A Flood of Music -37ページ目

【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.3/3

■ 主要な編集履歴
┣ 2018.5.7:記事作成日
┣ 2023.7.5:記事全体を二分割(詳細)
┣ 2024.2.3:記事全体を三分割・投稿日時を同日付に変更(詳細)
┣ 2024.11.17:過去一大規模な改訂・投稿日時を同日付に変更
┗ 2025.7.1:本記事の最終更新日(20.を改訂・幾つかの埋め込みをリンクに変更)


□ 検索から本記事へ訪れた方へ:MV紹介のメインは1.~40.なので出来れば「【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.1/3」からお読みいただけると幸いです。

■ ナビゲーション
┣ 前々記事「Part.1/3」:MV番号1.~20.を紹介
┣ 前記事「Part.2/3」:MV番号21.~40.を紹介
┗ 本記事「Part.3/3」:MV番号41.以降を紹介

■ 趣旨説明と留意点
┗ 全般的なことは前々記事を参照してください

■ 本記事のみの注意事項

□ アメブロのブックマーク機能を用いたMVリンク集と連動した言及は前記事までに完了しており、本記事に紹介するのは「曾てブクマに登録していた(入れ替えによりブクマから外した)MV」です。


■ ラインナップ(41.~60.)

┝ MV番号. 曲名 / アーティスト名
┝ cf.=補足・補遺MV 曲名|曲名|曲名… / 〃=アーティスト名上に同じ
┝ 曲名*=後にMV番号を付しての言及あり('付き含む)

┣ 41. Set you Free / 電気グルーヴ
┣ 42. ありあまる富 / 椎名林檎
┝  cf. ありきたりな女|鶏と蛇と豚 / 〃
┝    能動的三分間|ハンサム過ぎて / 東京事変
┝    オーダーメイド* / RADWIMPS
┣ 43. difference / TAMIW
┣ 44. The Test / The Chemical Brothers
┣ 45. Repetition / Max Cooper
┝  cf. Circle World / Cyriak|Cirrus / Bonobo
┣ 46. 悲しみの子供たち / Maison book girl
┝  cf. 愛そうぜ! / CHAI
┣ 47. Transfer / livetune adding 中島愛
┣ 48. Keep Your DISCO!!! / the telephones
┣ 49. Deadly Media / Hexstatic
┝  cf. Ninja Tune*|Auto|Pulse / 〃
┣ 50. Diamond / Lorn
┣ 51. here comes the sun / Bill Wurtz
┣ 52. Declare Independence / björk
┣ 53. What You Want / Boys Noize
┣ 54. Staring At All This Handle / SIMIAN MOBILE DISCO
┝  cf. Remember In Reverse|Flying Or Falling / 〃
┣ 55. いいからテーピングだ。 / SILHOUETTE FROM THE SKYLIT
┣ 56. なないろ / BUMP OF CHICKEN
┣ 57. Alala / CSS
┣ 58. 雨にうたえば / monobright
┣ 59. floats & falls / DE DE MOUSE
┣ 60. りんごのうた / 椎名林檎
┝  cf. 真夜中は純潔 / 〃
┝    The Great Pretender / Freddie Mercury
┝    ルキンフォー / スピッツ|Full Circle / V6
┠ 60'. 再生 / Perfume
└ cf. Kiss & Cry / 宇多田ヒカル



■ MV紹介 ―No.41~50―

41. Set you Free (2020) / 電気グルーヴ


 生物を無機物に置き換えてみるという水平思考的発想に基いたMVで、脳内で想像するのは容易でもリアリティを伴った映像化には相応のスキルが必要と解る見事な仕上がりに、6.~7.で絶賛した田中秀幸監督の凄さを再認識します。このうち7.と共通しているのは水面の自然な処理で、しぶきの上がり方や光の当たり方にナチュラルな美しさを見出せるのは勿論のこと、カメラが水を被ると水滴が付く臨場感のある演出も芸細です。サムネがネタバレになっているのが勿体無い気がするけれども、船の浮上を目撃して過る「海に船は至当では?」の逆説的な違和感を、少し焦らした後に「人間の頭に乗っている!」で拭うズラしも水際立っています。


42. ありあまる富 (2009) / 椎名林檎


 本作の不思議さに係る制作背景は殊に興味深く、実際に物を高所から投げ落としてスーパースローで撮影したのか、或いはマンションから続く空をBGに別撮りした落下物を合成したのか、将又そうは見えないと思いつつもしかして全体がジオラマないしCGなのか…と断言を躊躇ってしまう映像世界が印象的です。観たまま説ではフレーミングや動線管理が余りにも綺麗に出来過ぎている気がしますし、ポスプロ説にしてもワイヤーを消したりCGを追加したりのVFXが駆使されていると感じます。特に細かい破片や塵の理想的な挙動は後付けでないと難しいのではと。

 加えて爆破の映像は落下速度に対して物体が四散するスピードが気持ち速いように見えるため、同一カット内ですら時間の流れが一定ではないのかもと勘繰る始末です。このように何方かと言えば撮影後に手を加えた部分が多いと睨んでいるものの、単に僕の物理法則への理解がお粗末なだけで落下速度も位置も爆破規模も全てが計算尽くの産物である線も否定出来ません。破片の類はチャフよろしく銀紙か何かを中に仕込めば撮影時に映えそうですしね。ちなみに9.の補足に挙げたMVにもスロー落下からの爆破という近しいシーンがありますが、同作に関してもその実態はよく解りませんでした。映画や特撮でも爆発の模様を綺麗に収めるのは難しそうだと素人考えで思うので、撮影時は勿論その前後にも種々のテクニックがあるのでしょう。

 補遺MVs:本作の監督である児玉裕一さんは公私共に椎名さんと関係の深い方で、ソロのみならず東京事変のMVも数多く手掛けています。仰けからインパクト抜群のイメージが静かにゆっくりと展開して目を見張る「ありきたりな女」(2014)や、壮大な物語の幕開けを予感させる高密度ぶりがアルバム1曲目の映像化に相応しい「鶏と蛇と豚」(2019)、曲名通りのオンタイムに拘った緊張感の漂う演出がパフォーマンスを輝かせている「能動的三分間」(2009)に、男性陣が主役のテーマ性を引き立てるダンディでモノクロームなビジュアルにK.O.される「ハンサム過ぎて」(2011)とフェイバリットが沢山です。後の72.で紹介するRADWIMPS「オーダーメイド」(2008)も下掲リンク先でお名前を出している2曲も児玉ワークスですし、他にも当ブログ上にレビューのある邦楽アーティストのMV監督が氏だったとのケースは間々あり、日本を代表する映像作家の一人と言えます。

 補足記事:Fantôme / 宇多田ヒカル     
       :今日の一曲!Ken Ishii「Green Flash」【『Möbius Strip』感想】



43. difference (2020) / TAMIW

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 ザ・想像力なMVです。スローモーションと回り込みのワンカットで魅せる手法は実にシネマティック;宛らSF映画のクライマックスで、この邂逅に辿り着くまでの曲折浮沈を想像する余地があります。時間の流れが錯視的なところも考察に値し、逆再生にも順再生にも映るシークエンスに深いストーリー性を感じました。ストレートに観るなら女性の後ろ歩きを根拠に逆再生と断じて、その発見を喜ぶあまりにガスマスクを外して抱擁してしまったがゆえに男性は斃れたと解せますが、雨が重力に逆らっていない点から順再生と仮定してみると、女性が傍に来たのを機に倒れていた男性が目覚めて訝し気にその存在を確かめていたら謎の斥力が働き出したため咄嗟に(見かけ上は徐に)ガスマスクを装着したとも取れます。


44. The Test (2002) / The Chemical Brothers

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 トラックのアシッドなコンセプト(詳しくは歌詞中の"acid test"で検索)に根差した超越的な世界観が素晴らしいです。27.の補遺にその名称を出した…と言っても飽くまでゲームの名前としてですが由来はまさに当該の幻覚剤にあるため、係る体験談に本作のようなトリッピーなものが在っても何ら可笑しくないと得心がいきます。界隈で「飛ぶ」を意味するtripが旅行を表すそれに由来するかは定かでないけれど、非現実的な場面転換に身を任せて奇妙で綺麗な空間を旅して行く様は、そちら方面での解釈も有力な楽曲の名を借りて擬えれば蓋しマジカル・ミステリー・ツアーです。手指が煙となって身体の輪郭がぼやけていく境界の崩壊に宇宙との調和を感じ取ったり、モノアイの子供を見て心が波立った後にファサードが倒れてくる二連の衝撃に自己の矮小さを思い知ったりと魂に来るものがあります。後者は映画『キートンの蒸気船』で有名なスタントへのオマージュでしょうか。


45. Repetition (2019) / Max Cooper


 曲名通りの「複写」で圧巻の映像美を創出したMVです。同一の構造物やオブジェクトが多量に配されているビジョンを通じて、超管理社会下の近未来都市に迷い込んだかのような気分に浸れます。そこから感じ取れる効率至上主義的な趣を非人間性に結び付けてディストピアと取るか、利便性の追求を本願と捉えてユートピアとするかは鑑賞者次第です。一方で時折挿入される雄大な自然の風景は有りの儘に提示されていると見え、そのスケール感の対比が「人造」そのものへの当て擦りに感じられます。単に大きさで及ぶ可くもないとの意味合いだけでなく、如何に一点物を謳おうと所詮人の手に成るものには再現性があるため(将来的に完全なるコピー技術が生まれるかもとの予測含む)、自然の芸術力ないし造形力には敵わないといった畏敬の念です。

 補遺MVs:この手の増殖系で著名なクリエイターにはCyriak Harrisさんの名が挙げられ、支配層が人間ではなくなっているものの都市設計丸ごとハイパーオートメーションの向きがある「Circle World」(2019)や、素材が古き良き時代のそれなので自動化のスタイルもレトロフューチャーなBonobo「Cirrus」(2013)などは、本作に似てトピアの前に何方を付すか悩めます。


46. 悲しみの子供たち (2019) / Maison book girl


 18.~20.で特集した美少女アニメーションMVの系譜とは異なり、アーティスティックな路線を突き詰めていくと高尚な映像作品または教育テレビの番組っぽさが滲み勝ちになるとの認識です。20.の補遺内ではこの点を否定的に捉えてTV番組『みんなのうた』を失礼な文脈で例示していましたが、ここでは係るアカデミックな匂いを是とした上でそのお利口さにカウンターを仕掛けるような尖った作風をこそ本作の魅力と主張します。サイケデリックな色彩にバイオロジカルな背景、耽美主義的或いは退廃主義的な変質に晒される少女達と、観たままの諸要素を取り立てるだけでも本作のインパクトは充分に伝わるでしょう。この狂気を論理的に読み解かんと最後に登場する管理者らしき男性を取っ掛かりにすれば、仮面の匿名性やコレクター気質の描写に加えて曲名と特に2番Aメロの歌詞に照らして客体化への批判である気もします。或いはもっとフィクショナルに、少女たちの悲しみを回収してエネルギーにするキュゥべえ的な存在なのかもしれません。

 補足MV:似たテイストでももう少しキュートなのが好いという方には、同じく水江未来監督によるCHAI「愛そうぜ!」(2021)が打って付けです。TVアニメ『ダイナ荘びより』のゆるい日常と潜在的な絶滅への恐怖が飴と鞭になって映像のカオスを引き立てています。


47. Transfer (2012) / livetune adding 中島愛

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 アニメMV紹介の流れを引き継ぎまして、背景美術が画面全体の印象を決定付けることの比較検証には本作が適例です。キャラクターの派手なモーションをバンクにする代わりに、BGにリソースを割いて説得力のある外連味を出せています。18.~20.で長々と説明した「無謀」VS「省エネ」の立脚地から語るなら、本編が存在しないのに深夜アニメらしい作風を6分近く維持している点が評価の対象です。そもそも僕がフル尺アニメMVの可能性についてあれこれ考え出すきっかけとなった作品ゆえ、従前は実際に本作への短評を叩き台とした一家言を本記事内に認めていました。それを後に18.の短評内にコラム化する改訂の過程で前述の対立軸を思い付き、更に内容を整理して19.と20.にも跨る現在の文章に落ち着いたため、その前後関係を無視して本作の試みを「省エネ」と断ずるのは僕の中でアンフェアです。従って、この一本だけで種々のアニメ表現にアクセス出来る網羅性をチャレンジ精神の顕れとします。


48. Keep Your DISCO!!! (2013) / the telephones

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 11.と同様にアナログ放送時代の再現が上手なMVで、とりわけ深いのはTVCMへの造詣です。演者の風采まで徹底していないのは役者ではなくバンドメンバーによる出演なので許容するとして、同じ商品に別パターンのCMを用意しているところ[1:33~1:41, 2:22~2:35]や、特定のTV番組やイベントの映像をバックに催し物の情報や天気予報を流す所謂ガイドタイムまでカバーしている[2:36~3:29]などのディティールを好んでいます。遂にはどんなにザッピングしてもCMしか映らなくなる(1chと3chでさえも)というオチも素敵で、この皮肉めいたあるあるが【01, 03, 04, 06, 08, 10, 12】の数列と共に提示されるととてもノスタルジックです。


49. Deadly Media (2000) / Hexstatic


 お次は再現ではなく当時のニュース番組を利用した作品を紹介します。と言ってもその判断が可能なのは日本語が発せられている動画だけで、ベルファスト合意を「去年の4月」と位置付けていることから放送時期は1999年の筈です。多言語で一方的に捲し立てられる立ち上がりは使用素材の全開示、キャスターの発言を切り貼りして作られたボーカルラインはカットアップの成果に過ぎないけれど、この制作方法がメディアの慣例に類似したものと意識すると、洗脳やミスリードには気を付けましょうねとアイロニックに映ります。

 補足MVs:現在の感性からすると22.の短評内で評価の対象外とした「趣味人によるMADの佳作」と何が違うのかと疑問に思う方も居るかもしれませんが、ヘクスタティックの非凡さは時代に先んじていた点にあり動画共有サービスが台頭して来るよりも前の話であるとの考証が出来れば高評価にも得心がいくでしょう。係る詳細は下掲の特集記事に委ねまして、元々がコピペ的なスタイルで撮られたらしいZ級映画『The Ninja Showdown』を爽快なエンタメに昇華させた「Ninja Tune」(2000)や、カーマニア且つ破壊音フェチ向けASMR動画の可能性を感じる「Auto」(2000)、詞先でも曲先でもなく映像先のトラックメイキングで制作フローが逆転した「Pulse」(2004)など色褪せないクリエイションは必見です。

 補足記事:Hexstatic (オーディオビジュアルパフォーマンスについて)



50. Diamond (2012) / Lorn

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 ゲームボーイのプレイ画面を思わせるドット絵に懐かしさを覚えるも、その内容はホラーテイストでディスプレイの不調演出も相俟って不気味に感じられます。とはいえ音に合わせてフィールドが変化する[0:44~1:05]はゲーム『リズム天国』みがあって楽しいです。映画『Die unendliche Geschichte(邦題:ネバーエンディング・ストーリー)』の虚無みたいに全てを呑み込む闇から逃げ続け、その化身のグモルクを彷彿させる死神にまで追われ始める主人公の業が気になります。善側だと信じたいユニコーンも死神の移動に利用された節がありますし、一見お供か案内役に見える黒猫も悪く言えば監視役延いて[0:25~0:29]の描写から「こいつが闇の正体では?」と猜疑心MAXです。



■ MV紹介 ―No.51~60―

51. here comes the sun (2021) / Bill Wurtz


 2021年に世に出たとは思えない程にローポリな3Dと事務的なフォントが織り成す、古き良きインターネット感がツボに入りました。格好良いだけのリリックビデオに食傷気味なのは29.や40.で表明した通りで、加えて歌詞通りにビジュアライズされたMVは余り評価しない価値基準なのですが、その傾向にあってしかも一般的な感性に照らせば時代遅れな表現方法を取っているのに、本作から受ける印象は不思議と洗練されたものです。この感想は映像クリエイターとミュージシャンの二物に卓越した才を持つビル・ヴュルツさんのキャリアを遡ると腹落ちで、尖った子供向け番組のようなアニメーションスタイルで既に爆発的な人気を博していたテン年代を過去にして、2020年代の本作からは3Dを使った技術力および表現力が当人比で格段に向上しているのを感じるため、流行や他者に左右されない地位を確立している存在なればこその革新性が目覚ましいのでしょう。

 補足MV:氏の名前が広くバイラルしたのは歴史学習系の動画「history of japan」(2016)にてで、テーマが日本史なだけに当時は我が国でも話題になっていました。同作は厳密にはMVではないけれど小気味良くテンポの速い語り口は宛らラップのようですし、要所要所でメロディアスな節回しと象徴的なSEが挿入されるので「歌って覚える」的な観方が可能です。学習教材としても有益で日本史の概略を学べるのは勿論、早口ながらに語彙も文法もシンプルで聞き取り易く英語の勉強にもなります。複雑なことを説明するなら込み入った文章にしなければ…と、外国語学習者が陥り勝ちな苦手意識の払拭にもなるでしょう。


52. Declare Independence (2007) / björk


 10.と30.で「音楽のためのビデオ」を作らせたら一頭地を抜く御仁であることを力説したMichel Gondryさんが手掛けたMVです。大掛かりな装置を使って楽曲のコンセプトを可視化した映像と言え、先導者(或いは扇動者)の独立を促す言葉の数々が拡声器を通じて同志に浸透していく様は滑車を流動するロープへの着色で、その場のボルテージが次第に上昇して行く過程はジャンプと連動してバナーが掲揚される仕組みの踏切板的なフロアで、係る革命の意志が伝播した結果どうなったかは上階に届いた真っ白なバナーがカラフルに彩られていく変化で表現されています。…と、このように反体制派に立った「目を覚ませ!」の解釈が王道とは思うものの、主体性なくロープに繋がれた軍服の一団がうねりに呑まれて騎虎之勢を得ていくのはプロパガンダによる集団催眠延いて洗脳的な絵面なので、被支配の恐ろしさをストレートに描いている気がしないでもありません。


53. What You Want (2012) / Boys Noize

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 続けて善悪の判断に迷う作品を紹介します。見るからにヒーローなコスチュームを纏った人々がその異能を生活の助けに利用しているコントラストがまず面白いですが、有事平時を問わずアドバンテージには違いないため無能の主人公が羨むのも無理からぬことです。劇中CM曰くの「ヒーロー教会に来れば簡単にタダで超パワーが!」が心に引っ掛かり、腕が雲の上まで突き抜けるチアリーダーズにまで後押しされたら訪問は自然の成行きでしょう。その後は案の定不穏な描かれ方で、そもスーパーマンのロゴ枠を逆様にしたシンボルを掲げる団体が正義側とは思い難く、ラストはヴィラン誕生の瞬間なのでは…と感じてしまいます。別の観方として縫製工場=労働力なら異能者は家電やサービスの擬人化にも映り、アーティストの言を調べたら「歌詞を消費主義のメタファーと解釈した」面はあるようです。


54. Staring At All This Handle (2016) / SIMIAN MOBILE DISCO

 YouTubeリンク

 シュールな現代アートばかりが展示されている美術館のハイブラウな側面を狂気でヴァンダライズするのが翻ってアーティスティックだと、敢えて意識高い系のスノッブな横文字で煙に巻く形容をすることで本作の深い意味が有りそうでその実ナンセンスかもしれない世界観のキャプションとします。表題のHandleからコロケーション的に動詞をSteeringに空目してしまうのは和製英語の弊害で、実際はStaringの曲名が意味するところは「ここにある全ての取っ手をじろじろ見ている」です。捩じれた展示物の前に佇む男性のカット[3:06~3:10]は確かにその通りの画と言えます。

 補足MVs:楽曲の収録先アルバムに於いては本作の他に2つのMVが存在し、ターンテーブルを使ったアナログとCGを回転させたデジタルのハイブリットでシンプルに物の造形美を見せる「Remember In Reverse」(2016)と、流体シミュレーションの結果をMVとして成立させた「Flying Or Falling」(2017)も併せて鑑賞すると一層楽しめる関連性です。というのも同作の物理演算エンジンでレンダリングが行われると前2作に登場したオブジェクトの数々が出現するので、制作の裏側を覗けたような気になれます。SAATHの黒大理石っぽい取っ手とRIRの放射能標識付きボンベのテクスチャが弾けて背景と化し、あの奇抜なカラースーツの男性がスタイリッシュに表れたのを機に闇の奥から相方の女性が巨大な顔だけで浮かび上がって来るラストは不条理に格好良いです。

 補足記事:Welcome to Sideways / SIMIAN MOBILE DISCO +α



55. いいからテーピングだ。 (2017) / SILHOUETTE FROM THE SKYLIT


 歌詞の通り本作には所謂「サムネ詐欺」でエンゲージメントを稼ごうとする狙いがシニカルに仕込まれており、主観な上に2020年末に確認した限りで恐縮ですが動画への低評価が一般的なMVと比べるとやや多い気がするのも、本当に騙されてイラっとした人間が一定数居たことの証左らしくて興味深くあります。普通にそのまま観続ければ彼シャツコーデの女の子達も再登場するため、徹底した詐欺ではないんですけどね。リリース当時には容易だった低評価数のチェックが現在では難しい代わりに、昔にはなかった機能として「リプレイ回数が最も多い部分(19.で「Most Replayed」と表記したものと同じ)」があります。その波を見るにやはり多くの視聴者が求めているのは、40.で歌われているような"女の子"を"踊らす"シーンなのだと分析可能です。ボーイズバンドのMVだからこそ虚しさ*を禁じ得ないけれど、釣りの瞬間にもピークが出来ているのを考慮すればしてやったりでしょう。

 補足記事:39!SB69!!『SHOW BY ROCK!!』の音楽の魅力 ―アプリ終了によせて― Pt.1


56. なないろ (2021) / BUMP OF CHICKEN

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 バスの窓を滴る雨粒から想像力を豊かに遥か上空まで働かせたのであれば、車窓に空想上の忍者を走らせる概念に近しい着眼点にはっとさせられます。なお、初見時は曲名と服の色から都合7人降って来るのかと予想していました。映像に関しては解放感と緊張感が共にあるダイナミックなカメラワークが素晴らしく、鮮やかな空模様の変遷と手繋ぎスカイダイビングにはアニメ映画『天気の子』が過りました。別に意識したわけではないだろうと断りつつともすれば双方に不快な比較かもしれない無遠慮をご容赦願いまして、5分足らずで2時間並の充足感を得られる濃密な視聴体験に賛辞を送りたいというコンテクストです。

 ※ 偶々ボーイズバンドのMVが続いたことで55.の結びの話を受けると誤解を招きそうなためフォローしますと、同作のように攻めたテーマ性でもない限りは異性へのフィーチャーが強くても特に虚しさは覚えませんし、寧ろ本作のようにバンドメンバーが出演しないタイプは勿論ドラマ仕立ての作品でならよくあることなので別段何かを論う気は起りません。強いて言うならガールズバンドのMVでメンバーではない男性がメインを張ることは少ないのではないか?との疑問が浮かんだくらいです。


57. Alala (2005) / CSS


 この流血・暴力沙汰に至るまでに何があったのかを逆再生で描くのが本作のプロットだとして、その真相は犬に躓いた女性が近くに座っていた男性に笑われて激昂したことに端を発するという、何ともくだらないきっかけから大人数を巻き込む大惨事に発展してしまったエスカレーションに、人間の愚かなリアルを見た気になって「あらら」と独り言ちました。特殊メイクがPG12ぐらいの怖さはあるので一応はその旨を遅蒔きに警告しておきます。と言っても時間の流れが逆ゆえに傷は段々と治っていくのがユニークで、コマ戻しで順再生にすればハロウィンメイクの参考になるやもしれません。

 補足記事:今日の一曲!CSS「Tutti Frutti Fake」―「らしさ」に疲れた今こそ聴こうCSS―


58. 雨にうたえば (2010) / monobright

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 演出的にもストーリー的にも没入感が高く短編映画のような充足感を味わえるMVです。影とシルエットを巧みに使ってスクリーンと舞台の連動性を高める撮影時の工夫だけではなく、映像作品なのでカット割りと編集による後付けの視覚効果も一助とした上で、視聴者の三つの視点(対スクリーン・対舞台・対ディスプレイ)を重ね合わせた立体感のある画面がデザインされています。現実世界と心象風景が綯い交ぜの場面転換も素敵で、記号化された植物とリアルなそれとが共存しているカットでは場所も時代も曖昧で幻想的です。

 補足記事:2人のストーリー / YUKI & 雨にうたえば / monobright


59. floats & falls (2012) / DE DE MOUSE

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 本作を気に入っている理由は非常に個人的であり、僕が普段好んで撮影するタイプの画で構成されているところに価値を見出しています。とりわけ夜の切り取り方に親近感を覚え、自分の世界の見方と近しいものにふれる経験はある種の癒しです。即ち都市や住宅街のこれと言って変哲もない場所や場面にフォーカスして、その際に成る丈人は映さないこと(自分自身は可)を美学とする方から共感を得られたなら同志と思います。これを人間嫌いやナルシストの質に取られるのは不本意でして、見かけ上は無人の構造物を通して今そこに生きている人々の営みを、延いては過去の人間が積み重ねてきた歴史を想像する余地に惹かれる次第です。


60. りんごのうた (2003) / 椎名林檎


 26.の補足で後述するとした「過去作を利用したMV」についてプチ特集します。20.と同様例外的に小見出しに立てたMVと補足・補遺MVの別を重視せず、複数の作品にまとめて言及することをお含み置きください。ここに紹介するのは言わばセルフパロディの数々で、単体では真の面白さに繋がり難いのが特徴と言えます。古くはFreddie Mercury「The Great Pretender」(1987)が思い当たり、所属バンドであるQueenのMVを曲名通り自らpretendする内容です。このように当事者が再現に全力な例に小見出しの一本があり、椎名さん出演のフィルモグラフィーを通時的に辿れます。当時妊娠中だったために急遽アニメMVに変更された「真夜中は純潔」(2001)の実写リベンジも兼ねているのが抜かりないです。

 ぱっと見は新作ですがプロップや構図などの要素で過去作を匂わせるタイプもあり、スピッツ「ルキンフォー」(2007)やV6「Full Circle」(2021)はその一例と言えます。総括的な仕上がりが必至となるので解散や活動休止に怯えるファン心理に結び付き勝ちで、事実V6のケースではMVの公開が解散の約2ヶ月前です。スピッツの場合は杞憂でしたが下掲のクリップ集レビューでは「当時解散説が出て少しザワっとしたのも懐かしい思い出」と、シングルコレクションのディスク評でも『この総括的なスタイルから、当時は「すわ解散か」と不安に感じたことを白状します』と振り返っています。

 補足記事:ソラトビデオ COMPLETE 1991-2011 / スピッツ Part.2
       :CYCLE HIT 1991~2017 / スピッツ その3

60'. 再生 (2019) / Perfume



 60'.として取り立てる本作は再現や匂わせではなく過去作をそのまま利用している点で特筆性があり、曲名通りの「再生」で3.と同じくリップシンクに特別な意味を持たせたスタイルです。似たような試みには20.の補足で最後にリンクした宇多田ヒカル「Kiss & Cry」(2007)があり、素材がMVではなくアニメなので本来なら18.で説明した「本編からの流用」の文脈で語るべきものだけれど、楽曲のタイアップ先映像まで拡大適用すれば22.のようにMAD方面での可能性が広がります。

 補足記事:今日の一曲!宇多田ヒカル「Kiss & Cry」【テーマ:即席ラーメン】



■ ラインナップ(61.~84.)

┝ MV番号. 曲名 / アーティスト名
┝ cf.=補足・補遺MV 曲名 / 〃=アーティスト名上に同じ

┣ 61. Musical Chairs / METAFIVE
┣ 62. Hold Your Hand / Perfume
┣ 63. Cowgirl / Underworld
┝  cf. Dirty Epic / 〃
┣ 64. 予襲復讐 / マキシマム ザ ホルモン
┣ 65. 贅沢ないいわけ / パスピエ
┣ 66. PRECIOUS / MEG
┝  cf. ひみつ~おもわせぶりver.~ / YUKI
┣ 67. Tiny Foldable Cities / Orbital
┣ 68. Straight Sun / 〃
┣ 69. Hollow / björk
┣ 70. Last Bloom / Floating Points
┣ 71. くるかな / Especia
┣ 72. オーダーメイド / RADWIMPS
┣ 73. N.E.O. / CHAI
┣ 74. yoakemae / Base Ball Bear
┣ 75. MOMENT I COUNT / BOOM BOOM SATELLITES
┣ 76. 鬼 / 吉澤嘉代子
┝  cf. 鬼 remixed by 佐藤優介 / 〃
┝    JL005便で ~Flight JL005~ (B747-246 Mix by Yoshinori Sunahara) / 椎名林檎
┝    UFOholic (Acid Abduction Mix / Video Edit) / 電気グルーヴ
┣ 77. ヘッドライト / OGRE YOU ASSHOLE
┣ 78. たりないeye / フレデリック
┣ 79. Don't / NakamuraEmi
┣ 80. 愛のしるし / スピッツ
┣ 81. HEY SISTER / SIMIAN MOBILE DISCO
┣ 82. Free Yourself / The Chemical Brothers
┣ 83. OLD BIKE / Rob Cantor
┗ 84. Ninja Tune / Hexstatic



■ MV紹介 ―No.61~70―

61. Musical Chairs (2016) / METAFIVE

 以降65.までリリックビデオを取り立てるのでその表記は短縮してLVです。本作に関してはデジタル地図上の移動経路情報というビッグデータ活用例でしか見ないような画でLVを作る発想にまず感心しました。但し飽くまでそれっぽく見せているだけで実際にGPS付きの車ないし人に歌詞のタグを割り振ったわけではないとの理解なので、最低限ローマ字に使う分だけのアルファベットを用意して現実の移動を反映させた文章つまり歌詞を完成させても面白いかもしれませんね。

 補足記事:METAHALF / METAFIVE + α


62. Hold Your Hand (2014) / Perfume

 51.への短評を一部再掲しますが「格好良いだけのLVに食傷気味なのは29.や40.で表明した通り」だからこそ、クラウドソーシングを利用した人海戦術と文字通りのハンドライティングという人の手に成る効能が最大限に活かされた本作に於いては、その素朴さや心温まる視聴後感に多大なる価値を見出せます。


63. Cowgirl (1994) / Underworld

 短い間隔で映像や画像が切り替わるフラッシュカード然としたMVは殊にVJ用ならそう珍しくない印象です。しかし本作は1994年の時点でここまでの多彩さを見せ、LVも兼ねているところに先見の明があります。29.と同じく擦られていない段階で世に出た作品は素直に格好良いと評したいです。

 補足MV:映像的に姉妹作であろう「Dirty Epic」(1994)もおすすめで、これらほどの激しさはないので適切な例示かは微妙だけれど、映画『セブン』のKyle Cooperさんが手掛けた有名なOPの雰囲気が好きな方には刺さるのではないでしょうか。

 補足記事:Live at The Oblivion Ball 24.11.07 / underworld



64. 予襲復讐 (2013) / マキシマム ザ ホルモン

 62.に再掲したLVへの持論的には一見気に入らなさそうな作風ですが、頻繁なフォントの変更と手を替え品を替えの表示方法で息も吐かせぬ趣向が凝らされており、キネポが単なる尺稼ぎや賑やかしになっていないのであればそれを批判する理由はありません。

 補足記事:今日の一曲!マキシマム ザ ホルモン「アカギ」【テーマ:麻雀】


65. 贅沢ないいわけ (2014) / パスピエ

 コマ撮り+POV+LVを同時に披露する出し惜しみの無さに、技法は複合させてナンボと言わんばかりの気概が感じられます。これが功奏してか視点が歩行者から車へと移行する際のシームレスさ[2:35~2:36]には驚かされました。

 補足記事:&DNA / パスピエ


66. PRECIOUS (2008) / MEG

 黒衣を使った昔ながらの手法でPK的異能を表現したMVです。30.のトリックアート的な部分もそうですが、コンピュータ上で処理したほうが見栄えのする演出を、敢えてアナログにやると味のある画が撮れる場合もあります。

 補足MV:とはいえ17.の終盤のようにデジタルで徹底的に不可視の処理を行っているからこそ、驚きがより一層映えるYUKI「ひみつ~おもわせぶりver.~」(2011)みたいなアプロ―チも好みです。


67. Tiny Foldable Cities (2018) / Orbital

 映像のテイストは61.に近く街の空撮が主体なので、TV番組『空から日本を見てみよう』のファンは気に入り易いでしょう。アグレッシブな編集が加わる[1:57]からは曲名の「小さく折り畳める都市」も納得のビジュアライズで、その天変地異らしい画を恐ろしく感じる人も居るかもしれませんね。

 補足記事:今日の一曲!Orbital「Hoo Hoo Ha Ha」


68. Straight Sun (2012) / Orbital

 9.の補足で引き合いに出した『UNIQLO CALENDAR』の愛好家だった方には本作もおすすめします。タイムラプス+時間操作+画面分割で空の動きや都市の営みを映す技法だけを取り立てると2012年の作品としては新鮮味に欠ける気はするものの、順再生と逆再生のスイッチングやトランジションのタイミングがオケとかっちり噛み合って、音ハメの観点から疾走感のある映像に仕上がっているのが加点対象です。


69. Hollow (2007) / björk

 生命の神秘をミクロ視点で観察したい時に打って付けのアカデミックなMVで、海中や宇宙空間を思わせる複雑さにインナースペースへの畏怖を覚えます。このように受ける印象が反対にマクロ的なのは楽曲が歌う通り、遥か往古の祖先から自分へと連なる記憶の螺旋が往事茫茫を脱して輪郭を取り戻した途端に、その途轍もない膨大さに気付いて圧倒されるからでしょうか。


70. Last Bloom (2019) / Floating Points

 植物の生態を早送りや接写で見せる教育コンテンツではお馴染みの手法も、本作のようにアート志向であれば嘘を交えてサイケデリックな照明でも許されるので表現の幅が広がる一例です。初めは特に疑問を持たず現実の何処かをロケ地にしたのだろうと思いましたが、改めるとこの映像を現場で撮るのは困難ではと気になり始め、メイキング動画を見たら精巧なジオラマと解り腹落ちです。



■ MV紹介 ―No.71~80―

71. くるかな (2014) / Especia

 11.~13.で集中的に言及したヴェイパーウェイヴの適用範囲には異論を挟む余地があったけれど、本作はまさにその語で形容して構わない典型例かと思います。ラウンジな音楽をバックに時代を感じさせるローポリなグラフィックスが、とても先進的でしょう?と得意げに表示されるのが心地好いです。これは51.を好む理由もなります。


72. オーダーメイド (2008) / RADWIMPS

 42.でそのワークスを幾つか紹介した児玉さん制作のMVです。51.への短評の中で歌詞通りのMVに否定的な見解を示しましたが、それは映像化の意義が薄い歌詞の陳腐さに原因を求められることが多いからであって、裏を返せば歌詞が良質ならそれを原案として映像作品に落とし込むだけでも、ある程度のクオリティは担保出来るものと考えています。本作はその好例で、詞華の咲き誇る詩趣に富んだ歌詞の映像化となれば、それは素敵に決まっているでしょうという至極当然の帰結で好きです。

 補足記事:今日の一曲!RADWIMPS「オーダーメイド」【平成20年の楽曲】


73. N.E.O. (2017) / CHAI

 22.の素材元と25.でその手腕の一端にふれた田中裕介監督の作品で、CMのディレクションも多く務めている方だからこそ、コンプレックス広告が跋扈する中で本作は強烈なカウンターとして機能します。動画の概要欄にある言葉を借りまして「ポガティブ」な発想転換が行えれば、過度なルッキズムに悩まされることもなくなるでしょう。


74. yoakemae (2011) / Base Ball Bear

 最近の言葉で表せばキャンセル界隈の日常に見えなくもない焦らしプレイと寸止め特化のMVです。他事を優先したいからというタイパ的な理由でもなく面倒臭いからと感情が先行しているわけでもなく、そのための準備はきちんと整えて後は完了させるだけのところで取り止める本作にはより複雑な心理状態が窺えます。完了恐怖症なる語は未だ存在しないけれどエンタメ作品にはエンディング・最終回恐怖症の概念はありますし、ワードとしてメジャーではないものの決断恐怖症(英:decidophobia)で説明出来る部分もあって、ともかくこれらを日常の行為にまで拗らせ始めたら立派に強迫症でしょうね。そのもどかしさを夜明け前の焦燥にダブらせつつも、終盤にはしっかりとカタルシスがあって夜明けを迎えんとする気持ちが蔑ろにされていないのは救いです。

 補足記事:yoakemae / Base Ball Bear


75. MOMENT I COUNT (2005) / BOOM BOOM SATELLITES

 只管にドアを開いていくワンアイデア系ですが、部屋番号がカウントダウンの役割を果たしているお蔭で曲名に違わぬ映像の提示と、オチへの期待感を高める演出が同時になされている点を評価しています。スリーセブンのドアには何かあるかもと期待を煽ったり、獣の数字のドアには罠らしきものが仕掛けられていたりと、関連性のある小ネタで変化を付けているのも細かいです。

 補足記事:今日の一曲!ブンブンサテライツ「Moment I Count」【平成17年の楽曲】


76. 鬼 (2021) / 吉澤嘉代子

 18.の説明文中から抜き出せばアニメの「EDでも主流たる静的なもの」に該当する類のMVと言えます。ベース絵の密度が高いのと素材不足を補って余りある可愛いモーションで、lo-fi hip hopを垂れ流すライブストリーミングチャンネルの背景映像みたいな、或いは中毒性のあるGIF画像みたいなミーマチックなところがツボです。

 補足MVs:加えて特筆すべきはリミックス音源「鬼 remixed by 佐藤優介」(2022)にも同種のMVがある点で、鬼っ娘の更なる一面を覗けます。16.と16'.の関係性も好例ですが、ミックス違いの音源のためにオリジナルのMVを踏襲したMVを制作する文化はもっとメジャーになって欲しいです。そもそも(リ)ミックス音源のMV自体がニッチで、42.の補遺で児玉ワークスとして紹介しそびれた椎名林檎「JL005便で ~Flight JL005~ (B747-246 Mix by Yoshinori Sunahara)」(2023)や、同じく45.の補遺にお名前を出したスィリアックさんが手掛けた電気グルーヴ「UFOholic (Acid Abduction Mix / Video Edit)」(2017)など、オリジナルにMVがあるかどうかは関係なしに監督の色が強く表れた力作は確かにあります。

 補足記事:2023年、夏、沖縄 ~Every Trip Has A Soundtrack~ その4



77. ヘッドライト (2009) / OGRE YOU ASSHOLE

 ポルターガイストの表現はそれこそ映画では往年と言っていいレベルの古典ながら、物がひとりでに動き出すことへの恐怖とロマンは時代を経ても変わりません。


78. たりないeye (2017) / フレデリック

 百合カップルの日常を盗撮しているかの如き危うい魅力に満ちたMVです。小物や衣装の色味も照明の質感も共にお洒落で、肉体の生々しさとの調和もアートに映ります。

 補足記事:TOGENKYO / フレデリック


79. Don't (2017) / NakamuraEmi

 本作を観て「自分には何も戒めるべき点はない」と考える大人が居たならそれは十指の指す所の聖人君子か、然もなければ己の未熟さを自覚するスタートラインにすら立てていない自称大人でしょう。

 補足記事:2017年のアニソンを振り返る・Part.3/5【春アニメ編】


80. 愛のしるし (1999) / スピッツ

 シチュエーションに合わせてメンバーの衣装が次々と変わる内容で、色んなバンドイメージを一挙に楽しめるカタログ的なお得感があります。本記事に於いてはアーティストのイメージビデオ以上の役割がないMVは埒外に置く方針ですが、その場のマドンナ(死語)を落とそうと必死になっている男性陣の構図に物語性を見て選出に至りました。

 補足記事:ソラトビデオ COMPLETE 1991-2011 / スピッツ Part.1


■ MV紹介 ―No.81~84―

□ 次の2作品についてはMV語りを含む詳細なレビューが別にあるためリンク先を参照してください。

81. HEY SISTER (2018) / SIMIAN MOBILE DISCO

 補足記事:MURMURATIONS / SIMIAN MOBILE DISCO

82. Free Yourself (2018) / The Chemical Brothers

 補足記事:今日の一曲!The Chemical Brothers「Free Yourself」

□ 次の2作品は当該のMV番号に短評を書いているもしくは特集記事への案内があるためそちらを参照してください。

83. OLD BIKE (2014) / Rob Cantor|→ 3.へ

 補足記事:NOT A TRAMPOLINE / Rob Cantor +α

84. Ninja Tune (2000) / Hexstatic|→ 49.へ

 補足記事:Hexstatic (オーディオビジュアルパフォーマンスについて)



■ TBA

□ 紹介したいMVのストックがまた一定数に達したら短評を副えて追記していきます。