Re-born はじまりの一歩
宮下奈都・福田栄一・
平山瑞穂・中島京子
豊島ミホ・瀬尾まいこ・
伊坂幸太郎
2018/01/14読了
【感想】
ちょっと気分が憂鬱気味だったので、元気が出るような本、明日からまた頑張れる本がよみたくなって、手に取った本。
・よろこびの歌(宮下奈都)
有名ヴァイオリニストを母にもつ玲。
自分もきっと音楽の道に進むと信じて疑わなかったが、志望の音大附属高校に落ち、名前も知らなかった女子高校に進むことに。
音楽を諦め、面白みのない毎日。高校生活にも何も求めず、ただ日々が過ぎてゆく。
そんなとき、合唱コンクールで指揮者に任命されたことから、少しだけ玲の日々が変わる。
玲の音楽の道については、この話の中ではハッピーエンドじゃあないかもしれない。でも、これからの玲の高校生活が変わるようないい終わり方だったとおもう。
・あの日の二十メートル(福田栄一)
志望大学に落ち、滑り止めの大学に入るも授業にも出ず、日々頭に取り付いた陰鬱な思いを振り払うためだけに市民プールで一心不乱に泳ぎ続ける、克彦。
そんなとき、市民プールで一人の老人、佐山に出会う。
彼は、ある事情から、なんとか20メートル泳げるようになりたいという。頼み込まれ、仕方なく佐山に泳ぎを教える克彦。
しかし、佐山に泳ぎを教えるうちに、克彦の心にも変化が現れる。
佐山の泳ぎたい理由、そして最後のラストも、うまくまとまっていてよかった。克彦の生活もいい方向に変わっていくのも、よかった。
・ゴーストライター(瀬尾まいこ)
長男と次男の苦悩。
自分の家が自営業の場合は、誰が継ぐかという問題が必ず発生する。
高校生のうちから、自分の道が決まっているのはどういう気持ちなんだろう?そして、自分の”家族”に馴染めない気持ちは、どういう気持ちなんだろう。
私にも弟がいるけれど、「必死で考えなくたって、妹のことぐらいだいたいわかる」という岡野ほどはわからない気がする。
・コワリョーフの鼻(中島京子)
ゴーゴリの〈鼻〉の話や、ハラルト・シュテュンプケの〈鼻行類〉の話を軸に、ゆくゆくは人の鼻が取れてしまう、ということやゴーゴリの鼻と、鼻行類の関係性を考えていく私と夫の話。
最初は小難しい話かと思ったが、芥川龍之介の「鼻」についてのあたりからのめり込んでしまった。
「鼻」の話を、「和尚ではなく、醜い女が整形手術を受けた話と考えてみればいいのだ」というあたりが面白い。
やっとの思いで整形をするも、周りに「あの人、整形してるのよ」と言って笑われる。なぜか女の顔はもとに戻ってしまう。そのために同情が戻ってきて周囲が笑わなくなったとしても、「はればれ」とはしないのではないか?という疑問も、そのとおりだと感じた。
そして、鼻を男性器に例えられるという話が出てきたと思ったら、ラストの4行でその伏線?を回収するような終わり方だったので、きれいにまとまった良いお話だった。
・会ったことがない女(平山瑞穂)
老人の唐津は、死ぬ前に「まだ片付いていない」ものを、片付けたいと思い、青年時代にやり残したことを片付けるための行動を始める。
友人、江添の妻マリコは「森村ハル」という年配の女性に取り憑かれており、マリコが「エクスタシイ」に達したところで、「森村ハル」は出てくる。
その「森村ハル」に、江添ともども見捨ててしまったことを謝るために、マリコを探すが、辿り着いた先にいたのはマリコの孫の悠里だった。
悠里の気遣いも、唐津の真面目さも読んでいて伝わってくる話だった。
・瞬間、金色(豊島ミホ)
ナナミとシンジュみたいな関係を築ける友達がいたら、私の中学時代は変わっていたのだろうか。
手を取り合って、2人ならみんなからシカトされたって、大丈夫って言えるような、そんな友達がいたなら、という気持ちで読んだ。
振り返ってみて、嫌なことも悲しいこともたくさんあったけれど、ナナミみたいに、「生まれてきてよかった」と思う瞬間もたくさんあった。
あと、ラストに書いてあった、「ばかでかわいそうでちっぽけな私たちだけど、多分、生まれた時に、ハッピーバースデイ、って心から思った人がいたってこと。(P225)」
この言葉を思い出すだけでも、なんだか嬉しい気持ちになれるなあと思った。
・残り全部バケーション(伊坂幸太郎)
家族が解散するって、どういう感じなんだろう。
父親が浮気したことから、家族が解散することになった、沙希。
ひょんなことからチンピラ?のような岡田とともに、家族はドライブをする。
微妙な距離感のある家族の会話と、サバサバというか、あまり興味がなさそうだけど、家族と打ち解けていく岡田とのやり取りが面白い。
でも、丸尾さんのあたりはなんだか、都合が良すぎるなあと感じてしまった。
「レバーをドライブに入れれば勝手に進む」「気負わなくたって、自然と前には進んでいく」
この言葉は、この本を読んだ時結構気分が落ち込んでいたときだったから、少し元気が出た。