退院から早くも1週間が過ぎました。今回の周術期における重要な2つのポイントを忘れないうちに記載しておきたいと思います。2つとは術前マーキングと胸腔鏡下肺切除のことです。結腸・直腸癌肺転移についての重要と思える最新文献も記載しています。
● 術前マーキング
手術の名称と方法:CTガイド下マーキング 右
術前マーキングはこの大学病院でも年間10件程度のものですから、知らない方も多いと思われます。
下図(手術説明同意書)の楕円で囲んだ釣り針のような、片刃銛にワイヤーを部分麻酔の上、腫瘍部付近に向けて推し進めていきます。マーキング用なので腫瘍に刺すことはありません。予想よりも苦痛は少なく、硬膜外麻酔時の脊髄神経付近にカテーテルを入れる感覚と似ていると感じました。
常時CTで見ながらではなく、逐次CTを見ながら、放射線科医により少しずつ進められました。直上から刺したのかと聞いたところ、なんと切除予定域外に跨がらないような手技を用いたそうです。正しく凄腕です。空気塞栓や気胸などの危険性もあるなか、慎重に予定通りに完了しました。
患者側も何十回も「吸って息を止めて」を繰り返す必要がありました。目一杯息を吸う必要はなく、毎回一定量となるような吸い方で、息を5秒から10秒程度の間を無理なく止めることが可能な量です。患者と医師が息を合わせての共同作業のようにも思えました。
私は1ヵ月前から、この術前マーキングをイメージしながら、コーチ2で訓練していたので、完了までスムーズにできました。また、この訓練は術後のリハビリが一切不要となったことの一因だと考えています。
最初からマーキングは無理と言われて、了承済みだった下図にある4番目の疑いにもチャレンジして頂けましたが、表層部でもないのに2mmとか3mmのマーキングは、物理的に不可能な事がその場で確認され、当初予定通りにタッチしないことになりました。
さて、術前マーキングを受けない場合に予想される症状の推移として、「腫瘍部位の同定が困難」ということがあげられます。表層部にある腫瘍は小さくとも切除可能なのでしょうが、中にある腫瘍は結構な大きさにならないと術前マーキングなしには切除可能とならないかもしれません。あるいは切除領域を大きくせざるを得なくなるのかもしれません。
腫瘍部切除の際には、腫瘍部外2cm(最低でも1cm以上)のマージンを設ける必要があるのだそうです。また、下記の文献にあるように、直腸癌では肺腫瘍最大径20mm未満での切除であることが一つのポイントとなるようです。
○ 結腸・直腸癌肺転移における肺切除後予後予測因子に関する臨床病理学的検討|昭和大学医学部外科学講座呼吸器外科学部門
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg/30/2/30_136/_pdf
(以下一部抜粋)
… 今回,結腸癌では多発肺転移例が,直腸癌では肺切除前 CEA 値が 5.0 ng/ml 以上,肺転移巣最大径 20 mm 以上,肺切除後化学療法を要する例が肺切除後予後不良因子であると考えられた.
本検討で予後不良因子として結腸癌が多発肺転移,直腸癌が肺腫瘍最大径 20 mm 以上となった理由として,血行性転移の機序が一つの要因と考えられる.
大腸癌の血行性転移が生じる際,結腸癌では門脈を経由して肝臓が,直腸癌では上直静脈を除く中直腸静脈と下直腸静脈が直接下大静脈を経由して肺がフィルターになるとされている.
そのため結腸癌での多発肺転移例では,肝臓のフィルター機能の破綻やリンパ行性転移などが生じていた可能性があり,直腸癌での肺腫瘍径が増大した多くは,フィルターである肺内で腫瘍が発育したことを意味し,これは妥当な結果と考える. …
…
…
結語
本検討において,結腸癌では多発肺転移例が,直腸癌では肺腫瘍最大径 20 mm 以上ならびに肺切除前CEA値上昇例が肺切除後の予後不良因子と考えられた.これらの予後不良因子を有する症例に手術を行った際の肺切除後フォローアップは,CT や CEA 値測定の頻度を肺切除後 2 年間は 3 ヵ月に 1 回程度に増やし,慎重に行うことが望ましいと考えられた.
日本呼吸器外科学会雑誌
Vol. 30 (2016) No. 2 p. 136-142
J-STAGE公開 20160315
● 胸腔鏡下肺切除
手術の名称と方法:胸腔鏡下右肺部分切除術(術前マーキング)
今回は上図の1,2,3が切除されました。術前マーキングは1になされ、2,3は小さくとも表層部にあり、2と3同士が近接していますので、区域切除(きつ状切除)は2個でした。
4も触診して頂けたようですが、やはり分からなかったようです。執刀医曰く、「ゴム手袋をつけて、肺内部にある胡麻粒を探す(触る)ようなもの」だそうです。この疑い段階にある4は経過観察の上、必要があれば切除してもらう方針となっています。
ということで、次回の手術を考慮すると癒着の有無が関心事となります。今回は癒着が無かったそうで安心しました。もちろん次回に癒着が無いとは言えませんが、15年前に完全禁煙するまでヘビースモーカーだった私としては大変な気がかりなことだったのです。
がん治療を考えると喫煙は直ちにやめるべきです。癒着の原因となりますし、百害しかありません。因みに禁煙後10年で、空いた穴以外は元に戻るという話を禁煙外来の医師に聞いたことがあります。私の禁煙に関心のある方は下記を読んでください(笑)。
○ ヘビースモーカーの禁煙
切除した肺の病理検査結果は今週金曜日の術後初外来時に分かり、最終診断が出ると思います。今は、術直後に聞いた切除部印象について少し述べたいと思います。
・1と2は中央部で切除されており、綿棒のような楕円形をしており、乳白色(年輪のように中央部から3色になっている)で大腸癌(直腸癌)切除時に見た腫瘍と同じ印象がした。執刀医の見解でも大腸癌からの転移と思われるとのこと。
・3は中央部で切除されず、押し出されて見た印象では、小豆色のマフィン形をしていた。執刀医の見解ではリンパ節だと思われるとのこと。
・1の腫瘍部の付近の肺は、赤色で鮮度のあるレバーのような、ゼリーのような健康的な感じがし、2と3の付近の肺は、やや鮮度が落ちたような、やや暗い赤色だった。
これらのことで気になったことは、先ず3のリンパ節と思われるものです。癌なのかどうか、癌だとしたら極側にある2からの転移なのかどうか。次に切除した2は私の予想よりも大きくなっていたことから、2は活発化していたのではないだろうか。やはり健康度の足りない肺部位?(老化部位?)では、大きくなる速度が速まるのだろうか。因みに切除したものは全て1cm未満でした。
手術説明同意書
最後に、入院生活で役に立った小物たちを紹介したいと思います。
完全防水のG-SHOCKです。これを身につけながらシャワーを浴びると時間を気にせず、焦らずに作業できました。そして、今年上半期最大のお気に入りである小銭入れです。Suicaを収納し、院内にあるローソンとOS-1があるSuica対応自販機とで大活躍です。
のどスプレーは術後3日目位からの喉の変調に対応するためのものであり、咳き込むことや声のしわがれを軽減するためのものです。咳やくしゃみは術後の痛みに大敵ですから助かりました。
ブリーズライトは、大部屋で自分のイビキが迷惑をかけていないかと気になる事を軽減してくれました。また、就寝時の呼吸が十分にとれ、熟睡や回復に大いに貢献してくれたと思います。