かねてより携帯通信料の引き下げに言及していた菅氏が首相に就任したということもあって、収益悪化懸念から通信各社の株が下落ペースを早めています。菅氏の持論は「40%の下げ余地がある」ですが、月額たった1,000円下げるだけでも通信キャリア各社の利益が半分吹き飛ぶとも観測されているため、収益へのインパクトはかなりのものが想定されます。
勿論、現実的ではNTT(ドコモ)やKDDIなどは色々な意味で力のある会社なので、菅氏が放ったhigh ballである40%下げるところまでは踏み込まず、既に大容量プランについてはは値下済であるという立場を採りつつ、「新規で所定のプランを契約した人や、所定の契約切替手続きを済ませた人限定で20%~30%引」とかそういう“大人の落とし所”を探る動きになることとみられます。
仮に全く手続きをしない人の存在や、値下げプランへ移行するタイムラグにより、実質的な収益悪化を15%と仮定し、本件騒動前のみなし株価をドコモを3,000円/KDDIを3,200円とするなら、再バリュエーション後の株価はドコモ2,550円/KDDI2,720円となり、おおよそ目下の株価でそのくらいのシナリオまでは織り込まれてるということになります(註:ドコモはまだ150円の下げ余地が存在するものの、同社の大きな顧客基盤であるジジババ顧客層は当初契約プランのまま全く手続きしない可能性もあり、想定より収益が毀損しないため上乗せ評価も可能ではある。)
そしてそのシナリオに立てば、そろそろ目先の底値圏に到達・・・という見立ても出来ますが、そこで気になるのが外国人投資家の存在です。彼らは首相のひとことで利益の数割が簡単に吹っ飛んでしまう「ディフェンシブでもなんでもない」極東の島国の通信各社をわざわざ買うことのリスクを改めて意識しているとみられ、既にポートフォリオから外す動きが出ていると考えられます。そうなると上述のシナリオによらず、保有株を全株処分という判断も考えられ、その場合は上述の値下げによるバリュエーション悪化分以上に、株価的には下にオーバーシュートするような展開も想定されます。要はESG観点で「保有していることそれ自体が拙い」、とされるタバコ株や石油株と似たような捉え方をする外国人投資家が相応に存在する場合、その膨大な売り圧力を一旦こなさなくてはならないこととなります。
そのため、そういう処分売りが出尽くすまでは配当利回りといったモノサシはワークしずらく、逆張り感覚で通信株を買い向かうにしても、例えばもの凄い出来高を何日も連続でこなすとか、平時とは違ったモノサシで見て、政策の動向等をにらみつつ、時期も分散して慌てずに買うことが肝要かと思います。通信株は中長期軸では国策銘柄ですが、短期軸では反国策銘柄の色が出やすい状況と言えます。
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