昔話 | 〜ある夫婦の物語〜О夫妻に問いたいこと

〜ある夫婦の物語〜О夫妻に問いたいこと

夫さんは、もう居ません。
妻と息子二人が残されました。
夫の死後、10日余りでブログを引き継いだ妻。
夫の思いを繋ぐブログにしたい。初めはそうだったのかも知れません。
でも、違ったのです。

むかし、ある所に、顔を合わせる度に喧嘩ばかりしている夫婦がいました。

近所の人達は、初め、夫婦を心配していましたが、その内誰も構わなくなっていきました。

この夫婦の「妻」が、恐ろしい形相で、近所の人達を睨みつけながら、町内を歩くようになったからです。

誰からも声をかけられなくなって、本当は淋しくて仕方が無かった「妻」でしたが、どうすればまた以前のように話しかけてもらえるのか、考えても答えは見つかりません。

子どもの頃から一人でいる事が多かったからか、大勢に囲まれて「ワイワイ」と楽しそうな、クラスに必ず一人はいる「人気者」に強い憧れがあった「妻」

人気者にはなれなかったけど、「友達」は何人か出来ました。

「友達」と待ち合わせて登校、休み時間には昨日のテレビの話…。

本当はテレビを見せてもらえなくて、「友達」が話す事は分からなかったけど、嫌われたくなくて、一生懸命相槌を打ちました。

ある日の事。

いつもの待ち合わせ場所に行ったら、「友達」の姿がありません…。

それでもギリギリまで待って、なんとか遅刻しないで登校出来ました。

教室に入るとすぐに、「友達」の姿が目に入り、駆け寄って話しかけようとすると…。

「友達」はプイ!と横を向き、こちらを見てもくれません。

「〇〇ちゃん、あのね、私ギリギリまで待っ…」

「話しかけないで!」「もう無理なの!!」

何がなんだか、分かりませんでした…。

他にも何人かいたはずの「友達」、

この日を境に、誰も話してくれなくなりました。



「夫」は、ある地方で生まれ育ち、高校卒業と同時に

大都会・東京で働き始めました。

真面目で、遊んだ事も無いので、お金の使い方が分からず、田舎の母に送金をする事がただ一つの「生き甲斐」だった「夫」

そんな「夫」に、ある日届いた知らせは、兄の早過ぎる死を伝えていました…。

「夫」の父親が若くして世を去り、母と暮らしていた兄、「スポーツ馬鹿」の自分とは違い、学業優秀だった兄、大学進学を初めから諦めていた兄…。

「兄ちゃん、ごめん」

「オレばっかり、好き勝手して」

「兄ちゃんに代わり、これからはオフクロの面倒をオレがみるからな」

母親を東京に呼び寄せ、元々、真面目で面倒見の良い「夫」は、更に仕事に打ち込むようになりました。

そんな「夫」を見て心配した同僚が、一人の女性を紹介、とんとん拍子に話が進み、デートの度に「結婚」の話が出るように…。

「結婚したら、同居になるんだが、その…、」

「大丈夫、心配しないで!私、お義母様大好き!」



ふと、気がついて辺りを見回した「夫」、真っ暗で何も見えません。

身体のあちこちが痛くて、「伸び」をしようとしたら、何か固いものにぶつかりました。

とても狭い所に閉じ込められている、真っ暗で何も見えないのは相変わらずでしたが、それだけは分かりました。

喉がカラカラです。

不思議と「空腹」は感じません。

「夫」は、記憶を遡ってみました。

「寝ている自分」の上に、誰かが乗っていて息が苦しい、そして重い!

「どけ!」

ソレを払い除けようとしたのに、手が動かない…。

「誰だ、コイツ?」

こちらに背を向けているので、顔を確認する事は出来ません。

ソレは、小さな機械を触っているようでした。


次に気がついた時も、相変わらず辺りは真っ暗でしたが、少しだけ目が慣れて来たように思いました。

かすかに「犬の鳴き声」が聞こえたような…。

「暑いな」

何も無いので、手で汗を拭おうとしましたが、汗はかいていません。

汗をかいた「感覚」だけが、身体に残っています。

長い時間が過ぎた事は、なんとなく分かりますが、日付けは分からず、今日も昨日も曖昧です。

それでも「昨日」と思えるタイミングで、「妻」の夢を見ました。

「凄いケンカをした事があった気がするけど、原因は何だった?」


目の前に、夥しい数の「割れた食器」の破片が広がっています…。

鬼の形相で、「夫」を睨みつける「妻」

「なんでいつも私だけが悪者なの!」

「毎日揚げ物で何が駄目なの?」

「作ってもらえるだけ、ありがたいじゃないのよ!」

「いや、だから…、」

「そんなに言うなら、アンタが作れば?」

「オレは別にいいんだよ、でもオフクロには…、」 

「出来たら焼き魚とか、酢の物みたいな物を…、」

「はぁ?お義母さんとアンタ達で別メニュー?」

「私は家政婦?冗談じゃないわ!!」

「オフクロ、病院で脂を控えるように言われたから、少しだけ、気をつけてやってくれないか?」

「もう、いい加減にして!」

「私、ババァもジジィも、ホントは大嫌い!」

「お金を出して、好きな物食べてもらいなさいよ!」

「なんの役にも立たないのに、しぶといババァ!」

「なんだと!?もう一度言ってみろ!!」

「いいわよ、何度でも言ってあげるわ」

「クソババァ、さっさとくたばりやがれ!!」


「夫」の目に、亡き母の顔が浮かんで来て、汗同様に涙も実際は出ていないけど、「今オレは泣いているんだな」そう思いました。

「夫」の母は、ケンカの後、しばらくして「夫」の姉が嫁ぎ先に引き取り、姉の家族に見守られながら旅立ちました。

「オレが、あんな女と結婚したせいで、オフクロは」

「兄ちゃんにも、姉ちゃんにも迷惑かけて…」


「夫」は「妻」の前に立ちました。

「オイ!」

「…な、なによ?怖い顔して」

「一言だけでいいから、オフクロに謝れ」

「何にもしてないのに、なぜ謝るの?」

「何にもしてないからだろう?」

「毎日、毎日グウタラしやがって!」

「謝らないわよ、ワタシは悪くありませ〜ん」

「なんだと?」

同僚に「瞬間湯沸かし器」とあだ名をつけられるほど激昂しやすい「夫」の手は、「妻」の首を…。


「夢か…」

辺りは、相変わらずの真っ暗闇、「夫」は見えない両手を見つめました。

窮屈なこの「空間」にも、だいぶ慣れた気がします。

何時間、何日、何ヶ月、何年過ぎたか分からないけど

、二つ分かったのは…。

「自分がもう死んでいる事」 

「閉じ込められているのは復讐の為だという事」

何もかも諦めて生きて来たオレが、オフクロの事だけは許せず「妻」に言った、あの言葉。

「〇〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇〇!!」


今日も「夫」は、暗闇の中に居ます。

もしかしたら、「妻」がここから出してくれるかも?

あまり覚えていないけれど、確かこの家には、他に誰か居た気がする。

その「誰か」が気付いてくれるかも知れない。

「その日」を待とう、いつになるか分からないけど、諦めずに待ってみよう…。      〜完〜

                     



※このお話は、「フィクション」です。

 実在の人物とは、少ししか関係ありません。