仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

ピアノ調律師をしています。何気ない日常の中に密かに隠れている輝きを見つけたい、そんなことを考えながらつらつらと書いています。

ピアノの調律で出会ったピアノ、持ち主様とのなんとも深いストーリーを書いていきます。また古いものが大好き。特にイギリスのアンティークなんて良いですね❗手巻きの時計とか万年筆とか古い椅子とか、思い入れのあるものについても綴っています。

「間に合ってよかったです。」


3月にぬいぐるみを製作してくれたとき、特に急いでいなかったにもかかわらず、そう言ったテディベア作家さんの言葉の意味が、今になって身にしみる。


彼女は、仲間が描いた太い眉毛の犬と猫のイラストを、自分のテイストではないと言いながら、快くぬいぐるみにしてくれた。


そのときすでに自分の時間が尽きようとしていることを理解していた。


限られた時間の中で、僕なんかのほんの思いつきのリクエストを、最優先にしてくれた。


作家の命が宿ってるそのぬいぐるみが、お母さんがいなくなって寂しくないように、僕たちはそれぞれに仲間たちで囲んであげた。








「一年ぶりだね、この一年、誰か君を触った?」


「いや、誰も。あ、でも卓球の壁打ち代わりに、ピンポン球はバンバン当たってたけどね。」


古いヤマハが、自嘲気味にそう呟いた。


今はもう使われていない教室の片隅にそのアップライトピアノは埃だらけで佇んでいた。


それでも一年に一度の調律に、僕はその学校から毎年呼ばれている。もう20回目の調律になるだろうか。


誰も弾くことのないそのピアノは、毎年少しずつ劣化していた。


正規の調律料金の半分にも満たない金額で、僕は、調律の他に弦の錆を落とし、切れたフレンジコードを貼りなおす。


「いや、そんなことしてくれても誰も弾かないから意味ないよ。」


申し訳なさそうにヤマハが言った。


「ねえ、こんな言葉知ってる?


『明日、世界が終わるとしても、今日、私は林檎の木を植える。』


僕はそう言いながら、錆ついたチューニングピンにハンマーを刺した。










「ほら、まだ使ってるんだよ。」

中学生のときに母がレザークラフトで作ってくれたペンケースを母に見せた。

母が顔をほころばせたその時、

隣にいた姉が、言い放った。

「そんなに古いの、もう捨てちゃいなさいよ。」

「………」

週に一度しか会いに来れない僕は、毎日母の世話をしてくれてる姉に何も言い返すことが出来ずに、

「そうだね。」と、笑いながら、革の糸がほつれて色褪せたそのペンケースを、そっとカバンにしまった。