
(Pearl ドラムセット "Export"EXX)
9月の演奏会では、軽音楽部とドラムセットを共用させていただいた。軽音さんが昨年だか一昨年だかに新規購入したドラムセットが、このPearl Exportシリーズなのだそうで、演奏した感じが、とても好もしい印象だったので書きとめておきたい。
(超)小編成吹奏楽の場合、舞台で軽音さんとドラムセットを共用するとなると、当方には“まったく”良いことがないのが普通なので、借りたりしないのが必定なのであるが、今回は「入れ替えすんの面倒だからこのドラムでいいよ~」って軽く返事しちゃった。(だってほんとに面倒くさい)
でも条件はちゃんとあって、付属の安っぽいシンバルは外し、吹奏楽部からの持込にしてもらった。ハイハットだけはなぜかPearl CX-600が付いていたので「どうしたのこれ」ってイカついバンドマンに聴いたら、軽音の倉庫にあったから「とりあえず付けた」んだそう。

(Pearl CX-600, Made in Japan)
「これお宝だよ!」という言葉はぐっと飲み込み、「ふーん…この先ずっと大事にしたほうがいいよ」と静かにアドバイスしておいた。
演奏効果よりも僕のノスタルジアの方が勝って、ハイハットだけはCX-600のままにしてもらうことにした。ちょっとスティックでタップすると、実に懐かしい音がする。1980年代の日本のバンド・サウンドだ。これは愉しい演奏会になりそう…。
シンバルは別にして、”Export”シリーズのドラムセットが、吹奏楽にマッチする理由は、以下の点である。
(1)タムタムが小口径&浅胴
(2)シェルが軟らかい木材(ポプラ&マホガニー)
(3)シェルマウント機構(シェル内部が真円)
(4)ハードウェアが十分すぎる機能と強度
(1)
2つのタムの口径が10インチ & 12インチのセットというのが素晴らしい。深さも7インチ & 8インチなので、ショット時の反応が良く余韻も短い。まさに小編成(35人未満)吹奏楽にピッタシ。
(2)
柔らかい木材というのは工業的に加工しやすく(特殊な例を除いては)安価になるようだ。その代わり耐久性がないとか、キズ付きやすいというデメリットがある。しかし、ことドラムセットという楽器に限っては、樹脂のカバーリングが巻かれているため、耐久性についてあまり考えなくてもいいと思う。真円性が犠牲になるのではないか、という向きもあるかもしれないが、それよりも、打音は「柔らかい」ので、木管楽器主体の編成によく溶け込む、という利点の方が勝ると僕は考えている。
因みに、ドラムシェルの最高峰「メイプル材」はいわゆる「硬い木材」で、打音も「硬い」。メリットは大音量を出せること(音が遠くに飛ばせること)と、反応が良いのでダブルストロークなどの小技が明瞭になることなど。一方で、小編成には「うるさい」ドラムになりがちだ。
昔は安価なドラムにバスウッドやラワン、中級グレードにマホガニーなどが使われていた。今回の”Export”シリーズにはポプラとマホガニーの合板が使われているという。マホガニーというと「軟らかい木」というイメージがある。ポプラについては初耳だった。いったいどのくらいの硬度なのであろうか。
ちょっと調べてみると、『木材博物館』というページが見つかった。ドラム・シェルに使われる主な木材について、引用させていただく。
【硬い木材の順】
●シュガーメイプル(メイプル):カエデ科/広葉樹:気乾比重:0.72
●バーチ:カバノキ科/広葉樹:気乾比重:0.69
●ビーチ:ブナ科/広葉樹:気乾比重:0.62~0.74
●アフリカンマホガニー(マホガニー):
センダン科/広葉樹:気乾比重:0.53~0.59
●アメリカンホワイトウッド(ポプラ):
モクレン科/広葉樹/気乾比重:0.50
●バスウッド:シナノキ科/広葉樹:気乾比重:0.42~0.52
シェル材の所謂「メイプル」は木材の種類で云うところの「シュガーメイプル」だと思われる。これは、カナダ国旗に描かれている北米産のカエデで、木目の綺麗な「バーズアイ・メイプル」もこれに属するようだ。
純粋な「マホガニー」は、いまや“高嶺の花”だというので、ドラム材の「マホガニー」とは「アフリカンマホガニー」なのではないかと勝手に推察した(間違っていたらごめんなさい)。
そして問題の「ポプラ」であるが、この名として使われる木材は、実は「アメリカンホワイトウッド」(別名:イエローポプラ)なのだそうで。たしかに、見た目はメイプルそっくりの真っ白で上品な色をしていた。
これらを踏まえて上表を見てみると、なるほど、強度にはこんなに差があるんだな…と一人合点した気分である。なお、木材の強度を表す数字として、ここでは「気乾比重」を用いさせていただいたが、この語の正確な意味は下記のとおりである。
「気乾比重」
(きかんひじゅう、英: relative density of dry wood, air-dried wood relative density)とは、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。木材の硬さや強度を表す基準の一つで、数値が大きいほど重く、小さいほど軽い。
(Wikipedia)
もっとも、シェル成形に当たってはその工程や接着剤の種類などによって、だいぶ硬度が変わってくるものと思われる。したがって、当ページの内容は参考程度のものとして記しておきたい。
参考HP:
「木材博物館」
(3)
1990年代の終わりごろ、僕はPearl MRシリーズを使っていたが、そのときにいつも感心していたのが、このタムタムのマウント構造である。プロ仕様のものは、いまでも、「I.S.S.tom Mount system」として残っているようだ(嬉しい)。何に感動したかというと、チューニング後の音程の正確さである。それまでのドラムセットの場合、タムタムにタムホルダーのアームを挿入してマウントするのが主流だった。それだと、タムタムの内径は真円にならずに、いつでも不要な反響・振動を金属のアーム部が起こしてしまっていた。それが、まったくなくなり、時間をかけてチューニングを追い込めば、実に綺麗な倍音とサスティーンを響かせることができるのである。これは感動である。今回の“Export”では、前日に僕が全体をチューニングした。予想どおり、澄んだ音がこのポプラ・シェルから奏でられたのである。周囲にいたバンドマン諸君に、とても感動してもらえたのが、オジサンとしては嬉しかったかな。

(オプティロックタムマウントシステム(OPL))
(4)
その昔、親に買ってもらった安い台湾製ドラムのハードウェアなんて、3ヶ月で壊れたものだ(シンバルは1日でフニャフニャに波打った)。それに比べたら天国である。最近の若者は本当に幸せである。オジサンは正直言って羨ましい。シンバルスタンドはダブルレッグ、ハイハットスタンドのペダル部分もスムーズなテンション。特筆すべきは、なんといってもドラム・ペダルである。”Demon Style”のP-930が標準装備されている。踏んでみたら、僕には上位の”DEMON SERIES”との違いがよく分からなかった。そのくらいちゃんとしている。単品で13,000円もする製品だ。

(Demon Style, P-930)
思うに、お気に入りドラムメーカーをPearlからYAMAHAに代えた後、現在までずっと僕に影響を残しているのが、この「ペダル問題」だと再認識。やっぱり、Pearlのペダルは僕に合っているようだ。というか、90年代にMRのセットで多くの練習を積んだため、Pearlでなければ「踏めなくなった」というのが正しいのかもしれない。だから、いまでも僕にとって一番踏みやすいペダルは、P-101P(Power Shifter)なのである。

(Power Shifter, P-101P)
「悪い点」についても記しておかないと広告記事と間違われそうなので。
バスドラムの口径が22インチ、それも深さが18インチもある。22インチの口径はバスドラの口径としては「標準」であるが、奥行きが18インチもあるというのはちょっと音が「太すぎる」。昔は14インチが主流だったのが、「深胴」ブームで16インチ・モデルがオプション的に現われた。バブル景気前の上昇気流の中でなんでも大型化し音量も上がった。球場(スタジアム)での野外ライヴというスタイルが生まれ、90年代にはドームやアリーナでのライヴが有名アーティストのステージの頂点となった。ドラムが「大きくなる」のは必定だったのだ。であるからして、タムは3タム+フロアーが当たり前、フロアーを2台というセッティングもあった。しかし、いまやタムをバスドラの上に1つだけマウントする、所謂3点セットがよく見られる。その頃を知っている僕ら世代には、18インチっていうのは「ヘヴィメタ」オプションなのである。18インチと聞いた瞬間、「へヴィメタかよ!」っていう小峠ばりのツッコミが入ってもいい事象なのである。まあ、口径が24~26インチでないだけマシなのであるが…。
次に、前の方にも書いたことだが、シンバルがダメ。いや、ダメっていうレッテルすらもったいない。買った瞬間に捨ててください、いや、買ってもお店に置いてきてください、っていう類い。なんでこういうシンバルを作っちゃうんだろう。初心者にはドラムを嫌いにならないようなレヴェルの製品を与えてほしいなあ。シェル本体の方は数段品質が上がっているだけになおさらである。
これに関して、いやいや小学生や中学生のバンド(吹奏楽)なんだから、最初はこのくらいのグレードでもいっか…とお考えの指導者(こういうことを考えるのはだいたい打楽器未経験の指導者だ)に出会ったとしたら、僕はぜったいに自説を曲げずに「ダメです! さっさと捨ててください!」と上から目線で叫ぶことであろう。付属のヘボいシンバルは、100%合奏音を汚すのである。そして、そんな汚れた合奏音を聴いた指揮者は、バトンを下ろし、ドラム担当の児童・生徒に必ずこう言うであろう。「もう少しキレイな音で叩きなさい」「ピアノで(小さく)」…と。それは無理というもの。どんなに「ピアノ」で演奏したって汚い音しか出ないんだから、また先生に怒られちゃうよ。それでドラムがキライになったり、自分に自信がなくなったりしたら、その子がかわいそうだ。本当に本当に。
あとは外観について少々。このEXXというシリーズのシェルはカバリングだ。上位機種だとラッカー塗装である。ラッカー塗装はシェルの木目が透けて見えて、高級感がある。そして薄い塗装だけに覆われるので開放的な音になる。一方のカバリングはシェルにもう一重、厚めの樹脂が巻かれるため、音がデッドになりやすい。しかし、ここは考えようで、小編成ブラスのためのセットなんだから、敢えて慎ましい感じのサウンドを選ぶのも「あり」だ。
最後に、スネアドラムについて。これはなかなか良いと感じた。ただし、チューニングとミュートをちゃんとすることが必要。チューニングはとにかくハイ・テンションにして、これ以上巻けないくらいボルトを締めると気持ちの良い音が鳴る。そのまま「カンカン」いわせてもいいし、ジェルで軽くミュートしてドライな感じにしてもいい。因みに今回、僕は後者で成功した(と勝手に思っている)。
繰り返すが、10万円以下でこのセットが買えるのは羨ましい。20インチのバスドラのラインナップがあり、シンバルとハードウェアなしのオプションが選べるのだったら、買ってもいいなとマジで思った。ポプラ・シェルは、慎ましやかでチャーミングな音のする楽器だった。