あなたと、どこかへ
吉田修一・角田光代・石田衣良・甘糟りり子・
林望・谷村志穂・片岡義男・川上弘美
2018/07/22
★ひとことまとめ★
車に乗ってどこか遠くまででかけたくなるような気分になる
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
恋人と、妻と、兄弟と、家族と、あるいはひとりで…さあ、ドライブに出かけよう。かつてあった愛を探しに、いまここにある愛を確かめに。ここではない、どこかへ。あなたと、ふたりで。8人の短篇の名手が描く、8つの愛の情景。“クルマで出かける場面を用意すること”だけを約束事に8人8様の個性豊かな短篇アンソロジー。
【感想】
またまたアンソロジーを。
車で出かける場面が出てくるお話。
・乙女座の夫、蠍座の妻(吉田修一)
乙女座の性格と蠍座の性格を調べてしまった。蠍座ってこんなにおっとり?マイペース?なのかな? 乙女座が神経質っていうのは書いてあったけれど。子供ができたよってストレートに言うんじゃなくて、天秤座って伝えるところがなんだか可愛いなあと思った。
あと、合わない相手とは無理して合わせず、自分のペースで休日を過ごすっていうのが、こんな考え方もあるのだと参考になった。いままで自分は休みが同じなら一緒になにかをしないと!みたいに思っていた気がする。
・時速四十キロで未来へ向かう(角田光代)
う~ん、読んでいてほんとに容易に想像ができた。職場恋愛をしたら、こうなってしまうのが目に見えてるから自分は絶対職場恋愛しない。(そもそも社内に相手もいないけどw) うまくいっているうちは、恋愛も仕事も、もう無敵!幸せ!みたいな感じだろうけれど、うまくいかなくなったとき、それもこのお話のように、彼に好きな人ができて、その好きな人が取引先で、自分もよく合うし、しかも自分とは全く逆のタイプって目の当たりにしたら、それこそ本当にブレーカーが落ちるようにどうでもよくなると思う。仕事もいや、恋もいや、もう全部いやみたいな。
「びっくりした。なんでも全部うまくやっているつもりでいた。不幸や不運が立ち入ることのできないようびっちり隙なく防備しているはずだったし、不用意な落とし穴にははまらないよう慎重に歩いていたつもりだった。(中略)それが、ばばあに恋人を取られただけでがたがたなのだ。
みっともないことをずいぶんやらかして、あげく、ブレーカーダウン。真っ暗。こんなとこに行き着くために、大人になったわけじゃないのにな。(P52-53)」
この一文が胸にずしーんとくる。なんでだろうな~どうしてかな~みたいな気持ち、わかる。
そしてそんな落ち込んだ姉のために、車を借りてまでドライブに連れて行ってくれる弟がいるなんて素敵だ…。
・本を読む旅(石田衣良)
よくわかるなあ!旅というより、むしろ本が読みたいから旅する感じ。新幹線で良くでかけるけれど、必ず本を持っていくから、この気持ちはよく分かる。車が運転できると、車では読めないけれどその分何冊も持って行けてよさそうだな~!
・慣れることと失うこと(甘糟りり子)
月日が経つと、過去の恋を懐かしく思うこともあるよね。あのとき、信じてあげていれば。
「結局、自分たちが気兼ねなくはしゃげる話題は過去のことだけなのだ。(P110)」
久しぶりに会っても、楽しく話せるのは付き合っていた当時の話だけであって、お互いの今を楽しく話せないのはなんだか悲しいなあ。
・この山道を…(林望)
なんだかこのお話も切ない気持ちになる…。今も平和で安定している。過去のうまくいかなかった恋愛は、青春の美しい思い出に。
「結局さ、誰でも、もしかしたら、…今の人生とは全然別のところに、もっといい道があったかもしれない、ってそんな想念はずっとある。あるけれど、でもね、それはもうそうなんだと僕は思うよ。(P136)」
手に入らなかったもの、うまくいかなかったこと、そのほうが良く見えてしまうけれど、大事なのは今自分が選んだ道なわけだよね。思い出は思い出のままがいいこともあるよなあ。
・娘の誕生日(谷村志穂)
子供が20歳になって、ようやく二人のほっとする時間が取れると思っていたけれど、夫はそうじゃなかったのかな…と、娘の20歳の誕生日に思う祐子。でも、夫の茂信もちゃんと覚えていて、子育てが終わって寂しい気持ちの祐子にもきちんと向き合っていて読んでいて夫婦の絆が感じられるお話だった。こんな夫婦になりたいな~
・遠い雷、赤い靴(片岡義男)
最初読んだときは読みづらいと感じたけれど、もう1回読んでみたらなんだかきゅんとするお話だった。
よく付き合ったあの日のこととか、出会ったあの日のこととか、私は考えることがあるけれど、男性も同じこと考えるんだな~。恋のはじまりというか、恋からの結婚生活みたいな、それが始まったあの日と同じ日に、同じあの場所に訪れて懐かしむとか、いいな~。幸せを感じる。
・夜のドライブ(川上弘美)
母親との車での旅行のお話。すごく胸がじーんとした。
「うなずく母の頬やまぶたが薄くて、なんだか泣けそうだった。老いた母を見て泣くなんて、不吉なので、こらえた。(P205)」
「お母さん、とわたしは心の中で呼びかけた。お母さん。お母さん。意味もなく何回も呼びかけながら、わたしは両の手で、ハンドルぎゅっと握りしめた。(P205)」
何歳になっても母親への思いって変わらないというか、寧ろ親の老いを感じれば感じるほど、残り一緒にいられる時間の少なさとかを思って、悲しくもなってくるけれど、真由美みたいにドライブじゃないけれど、母親をどこかに連れて行ってあげたり、親孝行しておかないとなって思った。
全体的に感動系のお話が多くて読んでいてすっきりした。