【5019】出光興産/中計配当金下限160円を早期に反故、新ガイドの提示が待たれる。 | なちゅの市川綜合研究所

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【5019】出光興産(東証一部) BY

現在値 2,371円/100株 PER140.9 PBR0.69 3月配当 9月配当 株主優待なし

石油元売り2位。石油化学や原油・石炭開発も。昭和シェル石油と2019年4月に経営統合。

 

今期予想配当金は年2回・合計120円のため、配当利回りは約5.06%となります。
出光興産は株主優待制度を導入しておりません。

業績を確認していきます。
■2017年3月期 売上高 31,903億円、営業利益 1,352億円 EPS 551円 

■2018年3月期 売上高 37,306億円、営業利益 2,013億円 EPS 845円 

■2019年3月期 売上高 44,251億円、営業利益 1,793億円 EPS 401円 

■2020年3月期 売上高 60,450億円、営業利益▲38.6億円 EPS▲76円 

■2021年3月期 売上高 39,000億円、営業利益 600億円 EPS 16円 ce

□2020年6月1Q 売上高 9,822億円、営業利益▲707億円 EPS▲273円(8/6) 

□2020年9月2Q 売上高 18,000億円、営業利益 200億円 EPS▲26円 四e


2020年3月期は前期初から昭和シェルを100%連結したと仮定した概算値との比較を前提として、売上高は前期比12.0%減の60,450兆円、実質利益(表記の営業利益に持分法利益を足し、在庫影響を除したもの)は同2,554億円悪化の▲262億円となり、中間時点の減額予算を更に下回って着地しました。主力の燃料油において、米中貿易摩擦等に端を発した油価下落によるスプレッドの縮小や、昨年より商用運転を開始したニソン製油所で設備トラブルが発生し、かかる修繕が完了する年末まで生産量が減少し持分利益取込が減少したほか、営業外でも株式評価損の計上を余儀なくされています。また、期中で平均油価前提を1バレルあたり70.0$→63.1$に減額したものの、新型肺炎ショックで着地では60.3$まで低下しました。また、潤滑油等を扱う基礎化学品事業についても、中国の減速が響いたほか、太陽電池も想定以下となりました。利益面については、昭和シェルとの統合シナジーにより想定を超える350億円分を創出したものの、油価暴落の影響が大きく、期末にかけて在庫評価損とタイムラグ損を1,700億円超計上して、赤転となりました。


2021年3月期の通期予算は期初時点から開示しており、売上高が前期比35.5%減の3兆9,000億円、実質利益は同512億円の良化となる250億円を予想しています。足許の油価市況を踏まえて、通期のレート前提を1バレルあたり60.3$→30.0$に引き下げたほか、3月実績水準の販売数量の減少を通期で見込むなど保守的な前提を置いています。去る8月6日に1Qが開示されており、売上高については前年同期比33.4%減の9,822億円、事業利益は同1,303億円悪化の▲975億円の赤字に転落しています。然しながらこれは在庫評価損の影響が大半であるほか(バレル24$で在庫を再評価)、1~3月の油価急落による在庫影響やタイムラグの影響を受けたニソン製油所の持分取込損失が▲300億円程あったとみられるため、見た目の数字程は悪くないものと推察され、期初予算はまだ達成可能な状況にあると考えています。

 

当社は昨年4月の昭和シェルとの経営統合が完了したことから、これまでの中期経営計画を1年ローリングしており、進行期を起点とした3年後の2023年2月期に実質利益2,600億円(CAGR16%、今期落着見通し1,680億円が前提)、ROE10%超、FCF4,000億円を新たな目標に据えています。主な成長ドライバーは、総事業費1兆円のうち当社が1,500億円を投じた10年越しのプロジェクトであるベトナム・ニソン製油所(JV:ベトナム国営石油、ペトロベトナム、三井化学)であり、2018年12月より商用運転を開始しています。昨年は設備トラブルもあり、やっと年末に修繕を終えてフル操業に入ったものの、油価の暴落により中計最終年度頃に見込まれていた黒字化が遠のいた印象です。

 

そのため、ニソンは足を引っ張ることはあっても、収益ドライバーとは期待しずらく、昭和シェルとのシナジー効果も早期発現済で目標の年額600億円のうち350億円程度を既に良化させてしまっているため、伸びシロの残りが少ない状況です。潤滑油のほか、有機EL材料・バイオマス燃料といった新商材や、太陽光電池の黒字化といったドライバーもあるものの、そもそもの大前提として油価を1バレル60$に置いてしまっているので、足許時点の油価(40$)を鑑みれば現在の中計の業績目標は既に画餅的な数値と化しています。

 

他方、最大の投資論点である還元方針については、今次中計発表で「総還元性向50%」にくわえて、配当金下限を160円に定めたほか、還元額の10%以上を自社株買いすることとしていました。然しながら、新型肺炎禍による油価暴落による環境の激変もあり、期初の配当予想を見送っただけでなく、今次1Q公表時に中計下限を40円下回る年120円の配当予想を開示しました。減配自体は仕方ないものの、早期に下限を破ったのはネガティブであるほか、この120円についても新下限というガイドは現状なされていないため、会社側のスタンス開示が望まれます。

 

*参考記事① 2020-03-06 2,664円 BY

【5019】出光興産/ニソン製油所モタつくも、配当金フロア160円に安心感。

 

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