百日紅 | 仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

ピアノ調律師をしています。何気ない日常の中に密かに隠れている輝きを見つけたい、そんなことを考えながらつらつらと書いています。

「キミ、象牙って、英語でなんていうか知ってる?」


現役女子高校生(英語科)と話すのなんて何年かぶりだったので、舞い上がってしまったことは否めない。





「えー?エレファント…トゥース?あ、それは歯か…」


「象牙は、Ivoryだよ。」


「えー、そうなんですかー?すごーい‼️」


リアクションが思いのほか良かったことに気をよくした僕は、さらに続けた。


「ぐっすり眠るは、グッド・スリーブから来てて…」


「なるほど〜」


「ロードは道路からで…」


「……」


「ダッシュは、奪取…」


「……」


この頃から、彼女の視線は、奥で作業を続けている仲間に助けを求めていることに、薄々気づいていた。


それでも、そんな心の警告を無視して、僕は自分へのリスペクトを期待したのが間違っていたなんて、そのときには知る由もなかった。


「神社はジンジャー(生姜)に通じるものがあるわけで…」


ふと気がつくと女子高校生は仲間と奥の方で作業に戻っていた。




工房からの帰り道、


街路樹の中の百日紅の赤い花だけが、妙に優しく僕に微笑みかけてくれていた。