優しい音色「ちょっと待っててください」眠そうな目をこすりながら、少しだけ玄関のドアを開けて彼は言った。僕たちがピアノの修理をしている横で、彼は母親につつかれながらテーブルの上に広げられたワークブックと格闘していた。人には言えないそれぞれの悩みを垣間見ながら一日がかりの修理を終えた。リフレッシュされたピアノを弾く中学生男子の奏でる音色は少しつっけんどんな言葉とは裏腹な、優しく繊細な心が表れていることに僕も母親も気づいていた。