今日の一曲!RADWIMPS「へっくしゅん」
乱数メーカーの結果:583
上記に基づく「今日の一曲!」は、RADWIMPSのセクション(567~586)から「へっくしゅん」です。詳しい選曲プロセスが知りたい方は、こちらの説明記事をご覧ください。
収録先:『へっくしゅん/愛し』(2005)
一ヶ月前にレビューした「なんちって」(2005)に引き続き、インディーズ時代のナンバーの紹介です。収録アルバムは異なりますがどちらも同年の楽曲であることに加えて、日本語と英語がちゃんぽん且つ攻撃的な歌詞に展開の多いプログレッシブな楽想という共通項、そして促音を含むひらがなの曲名がぱっと見似ていることもあって、聴き始めの頃は両曲を混同していた記憶があります。笑
もう一方のA面曲「愛し」は『RADWIMPS 2 ~発展途上~』(2005)からのリカットで、上掲記事の短評では僕の周囲調べで女性人気が高かった点についてふれていました。アルバムに於ける同曲は「愛し ~明くる明け~」を踏まえて作品の中核を成す重要な存在であるとの認識ですが、本シングルに於いては「へっくっしゅん」から放たれる負の感情を宥める役割を持つと理解しています。
歌詞(作詞:野田洋次郎)
冒頭の英語詞は言わば注意喚起で、以降にネガティブでアグレッシブな内容が続くことを予感させるには充分です。果たして登場する日本語詞は、"「マジでもう死にてぇ 笑」 死んじまえ お前とか是非とも死んじまえ"と最悪なもので、"「お前の行くとこは天国じゃない」 と そう願ってやまない今日この頃"も、迂遠的な言い回しなれどつまるところは「地獄に落ちろ」なので、予感した通りの陰惨な構図が出て来たと言えます。
とはいえ主人公もこの状況には思うところがあり、直後に"NO!!!!!!!! ho-ho こんな想いにさせないでよ/いつからだか忘れたこの気持ち この体が日々求める怒り 痛み"と鬱積した過去が示され、しかし"これが喜び感じさせてくれる唯一の光"であるからしてダークサイド堕ちは免れず、"ならばね これをチョーダイしな"と更に過激な予告に戦慄する目まぐるしさです。これを受ける再びの英語詞では敵との確執が描かれ、互いに憎み合っていることが嫌でも伝わって来ます。その結論は"after all now All I do is just to kill him"で、やはり息の根を止めるしかないようです。
続く内省のパートは文面こそまだ理性的ですが、"僕は誰? なんてタブーを考える時 僕は自分を殺してみる"の思考実験が段々と現実味を帯びていくフローが示されているため、マイナス感情のベクトルが内向きになっただけで依然として危うさを孕んでいます。"僕が泣けば泣くほど誰か 笑えるんだと分かっていた/だけど僕も 一応いつも 毎日人間なんだ"が最もストレートな状況説明&素直な心情の吐露で、いかに普段から抑圧状態にあるかがわかり九腸寸断の思いです。この文脈下で死は解放となり得るので、"「今」を捨てて 僕を忘れ 人間の虹を空から見るの/笑うのかな 歌うのかな それとも呼吸を止めるのかな"のビジョンはさぞ美しく映るでしょうし、昇天した先の英語詞の切ない内容には一段と胸が痛みます。
ここでまたも怒りの英語詞が登場するのに鑑みて日本語詞から別の視点を提示しますと、まず"この詞[ここ]にない幾つもの怒りは 言葉になるのを恐れ逃げました/彼等は今 僕の中 溢れるのをひたすら待ちました"を、そのまま本曲に対する自己言及的な一節であると含み置いてください。これを取っ掛かりにすると"Shabby that's my name, you gave me a name, well thank you now I'm free"は、罵詈雑言が口を衝いて出て相手の耳に入り心のダメージとなるプロセスを名付けに喩えた表現とも受け取れ、この英語詞パート全体で理性と本能の鬩ぎ合い(言うべきか言わざるべきかの葛藤)が歌われているのではという気もします。某漫画の有名な台詞にもあるように、「それを口にしたら……戦争だろうがっ……!」の境地です。勿論そのまま自分対敵で解釈して、「アンタが不名誉な仇名を付けてくれたお蔭でこちとらぼっちだわ」とも訳せますけどね。
とはいえ"Can tell it"以降は寧ろ上述の言うべきか否かの葛藤で読み解いたほうが自然に思え、表題の「へっくしゅん」つまり「くしゃみ」も意図せず若しくは堪えきれずに口から言葉が飛び出す仕組みを指していると考えれば納得です。そして結びのフレーズもこれまた明確な答えを得にくい詞的なものですが、"嘘も空も 心の臓も 声も 時が動かすの/きっと誰も きっと「今」も 「静」など知りえないの/知りえないの and today someone's are afraid......"は、事もなげに負の連鎖は続いていくという残酷な現実を突き付けていると捉えました。
メロディ(作曲:野田洋次郎)
先掲の「なんちって」のレビューで述べたことと重複するけれども、僕が野田さんの作曲術で特に評価しているのは、一曲の中に幾つものメロディを詰め込むところです。本曲も実にプログレッシブな楽想を有しており、【AメロBメロサビCメロ…】とオーソドックスに区分していくことに困難が伴います。各用語の意味するところはリンク先を参照していただくとして、自分流のルールに則った通時的な理解は以下の通りです。
感覚的はプレコーラス(サビへ向けて盛り上がるセクション)に思える"I'll never gonna like you"~を、大きな変化量と繰り返し登場の原則から便宜上サビと規定すると、冒頭の英語詞パートがAメロ、"「マジでもう"~"チョーダイしな"がBメロ、一度目のサビ、"僕の中に"~"殺してみる"がCメロ、"この詞にない"~"人間なんだ"がDメロ、"もしも光の"~"僕は今から"がEメロ、"「今」を捨てて"~"止めるのかな"がFメロ、"I was dreaming of"~のスタンザがGメロ、二度目のサビ、二度目のFメロ、Aメロに戻って終わりとなります。
さすがにこれは刻み過ぎという気がしないでもなく、もっとシンプルに本曲の大部分はラップセクションであるという前提に立てば、上でいう【A】がヴァース1、【B】がヴァース2、【サビ】がフック、【C】がAメロ、【D】がヴァース3、【E】がBメロ、【F】がサビ、【G】がCメロ、【サビ'(二度目)】がフック、【F'】がラスサビ、ヴァース1に戻って終わりとなり、何とかCメロまでに抑えられました。ラップ調のパートをヴァース-フック式で、それ以外のパートをA/B-サビ式で捉えた上でまとめて表示しているわけですが、こうすれば先に"I'll never"~のスタンザを「感覚的にはプレコーラス」と書かざるをえなかったモヤモヤが多少は解消されます。
上記の区分では"「今」を捨てて"~の部分をサビと規定しているため、二度目の"嘘も空も"~もサビと扱うのが道理となり、するとこの直前に来るフックが役割的にはプレコーラスになるからです。まぁこうなると今度は"「今」を"~のところをサビとするのは感覚的にどうなの?とツッコミを入れたくなるものの、一応は変化量と繰り返しの原則に沿ったメロディなので定義通りとします。同時にサウンド面では最も激しいと言える"I'll never"~をフックと扱うことで、サビという用語は適さないけれどもサビらしく振る舞っているセクションの収まりが良くなるメリットもあるので、後者の区分にも意義は充分にあるとの認識です。
アレンジ(編曲:RADWIMPS)
このように複雑な楽想を有していることに加えて、旋律性の高い部分とそうでない部分が混在する楽曲であるので、総括的にはミクスチャーロックと形容したくなります。時にハードで時にテンダーなバンドサウンドの緩急で魅せている点は非常にロックだけれど、特に冒頭のヴァース1・2には電子制御の向きが感じられますし、フック裏のストリングス使いも打ち込み感が顕です。
歌詞内容に合わせた変化では、先に「昇天した先の英語詞」と表現した"I was dreaming of"~のパートがユニークで、神聖性の高いコーラスワークと教会音楽らしいオケのコンビネーションにより、天使のお迎えのサウンドスケープが浮かびます。
備考:『RADWIMPS 3 ~無人島に持っていき忘れた一枚~』(2006)
同作は「へっくしゅん」のオリジナルアルバムとしての収録先です。個人的にかなりオススメしたい一枚で、自作のプレイリストに照らすと上位20曲までには「へっくしゅん」の他に「最大公約数」と「セプテンバーさん」が、上位40曲までに「閉じた光」が、上位60曲までに「25コ目の染色体」と「イーディーピー ~飛んで火に入る夏の君~」がランクインしています。ここから漏れた残る6曲も別に気に入っていないわけではなく、有り体に言って捨て曲がないなと高評価です。
野田さんの自由な作曲センスが炸裂しているのも本作の特徴で、一曲を分解して三曲ぐらい作れそうな詰め込みっぷりに、出し惜しみしない心意気が感じられます。特に「最大公約数」の楽想と音運びはキャリア随一と位置付けたいほどに素晴らしく、単なるパッチワークで適当にメロディの断片を繋げているわけではないとわかる綺麗な展開に脱帽です。