13冊目:大人は泣かないと思っていた | 【読書感想文Blog】ネタバレ注意⚠

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大人は泣かないと思っていた

寺地はるな

2020/02/20

 

 

★ひとことまとめ★

 

 

 

↓以下ネタバレ含みます↓

作品読みたい方は見ないほうがいいかも

 

 

 

【Amazon内容紹介】

時田翼32歳。九州の田舎町で、大酒呑みで不機嫌な父と暮らしている。母は11年前に出奔。翼は農協に勤め、休日の菓子作りを一番の楽しみにしてきた。ある朝、隣人の老婆が庭のゆずを盗む現場を押さえろと父から命じられる。小学校からの同級生・鉄腕が協力を買って出て、見事にゆず泥棒を捕まえるが、犯人は予想外の人物で――(「大人は泣かないと思っていた」)。
小柳レモン22歳。バイト先のファミリーレストランで店長を頭突きしてクビになった。理由は言いたくない。偶然居合わせた時田翼に車で送ってもらう途中、義父の小柳さんから母が倒れたと連絡が入って……(「小柳さんと小柳さん」)ほか全7編収録。
恋愛や結婚、家族の「あるべき形」に傷つけられてきた大人たちが、もう一度、自分の足で歩き出す姿を描きだす。人生が愛おしくなる、始まりの物語。

 
 
 
【感想】
また寺地さんハート
 
周りをぐるりと山に囲まれた田舎町に住む時田翼。大酒飲みの父親と二人暮らし。母親は父親に愛想を尽かし11年前に出て行った。
父親から隣の家の住人が庭のゆずの木からゆずを盗んでいると言われ、現場を押さえゆずを盗むなと忠告するように言われる。
友人の時田鉄也とともにゆず泥棒を捕まえるため夜中に張り込み、見事犯人を捕まえるが、犯人は隣人ではなく見かけたことのない若い女だった。女は小柳レモンと名乗り、隣人の孫で、面倒を見ない母親の代わりに祖母の面倒を見ているという。ゆずを盗んだのは、祖母が「お隣の奥さんがつくったゆずのジュースを、もう一回飲んでみたい」と言われたため、毎日ひとつづつゆずを盗み試行錯誤を繰り返していたためだという。しかし毎回「これじゃない」と言われてしまう…。母親からゆずジュースのレシピを教わっていた翼は、レモンとともにゆずジュースを作る…。
 
このレモンと翼の友達以上恋人未満の関係のお話とか、翼の友人・鉄也とその恋人のお話、出て行った翼の母親のお話、翼が務める農協の同僚の女性のお話、そして頑固親父である鉄也の父親のお話など、全部で7つのお話が収録されています。
 
一つ一つのお話を書いていくととんでもなく長くなりそうなので割愛しますが、寺地さんの作品は、自分が感じた気持ちを言語化したらこうなるんだろうな~という表現が多くて好きです。
 
 
・酒抜きの忘年会というのは不可能なのだろうか。たとえばお茶とケーキで和やかに談笑して年を忘れるとか。(P17)
 
・お酌をしない人間をチェックしておいて、後から「あいつは気が利かない」と陰口を叩くおうなやつがいる。。俺はそれを「お酌警察」と呼んでいるのだが、どうやら平野さんはお酌警察に怯えているらしかった。(P18)
 
・人間がかならず老いることぐらい知っているつもりだった。田中絹江だって例外ではないのに、それでのなぜか、いつまでも元気で猫に餌をやったり俺の父といがみ合ったり、そういうことがずっと続くように思い込んでいた。そんなはずがないのに。(P35)
 
・子どもの頃、大人は泣かないと思っていた。そんなふうに思えるほど、子どもだった。(P39)
 
・ひとりの人間の生涯に起こったことのすべては、そのひと自身しか知り得ない。ひとがひとりいなくなるということは、ひとつの物語が消滅するということである。(P40)
 
・「ものすごーく好きになれる相手って、実はあんまりいないもんだよね。出会いなんていくらでもある、と言う人もいるけど、すごく気の合う相手も好きになれる相手も限られてる。ほんとうに一生に一度、現れるかどうかだよ」(P64)
 
・「他人の事情にあれこれ口を出す」は「本人のいないところで噂をする」に並ぶ、無料でたのしい娯楽のひとつだ。(P67)
 
・言いたくないことは、黙っていればいい。誰にでも「普通に明るく」を強要してはいけない。それはもう、暴力だ。(P103)
 
・化粧は、若づくりのためではない。異性に見せるためにするのでもない。自分の心を明るく保つためにある。(P116)
 
・ずっといろんな気持ちを抑えてにこにこしていたあなたが以前より笑わなくなったのは、きっとより自由になれた証ではないのか、と千夜子さんは言うのだった。(P122)
 
・昔のことにたいして罪悪感を抱えるんじゃなくて、そうして選びとったものを大切にして行きてくれるほうがいい、そのほうがずっといい、と。(P135)
 
・摘まれた花は、摘まれない花より、はやく枯れる。だから翼は花を摘まない。でも、わたしは花を摘む。摘まれた花はだって、咲いた場所とは違うところに行ける。違う景色を見ることができる。たとえ命が短くても。(P136)
 
・他人は自分ではないから、だからわたしたちにできることは、どちらを選ぶにせよ自分で納得できる道が見つかると良いんだけど、とぼんやり思うことぐらいなのだった。祈る、というほど切実なものではなく。
なにもかもうまくいく場所などどこにもない。どの場所で咲くことを選んでも、良いことと悪いことの総量は同じなのかもしれない。生まれてから死ぬまでの時間で均してみれば。(P147)
 
・根は悪い人ではないと思うのだが、どこを切っても悪い部分しか出てこない「悪太郎飴」みたいな人格のほうが珍しいと思うので、飯盛くんが根っから悪い人ではないことは私にとってはなんの加点にもならないのだった。(P159)
 
・私たちはどうしてこんなにも「結婚しなきゃいけない」と思っているんだろう。そんな疑問はでも、簡単に打ち消せる。そういうことになっているから。世間並み、になりたいから。(P182)
 
・「黙って去っていくのは、卑怯なことです。ふたりではじめたことの後始末を残ったひとりに押し付けるのは。去ったほうはそりゃ、楽です。ただ忘れればいいんだから。でも去られたほうは違う。自分でいろいろ考えて、結論を出して、そのことに折り合いをつけてかなきゃならない。ちゃんと別れを告げることが、去っていく人間の最低限の礼儀だと思います。」(P221)
 
・「去っていかれたほうの人間が『忘れる』をやりとげるのは、大仕事です。そこに至るまでに、何度も泣いたかもしれない。…怪我したら痛いですよね。血も出るし、膿も出る。どんな経緯を辿ってその傷が治ったかは、傷を負った本人しか知りません。他人が、治癒後の姿だけを見て『簡単に治ったんだね。じゃ、別にいいじゃない。怪我したことなんか忘れなよ』なんて言うもんじゃにと思いますね」(P222)
 
・「ああだったら、こうだったら」と他人の人生にあれこれ口を挟むのはこのあたりの人たちの娯楽なので、生返事をしながらこの話が終わるのを辛抱強く待つ。みんな、自分の人生に飽きているのだ。(P244)
 
 
のんびりと読める作品が多いので、やっぱり寺地さんの作品はいいな~。