「キミ、象牙って、英語でなんていうか知ってる?」
現役女子高校生(英語科)と話すのなんて何年かぶりだったので、舞い上がってしまったことは否めない。
「えー?エレファント…トゥース?あ、それは歯か…」
「象牙は、Ivoryだよ。」
「えー、そうなんですかー?すごーい‼️」
リアクションが思いのほか良かったことに気をよくした僕は、さらに続けた。
「ぐっすり眠るは、グッド・スリーブから来てて…」
「なるほど〜」
「ロードは道路からで…」
「……」
「ダッシュは、奪取…」
「……」
この頃から、彼女の視線は、奥で作業を続けている仲間に助けを求めていることに、薄々気づいていた。
それでも、そんな心の警告を無視して、僕は自分へのリスペクトを期待したのが間違っていたなんて、そのときには知る由もなかった。
「神社はジンジャー(生姜)に通じるものがあるわけで…」
ふと気がつくと女子高校生は仲間と奥の方で作業に戻っていた。
工房からの帰り道、
街路樹の中の百日紅の赤い花だけが、妙に優しく僕に微笑みかけてくれていた。