その日、その男はいつもと変わらずお参りに来ていた。


いつもの場所に腰掛け、いつものように挨拶、そしてジッポで煙草に日火を付ける。


僕はこの前のお礼を言いつつ、世間話しを始める。


その男は僕に興味を持ったようで、いろいろと話始めた。



「今日はぜんぜんダメだな。」


「株ですか?」


「そうです。」


彼は少し渋い顔をしながら僕に言った。



こういう何気ない話をしながら徐々に僕とその男の距離が近間っていくのであった。



その時の記憶は不鮮明であるが、ある日僕は自分の話をしたことがあった。


中堅会社の営業マンで全国を飛び回っていたこと、そしてその会社でトップクラスの営業マンであったこと、

次に勤めたゴルフ関連の会社で全国2位の売り上げを上げていたこと・・・etc



「私の会社に来ませんか?うちの会社のディーラーで年収2800万円がいますよ。

うちの会社に欲しいな~。」



そう言われた僕は、少し気持ちが動いた。


なぜなら、今の仕事に非常に不満を持っていたからだ。


今の職場に就職したのもスカウトされてのこと。


しかし、入社する前の条件、仕事内容、環境、そのすべてが偽りだったからだ。



もちろん、どの会社も話が違うことはある。


しかし、本当に詐欺にあったのと同じ状況だったのだ。


休みは月に6日、忙しい時期は月の休みが2日しか取らせてもらえないのだ。


明らかに労働基準法違反。




しかも、ここの経営者には人間的な魅力がなく、従業員をただの駒としか考えていない。


とにかくこき使うだけ使って、給料や賞与の時期になると、とにかく恩を着せる情けない男だ。


自分のおかげでおまえ達に給料を出してやることができてるんだ!みたいなね。



ちょっと話はそれたが、このことはまた次に詳しく話したい。


                                              つづく


その日もその男は神社を訪れ、いつものように車から降りお賽銭箱の前にお参りをした。



そしていつものベンチに腰掛け、巫女の動きを目で追っていた。



僕はいつものようにその男と挨拶を交わす。



こういう日々がどれくらい続いただろう。





その男は、以前その男の経営する投資会社が買収したという、全国でも有名なケーキ店TOPZのケーキを持ってくると僕に約束した。


僕はその男の話を信用した。


周りの職員達も信用した。


これが僕の人生が激変するすべての始まりであった。




ある日その男は、熊本の某有名ケーキ店KITAのケーキを神社の職員全員に、そして僕には別に持ってきて、「おみやげです。食べて下さい。」と言った。


この時に何故気付かなかったんだろう・・・




その男はケーキ店TOPZのケーキを持ってくると言ったのに、違う店のケーキを持って来た。


この時に僕は違和感を感じていたはずなのに・・・


あれ?TOPZのケーキはどうなったんだろう?


そのとき不思議に思ったのを僕は覚えている。



1週間ほどたったある日、いつものように神社を訪れたその男は、明日から渡米するとみんなの前で言っていた。


渡米するということで、お守りを買い求めていた。



僕はこの前のケーキのお礼にということで、テレビ番組で紹介された大分のある名物を渡した。


賞味期限も近かったこともあり、アメリカに行くのであればすぐに渡す必要があると思ったのだ。


その男は嬉しそうにこう僕に言った。



「おみやげ買ってきますね。」


「ありがとうございます。気をつけて。」



その後1週間ほど、その男は神社に来なかった。



しばらくして、またその男は神社に現れるようになった。


その頃になると、その男は神社の待合室に長居するようになっていた。



神社の職員である和田さんと親しくなり、和田さんはその男が現れると巫女にお茶を入れさせた。


巫女がお茶を出すと、その男は深く頭をさげお礼を言った。


こういう光景が毎日続くようになっていった。



僕を含め、和田さん以外の他の職員は皆、和田さんがまた金持ちを捕まえた、と認識していた。


また和田さんが・・・・金持ちを捕まえた。。。



この和田さん、まさに曲者。


過去にも金持ちに近寄っては、金持ちから本性を知られ逃げられる。。。。



この繰り返しだった。



しかし和田さん、その男にまさか騙されているなんて思いもしないんだろうな~



                                                  つづく




その数日後、和田さんからその男の仕事を聞かされて驚いた。



事故で足が不自由になったらしく、頭を使って稼いでいるとの話だった。



頭を使って稼いでいる?



一体何をやってるんだろう???



よくよく聞くと、投資ファンドの社長らしい。



その男は、今回、某有名な洋菓子店を買収したとか何とか言っていたのを思い出した。



その男とは挨拶を交わすようになって、日に日に親しくなっていった。



「今度その店のケーキを持ってきますね!」



その男は誇らしげに僕にそう伝えた。



今思い出すと、その話も虚言だったのだろう。



今度と言いながら、一向にケーキが届かなかったことを今、ふと思い出した。



あれも嘘だったんだ!



今、確信した。



結局、今度今度と言いながらケーキは届かなかった。



しばらくして、違う店のケーキが届いたのを覚えている・・・・



そして、またその男は新たな嘘を重ねるのであった。




                              つづく