何を隠そう、私にとって『泣いた赤鬼』の話は、子供の頃から、読んだり聞いたりするたびに必ずウルウル来てしまう「必泣」物語でした。人間たちに理解されずひどい目に遭っても、人間と友達になりたがる赤鬼の健気さ、そんな赤鬼のために、わざと悪者になることで赤鬼と人間の仲を取り持ちながら、自分は寂しく姿を消す青鬼の健気さ。こうやって書いているだけで、だんだん涙腺が緩んできます(恥)。


よく考えたら、こないだまでドラマでやってた『妖怪人間ベム』も何だか似たような話。


さらに拡大解釈すると、ジョン・フォード晩年の傑作西部劇『リバティ・バランスを射った男』だって、同系列と言えなくもない。東部から来た理想家肌の青年弁護士に成り代わって悪党を射殺、英雄の称号も惚れた女性も譲って歴史の影に消えていく西部男(ジョン・ウェイン!)は、まさしく「青鬼」(そうか?)。


で、この映画、予告編を観る限り、『泣いた赤鬼』よりも『モンスターズ・インク』色が強いように思っておりました。困ったことに、『モンスターズ・インク』も、私には「必泣」映画。話せば長くなるので理由は書きませんが、観る度に絶対泣きます(再恥)。


この2つが合体したような映画なんて・・・。観たいような、観たくないような・・・。

で、結局、観ました。観るのが(半分)仕事ですから。

予想通り、3分の2が『モンスターズ・インク』、残り3分の1が『泣いた赤鬼』でした(上映時間の配分も)。


まあ、素晴らしく上出来というほどでもないけど、ひどい駄作というほどでもないかな、と。


個人的な注目点は2つ。まず、後半に登場する(たぶん)インチキ怪物退治名人の3人の侍の声を担当しているのが、『秘密結社鷹の爪』のFROGMEN。一番小柄な侍なんて、声も喋りもまんま島根の吉田君(苦笑)。
ということは、(私が観たのはTOHOシネマズだったから関係ないけど)よそのシネコンで観ても、TOHOシネマズのマナームービーを観ているような疑似体験ができるわけです(違)。


その2。グンジョウ(=青鬼)がクライマックスで大暴れする時に巨大な怪物に変身するんだけど、その怪物のデザインや動きが、何だかハリーハウゼンのストップモーション・アニメに出てくるようなヤツっぽくて、ちょっとツボでした。

真珠湾攻撃70周年記念(?)で公開されるのでしょうか?

ほぼ同じ題名(「聯合」か「連合」かの違い)で、43年前に東宝が三船敏郎主演で製作した作品がありました。こちらは、円谷英二の特撮を売りにした戦記スペクタクルの趣がありました。と言っても、真珠湾攻撃とミッドウェイ海戦のシーンは、60年の『太平洋の嵐』からの流用でしたが(以後の東宝戦記ものも同様)。しかし、後半のソロモン沖海戦やガダルカナル島撤退、そしてラストの山本の戦死シーンなどは、新規撮影で見事な特撮の連続でした。

で、今回の作品です。宣伝文句に「戦争スペクタクル」みたいな文言が入っておりますが、戦闘シーンは割りと控えめ。どちらかというと、山本の人間ドラマが軸になっています。

三船はその後も『激動の昭和史 軍閥』とアメリカ映画『ミッドウェイ』と、合計3回も山本を演じたので、いわゆる「当たり役」と言っていいでしょう。今回は役所広司。私、以前から「今の日本映画界で山本五十六を演じるなら、役所広司あたりかな」などと(根拠はないですが)漠然と思っていたのですが、なぜか当たってしまいました。本当にふさわしいのかは私には分かりませんが。でも、映画を観ているうちに、時々役所さんの顔立ちが三船さんっぽく見えたのは気のせいでしょうか?

この映画、一人の新聞記者の視点も大きく導入されています。その記者役に玉木宏。恐らく、原作者の半藤一利がモデルなんでしょう。戦時下における報道のあり方に苦悩します。
この展開、『軍閥』で加山雄三が演じた毎日新聞の記者・新井(こちらも実在の人物がモデル)を連想させます。新井は、東条英機の独裁状態と戦局不利の真実を国民に隠している軍部のやり方に耐えかねて、日本の戦局が不利になっていることを報道します。ここでの新井と東条との対立の構図が劇的緊張感を生んでいました。さらに、連戦連勝だった開戦初頭は東条を持ち上げて国民を煽った新聞の「罪」にもきちんと言及していました。
一方、この映画の玉木記者は山本の人柄に感銘を受けるという程度の役回りですそういった点では、この作品での新聞の描き方や本筋への絡ませ方は(少なくとも『軍閥』と比べると)若干弱いという印象を受けました。

とは言え、当時の日本がいかにして戦争への道を歩むことになってしまったか、そしてその流れに抵抗しようとした山本の「良識」は、分かりやすく丁寧に描かれていて、その辺に詳しくない若い世代には勉強になるかも知れません。もっとも、実在の軍人たちの名前や役職を示す字幕(これも戦記ものの定番)がまったく出ないのは、ちょっと不親切かな?とも思いましたが。

役者さんは皆さん好演です。個人的には、新世紀ゴジラシリーズでの自衛官役や刑事役が多い中原丈雄(熊本県出身)が南雲忠一役に大出世したのが感慨深いですな。

あと、その「地味め」な戦闘シーンの特撮ですが、センスは非常にいいと思います。大半が記録映像のような雰囲気で撮られております。ミッドウェイ海戦で日本軍の空母3隻が炎上しているシーンでは、1隻ずつパンして映すという、『太平洋の嵐』(の円谷特撮)へのオマージュのようなカメラワークで撮りながら、それぞれを映す際に一瞬ピントが合わずにボヤけるというドキュメンタリー風映像にしているところがユニークです。特撮監督の佛田さん(こちらも熊本県出身)、相変わらずいい仕事してます。

不満はいくつかあるものの、まあ手堅い出来ではないかと思います。

先週は何本か試写を観せて頂いたのですが、バタバタしていてなかなか感想が書けず、今日になってしまいました。


問題作を発表し続けている園子温監督の最新作にして、初の原作物。しかもそのネタが結構過激な内容。おまけに主演の少年少女俳優がヴェネチア国際映画祭で最優秀新人俳優賞を獲得したこともあり、公開前からかなり話題になっています。


撮影開始直前に東日本大震災が発生したため、脚本を大幅に書き換えて被災地が舞台の話に変更したとのこと。被災地にカメラを持ち込んで収めた惨状には、本当に言葉を失ってしまうほどです。ただ、この設定の変更が活きていたかどうかは、正直言って疑問ですが…。


とは言え、ロクでもない親の鬼畜ぶりや、それに抗おうともがく主人公たちの姿を、情容赦ないタッチで描いているところは、さすが園監督です。


ラストは、園作品としては意外にも(?)どこか爽やかさを感じます。
確かに、これは「青春映画」の傑作です。


今週の火曜日=12月20日、RKK(熊本放送)ラジオで放送中の『小松士郎のラジオのたまご』の3時台のコーナー『フニオチ』に出演させて頂きます。7月に続いて2度目の登場です。お時間がある方は、ぜひお聴き下さい!

1週間前に観せて頂いていたのですが、あれこれ忙しくて感想を書くのが今頃になってしまいました。


いやあ、やっぱり矢口監督は上手いですな。


家電メーカーで地味な立場(=窓際)にいる男性社員3人が、社長の思いつきだけで、作ったこともない2足歩行ロボットを開発し、ロボット博に出品することに。ところが、当然うまく進まない上に、ロボットは不慮の事故で大破。思い余った3人は、ロボットの外装の中にピタリと入る人間を探し出して、ロボットの中に入ってもらうことに。その、とんでもない「着ぐるみショー」の主役に抜擢されたのが、73歳の偏屈じいさん。


じいさん役は、往年のロカビリー歌手ミッキー・カーチス。本作ではエンドロールに流れる主題歌も歌ってます。まあ、古くは岡本喜八、最近では三池崇史の作品のセミレギュラーのベテラン俳優でもありし、落語家でもあるので、この主人公役はバッチリ.

ロボットおたくの女子大生に吉高由里子。トーク番組やインタビューでの不思議ちゃんぶりを見ていると、この役は彼女の「地」に一番近いんじゃないかとも思ったりします。


で、ちょっとマニアックな部分を自作に入れる矢口監督。私が見るに、今回はヒッチコックネタをいくつか注入したと推察。ロボットのことがほとんど分かっていない3人が、大学生たちの議論を通してアイデアを盗むところは『引き裂かれたカーテン』と見た(板書というところがポイント)。それに、クライマックスはモロに『●●●』だなあ(これは間違いなくネタバレになるので、詳細は自粛)。

関係ないけど、『ハッピーフライト』の時に矢口監督にインタビューした際、『サブウェイ・パニック』の話で異常に盛り上がってしまいました。


私が思うに、矢口作品の特徴のひとつは「いろんな意味でベタついていないところ」。

『スイングガールズ』では、上野樹里と平岡祐太の間に(青春ものの定石通り)恋が芽生えそうになったと思ったら、思い切りなし。

『ハッピーフライト』でも、あれだけ女性キャラがたくさん出てくるのに、恋が芽生え(そうにな)るのは、綾瀬はるかたちスッチーではなく、地上勤務の田畑智子。

このように恋愛要素に限っても、あっさりめというかベタベタしてない。


この映画でも、「人生はおろか老人会の出し物でも主役になれないじいさんの“主役“への憧れ」と「孫に相手にしてもらえないじいさんが、ロボットになることで孫たちのハートを掴む」といった“芯”があるのですが、他の監督の作品と比べると、かなりあっさりとした描き方をしているような印象を受けます。でも、観終わった時にはしっかり心に残っているんです。

こういう芸当は、なかなか出来るもんじゃない。ここが、矢口監督の「上手さ」なんでしょうな。