恋愛中毒
山本文緒
2019/02/10
★ひとことまとめ★
健全な精神状態で読まないと気持ちが沈む…
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
世界の一部にすぎないはずの恋が私のすべてをしばりつけるのは
どうしてなんだろう。もう他人を愛さないと決めた水無月の心に、
小説家創路は強引に踏み込んで――
吉川英治文学新人賞受賞、恋愛小説の最高傑作。
【感想】
ブランチの本に載っていたので読みました。
男性が主人公なのかな?と思ったけれど、なるほど、そういうお話の進め方なんですね。
別れによって彼女が豹変し、執拗な嫌がらせなどから逃げるように前職を去り、小さな編集プロダクションで働き始めた井口。
元彼女からの嫌がらせに対応してくれた、職場の先輩の水無月は40代後半くらいで、社長とできている噂や、ベンツに乗っている目撃情報や、お金についてのよくない噂が広まっている。
そんなある時、水無月と飲む機会があり、思い切って井口は彼女に、彼女の過去についてを聞いてみることに…
そこからは水無月目線の彼女の恋愛遍歴のお話。
健全な恋愛だけしてきた人は、おそらく水無月に対して怖い、とか、特に男性が読んだら女ってマジこわって感想になるかもしれないけれど、私は水無月の気持ちがわかってしまう…。
「どうか、どうか、私。
これから先の人生、他人を愛しすぎないように。
愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。
私は好きな人の手を強く握りすぎる。相手が痛がっていることにすら気がつかない。
だからもう二度と誰の手も握らないように。」(P37)
執着し、嫉妬し、見境がなくなってしまうほどに好きだった夫と離婚をして、もう二度と人を愛しすぎてはいけないと誓ったのに、それでも人を、それも妻も愛人も何人もいる芸能人・創路を愛してしまう。
彼に好かれるために彼の言いなりになり、ライバルを退けるために演技をし、一人ひとりライバルを減らしていく。とうとう本妻まで減らしていって、これで自分が1番になれると思っていたのに、そこで現れる、創路の娘の存在。そして離れていく創路。
「私にはもう仕事も愛情も渡す気がないというのだろうか。
私がしてきた努力は何だったのだろう。
先生の言うことを何でも聞いてきたのは先生を甘やかしたかったからだ。甘やかして甘やかして、私がいなければ何もできない男に先生をしたかったからだ。」(P367)
創路との水無月も悲惨だけれど、夫とのことを思い出すときの水無月も辛いんだよなあ…。
夫とのすれ違いみたいな部分や、夫との結婚がいかに幸せなものであったかがひしひしと伝わってきて…。
「私達は手を振って別れた。夕方にまた会える喜びに満ちた幸せな別れだ。今まで数え切れないほど繰り返された、幸福な休日。」(P182)
↑こういう幸せな気持ち、すごくわかる。いて当たり前で、夜になればまた同じ家に帰る安心感。
大好きな人と結婚して、幸せな気持ちがとっても伝わってくる。
「『デートなんて久しぶりだね』
前を向いたまま、夫は呆れたように笑う。
『もう結婚して四年だよ。デートじゃなくて単なる外出だよ、外出。』私はウーロン茶を口に運んで、そうか外出か、と思った。では私はこれから一生デートをすることはないのかもしれないと思った。」(P181)
「私達は共働きで平等だった。けれど夫はお茶碗ひとつ洗おうと
したことはなかった。会社に出かける彼に、ついでにゴミを出していってほしいと言ったら、冷たい顔で無視されたこともあった。」(P184)
「それでも私は、藤谷君を愛していた。」(P185)
「先生は過去にもしもを持ち込むなと言った。
けれど私は後ろを振り返らずにはいられない。どういうふうに人を愛すればうまくいくのか私には分からなかった。
常にベストをつくしてきたつもりだった。
なのに何故、私はこんなうらぶれた店で安いウイスキーなんかを飲んでいなくちゃならないのだろう。
鳴らない携帯を見つめ、入ってくるはずのない人を待って。」(P354)
好きとか愛してるって、相手に抱く疑問点をすべて飲み込むってこととは違うんだよね。
好きだから我慢する、ではないというか。そういう関係は、絶対にどこかで破綻する。(※経験済み)
私は水無月の気持ちがよくわかる…。
そして、ここまで行くと、もうそれは恋愛とか、好きとかとは違うということもわかる。
執着、これだけ時間をかけたんだから手離したくないとか、自分が一番になりたいとか、そういう、ドロドロとした感情でしかないんだよね。
まあ、そもそもが妻もいて自分は何番目かの愛人って時点で、本来はこんな人に手を出したらいけないんだよね。
こういう性格ならなおさら。
私は水無月までは行かないけれど、見えない敵(いま考えれば敵でもなんでもなく、それは彼の会社の同僚だったり、BBQに参加してた知らない女の子だったり、自分で敵にしてた)にいつも怯えて、自分の居場所をとられるのではないかって疑って不安で、だからこそ何か不満なんて言ったら、捨てられる、って本気で思ってた。
捨てられるくらいなら、黙っていよう、自分が辛くて、毎回傷ついて、周りからやめろと言われても、それでも別れを告げられるよりマシだって本気で思ってた。
それこそ本当に「中毒」だったと思うわ。
だからこそ私はもうそういう匂いのする人には近づかない。
水無月は結局いまだにその呪縛から解かれていないまま、本人ももうそれで良しと思っているのかもしれないけれど、私はもうあんな思いはしたくない。
自分を大切にできない恋愛にはハマりたくない。
水無月みたいに、当時のことは私もよく思い出すし、未だに「どうしてたらよかったのかな」とか思うこともある。
心が弱いとき、落ち込んでいるときとかによく思う。
過去をすごく振り返って、もしも、って思っちゃう。
けれど私はこのお話を読んで、水無月みたいに止まったままでいたくないと思ったし、もう二度と中毒みたいな恋愛はしないしそういう人には近づかないと改めて思った…。
読み応えはかなりあったな~そういう意味で。重かった。
私は共感できたのでわりとすんなり読み進められたけれど、普通の恋愛小説とは違って、ドロドロとした気持ちがほとんどのお話だから、幸せな恋愛を育んでいる人は読まなくてもいいのではと思うくらいです。。。
一度疑ったり不安になると、なかなか抜け出せないし。。。