『松林眞澄の心象風景版画展』或いは二つの捻じれた国旗について | 俳茶居

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『松林眞澄の心象風景版画展』或いは二つの捻じれた国旗について

二つの国旗をモチーフにした作品

 

 連休最中の2023年5月1日 府中市美術館で開催された『松林眞澄の心象風景版画展』(2023年5月2日~5月7日)の内覧会に友人達と押しかけ、新緑の展示会を愉しんだ。コロナ禍で長期間直接会っていない友人達がほとんど、久々旧交を温め合った。嘗て新宿のとある酒場で夜な夜な顔を合わせていた多才な個性達、今もそれぞれ輝き人生を送っているとことを確認でき嬉しい気持ちになった。

 芸術家松林眞澄は一段と進化を続けていた。ジクレー(デジタルリトグラフ)技法による版画、数年前の同技法による初期作品は、写真を左右の直線上に引き伸ばす表現にとどまっていたが、今回は回転させたり捻じりを入れたり、オブジェを重ねて印刷したりして表現の幅が大きく増えていた。作家の心に映し出される世界は一度溶かされ、作家のフィルターを通してインクジェットの力を得て作品となる。私達は置いてけぼりにあうか、さらに深く作品に迷い込むかである。

 3年以上世界を苦しめているコロナ禍や、紛争や戦争で犠牲になった人達への作家のまなざしが、作品として表現される気がしてならない。それは一つの世界、一つの繋がっている地上の現実から、私達は逃れることは出来ないことを伝えているのではないか。 ウクライナ国旗とロシア国旗をモチーフとした抽象的なオブジェが浮遊するように描かれた作品(冒頭の写真)から、私達はその解(元の国旗の姿に戻す方法)を尋ねられているのである。 

                2023年5月10日   俳茶居  

松林眞澄作品集