儚い羊たちの祝宴
米澤 穂信
2021/01/14
★ひとことまとめ★
いつもの米澤さんとは一味違うダークさ
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。
夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。
優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
【感想】
今年の2冊目は、昨年お客様にいただいて読めていなかった米澤さんの作品です
米澤さんの作品は何冊か読んだことがありますが、いままで読んだ作品とはちょっと毛色が違った感じで、ダークな内容です
短編ですが、すべての作品に「バベルの会」という、それなりの身分のお嬢様たちが集う大学の読書サークルが共通して出てきます。
五つお話がありますが、その中でも私は「山荘秘聞」と「玉野五十鈴の誉れ」が特にお気に入りです。
一話づつあらすじと感想を書いていきます。
・身内に不幸がありまして
話は、丹山家という上紅丹地方に大きな力を持つ家に使用人として働く村里夕日の語り(手記)で進んでいきます。
丹山家のお嬢様である吹子。吹子には兄もいたが、粗暴で問題を起こしたため勘当されていた。そのため丹山家を継ぐために一分の隙もなく、すべてを卒なくこなす吹子。そしてそんな吹子を身近で見守り、愛し、忠実に仕える夕日。
吹子が所属する「バベルの会」の、夏休み恒例泊りがけでの読書会 前々夜。突然吹子の兄が屋敷を襲撃してから、雲行きが怪しくなり始めます。
→真っ先に思い浮かんだのが、遅刻や休みの際に「親が危篤で」「親族が急病で」と何度も誰かしらを危篤・急病にする会社の人。。。
普通に休みますじゃだめなのか…!?!?
いや~このお話は、夕日が可哀そうとしか思えません。。。吹子に対して愛ではなく忠誠だけ誓っていれば助かったんだろうか
秘密の書架に入ることもなく、ただ使用人として仕えていれば死なずに済んだんだろうか
夕日が報われません。。。
・北の館の罪人
もともと紡績で財を成し、現在は製薬会社に転身し成功を収めた六綱家。六綱家の屋敷の応接間に飾られている一風変わった絵。描かれているのは青い空に青い海、そして青い人影。とりわけ奇妙なのは空の色。青とは言い切れない、紫がかった色。
また、この絵には続きとも言える一枚がある。優美な本館の裏手に建つ、六綱家別館に、それはひっそりと飾られている。
一風変わった青い絵と、別館に飾られた二つの絵にまつわるお話です。
→時間経過で色が変わるとは、早太郎も良いトリックを使ったなと思いました。早太郎は自分を殺そうとしている犯人に気づきながらも決して言いませんでしたが、そのメッセージを絵に残すとは。殺されるとわかっていながらも、抵抗しなかったのはなぜだったんでしょうか。絵を描くこと以外はすべてあきらめてしまったんでしょうか。
こちらの作品では「バベルの会」はちょこっとだけ登場します。詠子が所属しているのがバベルの会です。
・山荘秘聞
辰野家の別荘・飛鶏館の管理を任されている、屋島守子。飛鶏館は非常に美しい別荘であったが、一年経っても全く客人が来ない。守子は、かつて仕えていた家のお嬢様が所属していた「バベルの会」の読書会を手伝った日々を思い出す。
あれほどのお客様でなくても、なんとかこの飛鶏館に人を招きたい、もてなしたいと強く願う守子。
そんなある日、守子は崖から滑落している登山者を発見し、怪我の手当てを名目に、思う存分もてなします。
しかしそんな時間も長くは続かず、彼を助ける救助隊が捜索にきてしまいます。多くの客人をもてなしたい守子がとった対応は…。
→どれだけ人をもてなしたいんだとツッコミたくなりました それほど素敵な別荘だと思うと、一度私も行ってみたいな~と思います。そして思いっきりもてなされたい。。。
越智のことはどうしたんだ…?まさか…??というハラハラ感があり、越智について何かを隠していると勘づかれたときの守子の行動も、きっと殺してしまったんだと思ってしまいました。
ですが、何度も文中で示唆されていたり、「買いましょう」という単語から、それが武器ではなく、束ということがわかりました。
けれど初めは確認が持てず、色々な人の考察ブログを読んで確かめました笑
私の沈黙も買ってほしいな…。
・玉野五十鈴の誉れ
跡継ぎのいない小栗家に女として産まれた純香。祖母から小栗家のたった一人の跡継ぎとして厳しく躾けられ、学校で友達を作ることさえ許されなかった。
そんなある日、祖母から贈られた使用人の”玉野五十鈴”。五十鈴が近くにいてくれるのは主従関係がだからと理解しつつも、友達がいなかった純香は、同じ年の友達ができたように思い心を弾ませる。
しばらくは楽しい日々が続くが、婿養子である父親の兄が殺人事件を起こしたことで、状況は急変してしまう。
→五十鈴が純香と親しくしていたのは、やはり祖母の言いつけだったからに過ぎなかったのか…と思わせつつ、きっちり純香の願いをかなえてあげているところが胸がスカっとしました。五十鈴がやっていること自体はダークなんですが、まるで一休さんのとんちや落語のようで面白い。
お米の炊き方の比喩を伝えたのが、まさか比喩通りのことを実行してしまうなんて普通は考えられないもんなあ…
純香が平和な生活に戻ることができてよかったけれど、何の罪もないのに殺されてしまった赤ちゃんはやっぱり可哀そうだなあ…
純香の言う通り、別の家に生まれていたなら、いい姉弟になれていたかもしれないのに。。。
・儚い羊たちの晩餐
いまは無きバベルの会。その部室に取り残された1冊の日記。
そこには、バベルの会から退会させられた元会員・大寺鞠絵により、大寺家での話や、バベルの会を退会させられた理由、そしてバベルの会が消滅するに至った経緯が詳細に記されていた。
大寺家に新しくやってきた厨娘の夏。厨娘はただの料理人ではなく、宴料理専門の料理人である。プライドが高く見栄っ張りな鞠絵の父親は、宴を開くたびに金に糸目を付けず夏に珍しい料理を作らせた。
しばらくすると彼はその高いプライドから、なんとかして夏が過去の雇われ先でも作ったことがないような料理を作らせたいと考えるようになる。そうは言っても料理のことなどわからないので、なにか良い料理がないか、鞠絵に相談をする。
そして鞠絵は、「アミルスタン羊」を調理するよう夏に命じた…。
→一番ダークな話でしたね!「アミルスタン羊」が比喩ということはもちろんわかりましたが、部位のチョイスがまたグロテスクで…。
よりにもよって、”唇”を選ぶとは。。”唇”が食卓に並ぶ想像はしたくないですね…
にしても、これだけ良いお家柄のお嬢様たちが所属するバベルの会。そのお嬢様たちが一度に亡くなったら、それはそれは大事件だったと思います。。。
鞠絵も急にバベルの会を退会させられてしまって、始めのうちは同情しましたが、結局は父親と同じで傲慢というか欲深いというか。。。自らの欲求の為に、人の命さえも平気で犠牲にできてしまう。。。
「アミルスタン羊」が宴の食卓で披露されたとき、大寺家や招かれた客人はどんな反応をしたんだろうかと気になってしまいました。
流石に唇がでてくれば、「アミルスタン羊」が何なのかわかるはず…。。。
各話に登場したお嬢様たちが、どうかこの年の読書会に参加していませんように…(絶対参加してないお嬢様もいますが、参加したかがわからないお嬢様もいるので)。。
米澤さんらしからぬ、ダークなお話が読めてとても面白かったです