今日の一曲!TOWA TEI「APPLE (WITH RINGO SHEENA)」
乱数メーカーの結果:869
上記に基づく「今日の一曲!」は、椎名林檎のセクション(869~888)からTOWA TEIの「APPLE (WITH RINGO SHEENA)」です。アーティスト名の通りテイ・トウワ名義の楽曲ですが、自作のプレイリスト上ではボーカルに椎名さんを迎えている点に鑑みた管理にしています。詳しい選曲プロセスが知りたい方は、こちらの説明記事をご覧ください。
収録先:『LUCKY』(2013)
テイさんに関しては上掲のプレイリストに枠を設けていないものの、オリジナルアルバムは一応全て聴いてきていますし時々に馴染みのある存在です。その証拠に当ブログでも幾度かお名前を出しており、最も古いものはfeat. MEGの「Lyricist」(2009)への言及でした。次いでサンレコ関連での言及が二度(①|②)あった後は、METAFIVEでの活動に於ける貢献について語っています。記事として最も新しいのは5年前のこれで、「APPLE」の名も出していました。ここの掘り下げは最後の備考欄で行うことにします。
『LUCKY』にフォーカスしておすすめを挙げるなら「APPLE」のほかに、高橋幸宏の寂声とインテリジェント且つポップなトラックの調和でメタファイブ結成の架け橋になったと言ってもいい「RADIO」や、バクバクドキンのサイケでキュートなイメージに見合った実験的なつくりの「TERIMA KASIH」、ゆったりとしたグルーヴと温かみのある電子音が映し出すレトロフューチャリスティックな音風景が心地好い「WARM JETS」あたりがフェイバリットです。
歌詞(作詞:TOWA TEI)
椎名林檎をフィーチャーしているから曲名は「APPLE」と直球のタイトリングなだけはあって(実際は先に曲名が決まってからオファーをしたそうですが)、モチーフも「禁断の果実」でこれまたストレートと言えます。「それは誤訳で~」云々のツッコミは扨置いていただければ幸いと逃げまして、原罪を受け継ぐ我々からの素朴な疑問にも、禁を破った人類に対する神からの呆れ声にも思えて意味深長な"ねえ どうして/りんご かじったの?"に、「土の塵で人を形づくり」とあるように語源の共通性からアダムを「地面」と解釈して、更に万有引力の発見のエピソードに託けているとも取れる"アダムだけじゃない/落とせない/これからも/ずっと続くの/この星のもと"と、種々のリンゴネタを彷彿させる内容です。
歌詞全体を俯瞰で見ると「知恵の樹の実」としての要素も盛り込まれている印象で、1番は"あふれでる/なみだ/くずれだす/おもい/ゆめのなか/みえた"と単純な言葉がひらがなで綴られているのに(次のスタンザではカタカナも入り混じる)、2番では"静寂の/気配/情報の/位相/偶然の/制御"と俄に使用語彙のレベルが上がって表記も漢字になり、3番では"奔り出す/想い/若草の/匂い/満ち潮の/風の流れ/決して変わらない"と文学的な言い回しで情緒纏綿な描写が行われています。これを段々と知識が深まっていく表現と解釈したわけですが、何れも懲罰的な言辞ではないためその実関係ないかもしれません。
メロディ(作曲:TOWA TEI)
メロディに関しては後の備考欄で紹介する『浮き名』(2013)の初回盤仕様のブックレットで読めるインタビューの内容が端的で、ミニマルなつくりを基本としながらも漸次的な変化で聴かせるところに魅力があるのは確かです。この言わばテクノ的なマナーは界隈のミュージシャンにとっては王道でしょうが、曰く「ポップス脳というかJ-POP脳」の椎名さんは当初その意図を掴み兼ねていたらしく、しかし歌ってみたら得心が行ったとの正直な述懐にふれることも出来ます。
最も変化量が大きくなる或いはフェイクが顕著になると表せるのは"風の流れ"~"この星のもと"のシークエンスで、とりわけ"アダムだけじゃない"の清々しい逸脱っぷりはカタルティックです。音楽ナタリーのインタビューで語られているように、ここの"アダム"の"ダ"はこだわった結果の発音らしいのでまさしく聴きどころと言えるでしょう。
アレンジ(編曲:TOWA TEI)
オケの変化が著しくては上述したメロディの妙味が薄れてしまうので、その点がしっかり考慮されたシステマティックなアレンジであると特徴付けられます。とはいえ決して無機質には感じられず、有機的なサウンドを電子的な制御で披露していると形容したい見事な融合です。延々とループしていたくなる中毒性を誇り、実際にループさせても耳が疲れない理想的な配剤となっています。ウワモノというか最も目立っている音のダンサブルなラインが特に好みです。
備考:『浮き名』(2013)
同作は「APPLE」の椎名林檎名義作品に於ける収録先です。『浮き名』の表題通り異性(男性アーティスト)とのコラボ楽曲がまとめられたコンピ盤で、このうち冨田ラボとの共作「やさしい哲学」は過去にレビュー(再リンク)しています。この時は同曲が本作でいちばん好きと述べていたけれども、今の感性では「APPLE」をトップに据えたいです。
冨田・テイ両名とのワークスは「お姫様体験」と回顧されており、その詳細はブックレット内の「歌手気分」のパラグラフに展開されています。ともすれば「いわゆる"歌手"の方」への皮肉と受け取れなくもない、ぶっちゃけた歌姫論は一読の価値ありです。
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