大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版 2016年XX月 | 大腸癌(直腸癌)とある患者の所感

大腸癌(直腸癌)とある患者の所感

「治療は患者との相互理解のもとに行っていくものである」という考え(アドヒアランス)に同意し、情報を集め分析しています。
「治療は医師の指示に従う」という考え(コンプライアンス)だけで、がん治療を乗り切れるとは到底思えないからです。

 

【警鐘】 もし、2010年04月から2015年03月までのKRAS遺伝子検査をベースに、ご自身の化学療法が組み立てられているとしたら注意が必要です。それにはNRAS遺伝子の項目がないからです。

 

 

上述の検査で、KRAS遺伝子に変異がない(KRAS遺伝子野生型)とされた場合でも、NRAS遺伝子に変異がないとはいえません。

 


KRAS, NRAS遺伝子のいづれかに変異がある場合(RAS遺伝子変異陽性)には、「セツキシマブ」(販売名:アービタックス)と「パニツムマブ」(販売名:ベクティビックス)の抗EGFR抗体薬は適応外となります。対象者は主治医に相談されることを推奨いたします。

 

 

尚、上述の検査でKRAS遺伝子変異陽性であった場合には、既に抗EGFR抗体薬については適応外として化学療法が計画されていると思われますので、問題がないと思われます。

 


保険償還年表
2010年04月 KRAS遺伝子検査が保険償還
2015年04月 RAS(KRAS, NRAS)遺伝子検査が保険償還
2017年XX月 BRAF V600E遺伝子検査やMMR機能欠損に対する検査

 


ガイダンス年表
2008年11月 「大腸がん患者におけるKRAS遺伝子変異の測定に関するガイダンス第1版」
2014年04月 「大腸がん患者におけるRAS遺伝子(KRAS/NRAS遺伝子)変異の測定に関するガイダンス第2版」
2016年XX月 「大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版」

 


上記年表から、ガイダンスに基づいた保険償還が行われていることが分かります。そしてただ今「大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版」のパブリックコメント募集中であり、大詰めとなっています(2016/9/30締切)。

 


その79ページにも及ぶ「confidentialなガイダンス案」には、大腸癌治療のもやもや感がすっきりするような、大変貴重な情報が満載でした。一時的な公開かもしれませんので、この機会に是非読んでください。
 


私の気になったポイントをいくつか抜粋したいと思います。今回の情報は大腸癌患者にとって非常に有益な情報だと判断し、不本意ながら引用がいつにもまして多くなっています。引用はソースを明確にした上で、15%未満が適当だと自覚しているのですが(笑)。

 


1.作成委員会の凄すぎるメンバー。大腸癌化学療法治療における、治療、セカンドオピニオン、治験などは、このメンバーの下でなら間違いないように思えます。

 

委員長
山﨑  健太郎(静岡県立静岡がんセンター  消化器内科)

 

委員
赤木  究(埼玉県立がんセンター  腫瘍診断・予防科)
石田  秀行(埼玉医科大学総合医療センター  消化管外科・一般外科)
衣斐  寛倫(金沢大学  がん進展制御研究所・腫瘍内科)
谷口  浩也(愛知県がんセンター中央病院  薬物療法部)
土原  一哉(国立がん研究センター  先端医療開発センター)
中谷  中(三重大学医学部附属病院  中央検査部)
室  圭(愛知県がんセンター中央病院  薬物療法部)
谷田部  恭(愛知県がんセンター中央病院  遺伝子病理診断部)
山口  研成(がん研究会有明病院  消化器化学療法科)
吉野  孝之(国立がん研究センター東病院  消化管内科)

 

評価委員
落合  淳志(国立がん研究センター東病院  臨床開発センター・臨床腫瘍病理部)
楠本  茂(名古屋市立大学病院  血液・腫瘍内科)
釼持  広知(静岡県立静岡がんセンター  呼吸器内科)
武田  晃司(大阪市立総合医療センター  腫瘍内科)
西尾  和人(近畿大学医学部  ゲノム生物学教室)
馬場  英司(九州大学大学院  医学研究院九州連携臨床腫瘍学講座)
福原  規子(東北大学病院  血液免疫科)
藤原  豊(国立がん研究センター中央病院  呼吸器内科)
水野  聡朗(三重大学医学部附属病院  外来化学療法部/腫瘍内科)
吉村  清(国立がん研究センター中央病院  早期・探索臨床研究センター  免疫療法開発分野)

 

(五十音順)

 


2.大腸がん診療において予後予測または治療選択に関わるこれらの遺伝子異常の検査に関する10の基本的要件が記述されています。

 

1)切除不能進行再発大腸がん患者に対し抗EGFR抗体薬投与前にRAS(KRAS/NRAS)遺伝子変異検査を実施する。(Strong recommendation)

 

2)RAS遺伝子変異検査は、体外診断用医薬品を用いるなど分析的妥当性が確認された検査法により実施する。

 

3)切除不能進行再発大腸がん患者に対し一次治療開始前にBRAF V600E遺伝子変異検査を実施することを推奨する。(Recommendation)

 

4)BRAF V600E 遺伝子変異検査は、ダイレクトシークエンス法(マニュアルマイクロダイセクション併用)やリアルタイムPCR法などにより実施することを推奨する。(Recommendation)

 

5)リンチ症候群が疑われる大腸がん患者に対し腫瘍組織を用いたミスマッチ修復機能欠損に対する検査を実施する。(Strong recommendation)

 

6)ミスマッチ修復機能欠損に対する検査はマイクロサテライト不安定性検査、およびミスマッチ修復タンパク質免疫染色である。(Strong recommendation)

 

7)治癒切除が行われたStage II 結腸がん患者に対し腫瘍組織を用いたミスマッチ修復機能欠損に対する検査を実施することを推奨する。(Recommendation)

 

8)切除不能進行再発大腸がん患者に対し一次治療開始前に腫瘍組織を用いたミスマッチ修復機能欠損に対する検査を実施することを考慮する。(Expert consensus opinion)

 

9)体細胞遺伝子検査にはホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いる。また、対応するHE染色標本で、未染薄切標本内に十分な量の腫瘍細胞が存在すること、および組織学的に想定される核酸の質が保たれていることを確認する。(Strong recommendation)

 

10)大腸がん診療における遺伝子関連検査は、質保証されたシステムのもとで実施する。(Strong recommendation)

 


3.RAS遺伝子検査とBRAF V600E遺伝子検査の流れ図

 

 


4.大腸がんとEGFRシグナル伝達経路図

 

 

 


5.大腸がんにおけるRAS遺伝子変異の頻度は、KRAS遺伝子33.4%、NRAS遺伝子3.6%で、RAS遺伝子の点突然変異は大腸がんの初期に起こると報告されているようです。

 


6.再発リスク因子を有するStage II結腸がん患者に対する術後補助化学療法について

 

術後補助化学療法を企図する場合、dMMRであれば無効、あるいは予後を悪化させる可能性を考慮し、術後5-FU単剤療法は推奨されない。pMMRであれば、期待される効果、予測される有害事象を鑑みて無治療、5-FU単剤療法、オキサリプラチン併用療法のいずれか選択するといった戦略は現時点では妥当と思われる。

 

※腫瘍におけるMMR機能の欠損、保持という観点から、MSI-HやMMRタンパク質消失をdMMR(MMR deficient)、MSI-L/MSSやMMRタンパク質発現をpMMR(MMR proficient)と表現する。

 

Stage II患者のうち、T4、低分化腺がん、印環細胞がん、粘液がん、脈管侵襲、リンパ管侵襲、傍神経浸潤、未分化がん、腸閉塞または穿孔発症、検索リンパ節個数12個未満などの再発リスク因子をもつ患者の予後は不良と考えられ、術後補助化学療法による再発抑制効果が示唆される報告もある

 


7.抗EGFR抗体薬投与による獲得耐性変異の検出

 

KRAS遺伝子野生型切除不能進行再発大腸がんに対する抗EGFR抗体薬投与後に、ctDNAかKRAS、 NRAS、BRAF遺伝子変異が検出されることが相次いで報告された。また、これら変異遺伝子の出現は、抗EGFR抗体薬投与中に耐性となった変異型クローンが腫瘍組織内に増殖した結果であると考えられている。

 


8.大腸がん患者の血液サンプルを用いた遺伝子検査

 

大腸がん患者の血液サンプルを用いた体細胞遺伝子検査(リキッドバイオプシー)は、繰り返し実施可能な低侵襲検査として有用となり得る。

 

 

 

ソースと関連情報

 

2016年9月20日「大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス 第3版」パブリックコメント募集 2016/9/30締切 | お知らせ | 日本臨床腫瘍学会
 

大腸癌治療ガイドライン医師用2016年版改定案と化学療法フロー|大腸癌(直腸癌)とある患者の所感