6冊目:ぼっけえ、きょうてえ
岩井志麻子
2025/07/19
★ひとことまとめ★
すごく、怖い…?
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞受賞作、待望の文庫化!
岡山の遊郭で醜い女郎が客に自分の身の上を語り始める。間引き専業の産婆を母にもち、生まれた時から赤ん坊を殺す手伝いをしていた彼女の人生は、血と汚辱にまみれた地獄道だった……。
【感想】
インスタか何かで何度か、「すごく怖い本!」とおすすめされていたのを目にしていたので、夏だし読んでみるかな~と思いました
すごく怖いって、そういうことね
「ぼっけえ、きょうてえ」とは、岡山弁で「すごく、怖い」のこと。確かに…"すごく怖い"本…。
実際にすごく怖いと感じたかで言うと、感じませんでした
人は死ぬし、怪異も出てくるけれど、身の毛がよだつような怖さはなく…人の浅ましさや醜悪さなどのヒト怖という感じでした
本のタイトルでもある「ぼっけえ、きょうてえ」は、女郎が旦那(客)に淡々と身の上話などを語るお話なのですが、怖いというよりはその時代特有の貧しさだったり、生まれ(家柄や性別)で一生が決まってしまう不条理さに対して暗い気持ちになりました。
生まれた家が貧しければ、売られる。
運良く客に気に入られれば身請けで抜けることも出来るけれど、そうでなければ年季まで働き続ける必要がある。
本人は、売られるために生まれてきたわけじゃないのにね
語り手の「妾」なんて、最初は川に捨てられてる(=始末されかけた)し…運良く生き延びたけど、今度は子潰しを手伝わされ…。
両親が実の兄妹で、「妾」は近親相姦の末生まれたのとかも救いがない。
頭の左側だけだけど、一緒にいてくれる姉がいてよかったのかもしれないね。
でも、小桃を殺したのは同情できなかったなあ~…。
「妾」の謎理論で殺され、天国行きだの地獄行きだの勝手にあーだこーだ言われて可哀想に。
姉に気に入られ、旦那は生きて二階から帰ることができたんだろうか。
ちなみに「インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜」というタイトルで映画化もされているようなのですが、その映画では「妾」は旦那に撃たれてアッサリ死ぬみたいです。
「密告函」は…
村でコレラが蔓延する中で、密告函に名前が投書された家に感染者がいないか偵察・報告する仕事は、感染の不安や心労もあるだろうけれど、奥さん(トミ)を裏切る理由にはならないよね。
文句一つ言わず家のことを行い、弘三が金を持ち出すから補填するために身を粉にして働いて…。
ひらがなの投書が出てきた時点でこれはトミだろうな~と思ったけれど、トミみたいな人が怒ると本当に怖いよね。
自分が散々我慢してきた分、表面上は平静を装いつつも、煮えたぎるような怒りで弘三をジワジワ苦しめてるんだろうなあ…
というかお咲はいったい何者だったんだ…。
「あまぞわい」は恵二郎が不憫だったなあ。
家は裕福でも生まれつきの足の障害のせいで結婚もできず、人妻を好きになったばかりに殺されちゃうんだから…。
ユミも、錦蔵に身請けしてもらって酌婦から抜けられたけれど、錦蔵の住む漁村に移ったら"酌婦あがり"と周りからは蔑まれ、錦蔵は暴力を振るうようになるし。
祖母の治療費のカタとして売られ、結婚できたら思ったら夫は他所の女に熱を上げ借金まみれ、挙句に暴力を振るう…
男はそういうもの。
女はそういうもの。
それ以外はなかった、許されなかった時代だったんだろうな。
「依って件の如し」も近親相姦、貧しさという点でぼっけえきょうてえに少し近かったな。
女の子だと思ったから子潰ししたのに、後から男とわかって狂うナカ、不憫だなぁ。
シズ、母と兄の近親相姦の末に自身が産まれたことを知り、これから兄である利吉とどう生きていくんだろう。
母は死に、利吉は出兵し、住み込み先の農家ではこき使われ牛小屋で牛と寝かされ、暴力を振るわれ…。
ようやく利吉が帰ってきたと思ったら、利吉は様子がおかしいし。なんなら人殺ししちゃうし。
利吉は何者になってしまったんだろう。
なんか、自分はその時代を生きてきたわけではないから本当の辛さを知ることはできないけれど、本当に大変な時代だったんだなと思う
少子化で子供をどんどん産んで!という今とは 真逆で…。
食い扶持に困るから子潰しするしかない、売るしかない。子供の生殺与奪の権は完全に親に有って、子供はそれに従うしかない。
人権なんて皆無。
今は何でもかんでも尊重尊重で逆にやりづらい部分はあるけれど、それでも昔に比べれば遥かに生き易いよね。
まず食べるものに困ることも殆ど無いわけだし。
今は生殺与奪の権が自身にあるからこそ自殺が多いのかもしれないけどね…。難しいね。
考えさせられはしますが、繰り返しますがすごく怖くはない!以上