろうかと思われます。


なお株主還元に関しては、総還元性向30%~35%をターゲットとしており、うち配当性向を25%程度としていますが、この1Q時点で未定だった配当予想を据え置きの年53円とし公表しています。なお、当社は豊富な保有有価証券の売却を進めており、直近5年で実に230億円程の政策保有株式を処分しています。業績の仕上がりの如何によらず、それを原資に配当する意向があることは確認されており、なお600億円程の有価証券を有していることから、当面は高水準の株主還元の継続が期待されます。

 

*参考記事① 2020-08-08 1,220円 OP

【8098】稲畑産業/成長投資進まず財務余力もて余すが、配当据置の公表はポジティブ。

 

*参考記事② 2017-12-30  1,709円 OP

独子会社事件で、新4年中計は出端挫かれる・稲畑産業(8098)。

 

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