仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。 -2ページ目

仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

ピアノ調律師をしています。何気ない日常の中に密かに隠れている輝きを見つけたい、そんなことを考えながらつらつらと書いています。

(もう少しだ…がんばれ自分…)


ピアノの修理も佳境に入り、額にはあぶら汗が滲んでいた。


もう、ずいぶん前から右脇腹と背中が痛い(T . T)


飲み続けていたカロナール(痛み止め)も効かなくなってきた。


きっと胆石とか、胆嚢炎とかだ。


いや、もっと酷いかも(T . T)


引き攣った笑顔で仕事を終えたあと、

死にそうな様相で、病院に辿りついた。


物々しい雰囲気の中、腹部超音波検査が実施された。


技師の女の人(おばさん)が僕の下腹部にゼリーを塗り塗りして器具でなぞる。


(すみません、手を握っててもらえませんか?)


などと言えるはずもなく、一人不安の中で震えてた。


彼女は少し険しい表情で、モニターを見ている。


「あの…、何か…胆石とか、腫瘍とかありますか?」


恐る恐る聞いた。


「むむむ…これは…


むむむ…


むむむ


虫垂炎ですね。」


(……虫垂炎…)


抗生剤が処方された。


一応、心配してくれていた仕事の仲間に伝えた。


翌日届いたメールに、返す言葉が見つからなかった。


「ぎょう虫が、いたんですって?、大丈夫ですか?」





「ただいま〜‼️」


「おかえりなさーい、あらあら、ずぶ濡れじゃない!傘持ってなかったの?タオルタオル…」


おばあちゃんに出迎えられながら、おやつを食べて、宿題を済ませ、ピアノの練習を少しだけ。


鍵っ子(死語?)だった僕の遠い記憶が、少しだけ胸を締め付ける。



こういう記憶の片鱗が


やがて自分の人生を支えていくことを


幼い彼女はまだ知ることはないだろう。


「ピアノの引き取り、月末まで待ってもらうことなんて、無理ですよね。無理なら大丈夫です!無理なら…」


買い取ったピアノの引き取りの当日、嫁いていった娘さんが、最後にピアノを弾きたいと言ってるらしい。


もう当日だし、運送屋さん向かってると思うから、断ればそのまま引き取りになるはずだった。


それでも、やっぱり、きちんとお別れさせてあげるべきだと思ったのは、


最近の自分が少し弱ってきたからなのかもしれない。運送屋さんには僕から頭を下げた。


月末になり、お客様からメールが届いた。


「本日雨に降られることなく無事搬出していだたきました。


娘も先週里帰りして色々な楽譜を出してきて1日中思う存分弾いておりました。


キチンとお別れできたのも高永さんのおかげです。古いピアノなのに壊されることなく職人さんの方々にまた命を吹き込んでもらえることが何よりの喜びです。」


(キチンとお別れか…)

 

僕は台風が過ぎたあとの大きな雲が低く流れる空を見ながら、


広末涼子が、本木雅弘に「触らないで!汚らわしい!」と罵った職業を、最後には


「あの人は、納棺師なんです。」と誇りを持って言う映画「おくりびと 」を思い出していた。