「に・じ・い・ろ…」
車のプレートのナンバーで精算するコインパーキングのタッチ画面を操作しながら、僕はひとりごちた。
僕の古いマリンブルーのスバルのナンバーは2416…「虹色」なのだ。
突然のゲリラ雷雨のあと、建物のあいだに窮屈そうに現れた輪郭のはっきりした虹の断片は、
僕が、普段口にしているその独り言の口角を、微妙にあげてくれた。
「グランドピアノ2台置いて、他の珍しい楽器とか…そうそう、ドイツ語まで教えられるような、そんな教室を作りたいんです。」
1年前、そう言って目を輝かせながら、僕の小さな工房から古いヤマハのグランドピアノを彼女は迎え入れた。
教室の物件はまだなかった。
それでも、行動に移した彼女は、この夏に防音室を完備した小さな音楽教室を友だちと開いた。(さすがにグランドピアノは一台しか置けなかったようだが。)
開校のお祝いに小さな花束を作ってもらいながら、僕は、彼女の名前が花の名前であることに気がついた。
その花の名前が「仰(あおぐ)日(ひ)」の意味で、向日性があることを知ったのは、その後のことだ。
「ドイツの本物の音楽や芸術を感じてほしいんです。」
そう言いながらペットボトルのお茶を運送屋さんと僕に手渡してくれた。
僕はそのお茶をゴクゴクと飲みながら、このピアノ教室の発展の祈りを、水滴にくっついてきたそのお茶のレシートと一緒に、
そっと胸のポケットにしまった。