ぜんしゅの跫
澤村伊智
2023/12/11
★ひとことまとめ★
過去作の前日譚、後日譚
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
見えない通り魔「ぜんしゅ」の正体は――!? 比嘉姉妹シリーズ第5弾!
妻が妊娠し、幸せいっぱいの日々を送るサラリーマン・田原秀樹は、ある日、知り合いの娘の結婚式に参列することに。
しかし、新婦の佐川知紗は思わず二度見してしまうほど器量の悪い娘だった。
式の最中、野崎という男性が知紗にある画像を見せたことから、彼女は錯乱し、鼻水を垂らしながら秀樹に縋りつき「お父さん」と呼ぶ。
こんな娘は嫌だ――汗がどっと噴き出た瞬間……。映画「来る」へのアンサー的短編!
――「鏡」
真琴と野崎の結婚式。姉の比嘉琴子は祝いに駆け付けるが、誤って真琴に怪我をさせてしまう。
猛省する琴子は、真琴に代わり、彼女が請け負っていた事件「見えない通り魔」の調査に乗り出す。
夜な夜な通行人を襲って引き摺り回し、建造物を破壊する巨大な化け物の正体とは……!?
論理的にして大胆な霊媒師・比嘉姉妹が活躍する、書き下ろし表題作!
――「ぜんしゅの跫」
造形制作/萬歳淑
【感想】
こちらは過去作の前日譚、後日譚の短編が5話収録されています。
・鏡
こちらは"ぼぎわんが来る"の前日譚。
秀樹が主人公です。知紗が産まれる前のお話で、香奈は妊娠7ヶ月。
取引先のお偉いさんの息子夫婦の披露宴に招待されてた秀樹。式場であるホテルに到着し控室に向かう途中、台車に載せられた姿見が目に留まる。
鏡面はピカピカに磨かれており、吸い寄せられるように覗き込むと、自分のはるか後ろの方で顔の半分近くが欠損した男が蠢いていた…
振り返って直接確認するか思案していたところで、後輩の高梨に声をかけられる。
秀樹は高梨と共に式場に向かうが…
秀樹は本当に、知紗が産まれる前からどうしようもない男ですね。。
しんどいから寝ようかな、と言った香奈(妊娠7か月)に「朝メシ」と言ったり、礼服にホコリがついているのを見て毒づいたり…。
そのくらい自分でやれ!!!とつっこんでしまいました。産前からこれで、産後もアレ(自称イクメンパパ)だと思うと…。
秀樹の覗いた鏡がいわゆる曰く付きの鏡で、秀樹は鏡を覗いてから琴子に鏡から引き剥がされるまで、知紗の結婚式という体でずっと自分の罪や未来を見せられていました。
琴子の言っていること(鏡は親族友人知人の過去未来も見せる)が本当ならば、香奈は交通事故で死んじゃうし、知紗は自虐的に育ってしまって可哀想だし、真琴も花に囲まれてるって死んじゃったの?(ばくうどの件で寝続けてる?)だし、野崎も歳とってかなり不健康そうだし…みんな不幸になっているのでは。。
初めに出てきた顔半分欠損した男性はぼぎわんにバクッとやられた秀樹自身だしね…。
秀樹が自分自身の未来を見てるって言うのは話として面白いと思ったけれど、知紗・香奈・真琴たちの未来は知りたくなかったなあ…。
特に知沙・香奈の未来については書かないでほしかった…。ぼぎわん以降の彼らについては想像におまかせします、が良かったな。
正直蛇足だなと思ってしまいました。
・わたしの町のレイコさん
ずうのめに出てきた湯刈弥生(戸波編集長)の姪・飛鳥が主人公です。飛鳥の地元に伝わる都市伝説「レイコさん」のお話。
レイコさんはオカマで、性器が欠損している。レイコさんの質問に正しく答えられなければレイコさんと同じように、性器を包丁で切り取られる。
弥生が調べたところ、レイコさんの話のモデルとなった事件が実在していた。20年前、小学5年生の男児が誘拐される事件が発生した。男児は命に別状は無い状態で発見されるも、性器が切断されていた。
そして、その男児は4年後自殺し亡くなった。
弥生は昔の話と勘違いしていたが、レイコさんは今も何人にも目撃されている。
飛鳥は彼氏の匠と共にレイコさんについて調査を始める…。
う〜ん。オチも微妙だったなあ。
幽霊に意味やオチを求めても仕方ないのかも知れないけれど、なぜ匠は局部を切り取られたのか…?
15年近く杉本が女装して歩き続けているのに今更噂されていることも不思議だし、匠がぶん殴った後何故か怜二が幽霊として現れたりして、怜二の意図もよくわかりません。(幽霊に意図などないのかもしれないけれど。)
ただ単に、自分は局部切り取られて最終的に死んだのに、彼女といちゃついてのうのうと生きてる匠を見て憎い、となったのかな?
その後匠が第二のレイコさんになったのかもってのも微妙だ…。
都市伝説って、調べてみたら実は実際にあった事件とかがベースになってるのかもね〜って話かな。
・鬼のうみたりければ
野崎の元同期の希代子が語るお話です。希代子の夫・健太郎は双子だったが、9歳のころ兄の輝が行方不明となり、現在も見つかっていない。
健太郎の母がくも膜下出血になり要介護となったため、希代子たちは義母と同居することになった。さらに悪い事に、健太郎は仕事をクビになり、再就職先を探すもののなかなか見つからない。義母は症状が悪化し、認知症になってしまった。
希代子は仕事も家事も介護も全て一人でこなした。しかし無理が祟り仕事中に倒れてしまう。すぐに搬送されたから助かったものの、少しでも遅れていたら死んでいたらしい。
退院し帰宅した希代子に対し健太郎が言い放ったのは「今日からまたおかんのことよろしく」
義母からは「そろそろ孫の顔がみたいわあ」
流石に心が折れ泣いていた希代子に健太郎が話したのは、行方不明となったままの輝の話だった。
輝は、神隠しにあったのだと言う。
その話を聞いた一ヶ月後のある朝、唐突に輝が帰ってきた…
山に伝わる鬼の話。帰ってきた輝は本当に鬼の子だったんだろうか?
希代子が介護疲れでちょっと頭がおかしくなってしまって健太郎を殺しただけなのか…?それにしては希代子の語る話が出来過ぎている気がするし…。
もし輝が本当に鬼だったとしたら、どこかで健太郎と入れ変わって(?)、何度も健太郎に殺された恨みを晴らして消えたんだろうか…。
こんな話聞かされて、一緒に確認に連れて行かれた野崎が不憫だ
・赤い学生服の女子
ずうのめ、などらき(学校は死の匂い)の後日譚。美晴が好きだった男の子、大人になった古市俊介のお話です。
事故に巻き込まれ入院中の古市。彼と同じ病室の患者たちが次々と”赤い学生服の女の子”に会いに行き亡くなっていく。
実はこの病院は、かつてずうのめの呪いにより亡くなった美晴が運ばれた病院だった。
赤い学生服の女の子とは、美晴なのではないか。そう考えた古市は女の子に会いにいくが…
仮にも美晴のこと昔好きだったのに、美晴が亡くなった時この病院に運ばれたってだけで、赤い学生服の女の子はきっと美晴だ!ってだいぶ失礼ですよねw
美晴のこと勝手に人殺しの怨霊みたいにするなw
事故にあって長いこと三途の川的なところで彷徨っていた古市。蛍光灯に化けた怪異によって、あちら側に連れて行かれそうになっていたところを本物の美晴に助けられる。
琴子への嫉妬や憧れの気持ちが強いあまり、自分の力量以上の相手(ずうのめ)にやられて中学生という若さで亡くなってしまった美晴。古市に思いを告げることなく別れ、青春も何も経験せず亡くなってしまった美晴を不憫だと思っていたのですが、こうやって古市と再会できたのはよかったかな。
けれど、最後が不穏ですね…。古市の夢の中の話だけではなかったのか…本当に赤い学生服の女子はいたのか。
会いにいくと言っていた古市の息子はどうなったんだろう…。
・ぜんしゅの跫(あしおと)
ずうのめの終わりで真琴と野崎の結婚パーティーが開かれましたが、その続きのお話です。
2人の結婚パーティーに来た琴子。真琴に掴まれた手を振り払った瞬間、真琴はバランスを崩し転倒してしまい怪我を負わせてしまう。
足の捻挫、右手親指にヒビ。仕事を休まざるを得なくなってしまった真琴に対し、琴子は自分が代わりにデラシネに出勤すると言う。
デラシネへの出勤だけではなく、最近このあたりで発生している”見えない通り魔”の調査も代行するという琴子。
被害者に共通点はなく、全ての犯行が午前零時から五時の間、人気のない暗がりで服や鞄を掴まれ引き摺り回される。被害者の誰一人として加害者の姿を見ていなかったが、皆、獣がアスファルトを掻くような奇妙な足音を耳にしていた。
野崎と琴子は早速調査を始めるが…
ぜんしゅ、がしゅそくせい。
全鬚、画鬚則成。
どういう意味かと思っていたけれど、ヒゲを描く、ってことだったのね。
襖から絵が飛び出るなんて、一休さんだなあ〜。
ヒゲを書いて欲しくて出てきて、本人(本獣?)はお願いヒゲ書いて完成させてよ〜ってやってるつもりなのに、力が強過ぎて人を傷つけたり殺したりしちゃう…。殺されたカップルが不憫です…。
とにかく怪異を抹殺することを第一に考えている琴子。怪異が悪事を起こす原因をまず考え解決策を探る真琴。
怪異を倒すパワーで言ったら琴子の方が強いんでしょうが、再発防止という点では真琴のやり方の方が良さそうです。
にしても、ポストカード持っていただけでやられるってのはなあ。買った人を襲うくらいなら、ポストカード売ってる田くん本人を真っ先にあたりなよと思うのですが…。
田くんは明るい場所でしか売っていなかったのでしょうか…そんでぜんしゅが探知(?)出来ないほど頑丈にカバンなどにしまっていた…?
う〜ん、なんで田くんは探知されなかったんだろうと謎です。
さえづちの眼も早く読みたいです