今日の一曲!フジファブリック「赤黄色の金木犀」 | A Flood of Music

今日の一曲!フジファブリック「赤黄色の金木犀」

 

乱数メーカーの結果:1030

 

 上記に基づく「今日の一曲!」は、フジファブリックのセクション(1026~1040)から「赤黄色の金木犀」です。詳しい選曲プロセスが知りたい方は、こちらの説明記事をご覧ください。

 

 

収録先:『赤黄色の金木犀』(2004)

 

 

 メジャーデビューシングル『桜の季節』(2004)から連作でリリースされた四季盤の第三弾です。つまり本作のテーマは「秋」で、c/wも「虫の祭り」とタイムリーなモチーフで統一されています。

 

 Wikipediaにソース無しで書かれていた情報なので真偽は不明ながら、ミックスを元々は高山徹さんが手掛けていたという情報は気になりました。高山さんのお名前は別バンドの記事に出したことがあり()、ミキサーとしての手腕について「ザラっとした質感を付与することに長けていらっしゃる」と評した御仁です。結果的に本作のミックスは片寄明人さん(M1)と川面晴友(M1, M2)さんが手掛けていますが、確かに両曲とも高山さんの領分とは異なる気がするので変更には得心がいきます。

 

 高山さんのミックスは四季盤でなら「陽炎」(2004)で、エンジニアリングでなら「Surfer King」(2007)を始め『TEENAGER』(2008)の収録曲で確認可能です。恣意的に「夏」を抜粋したのは否定しないけれども、やはり何処か砂っぽいサウンド(誉め言葉)で真価を発揮するタイプだと再認識しました。3人体制になってからの例示では『STAR』(2011)収録の「Splash!!」も好例ですかね。「君は炎天下」も曲名的には挙げたいものの、同曲はアイリッシュ要素が強くて寧ろ瑞々しいため決して一辺倒ではないとフォローします。

 

 

歌詞(作詞:志村正彦

 

 話が逸れて季節が戻ってしまいましたが、本曲のテーマは秋です。とはいえ立ち上がりは夏を惜しむような内容で、"もしも過ぎ去りしあなたに/全て伝えられるのならば"に、"冷夏が続いたせいか今年は/なんだか時が進むのが早い"と回顧的です。これらの言辞からは「夏が最高過ぎたから終わるのがつらい!」といった健康な思いよりも、「なんだか夏に色々と遣り残してきちゃったなぁ…」という未練や後悔を感じられます。

 

 だからこそ生き急ぐ理由が出てきて、"僕は残りの月にする事を/決めて歩くスピードを上げた"で加速をするけれども、"赤黄色の金木犀の香りがしてたまらなくなって/何故か無駄に胸が騒いでしまう帰り道"と焦りが頭を擡げ、秋への変化を受け容れきれていないのが切ないです。季節が進んだことの表現としてはベタかもしれませんが影の長さへの言及が巧くて、"いつの間にか地面に映った/影が伸びて解らなくなった"と、失せ物が何だったのかさえ忘れたかのような喪失感に胸が締め付けられます。

 

 

メロディ(作曲:志村正彦)

 

 四季を構成する一曲なだけはあって、日本の秋を想起させるに相応しい旋律です。ヴァースは歌詞内容に同調した儚げなラインではありますが、その無常に於いても比較的信頼の置けるもののひとつに呼吸があり、ここの音運びは自身のそれを指針としている風に聴こえます。

 

 "赤黄色の金木犀の香りがして"で俄に見当識を得るコーラスは、視覚と嗅覚の覚醒に伴い聴覚も刺激されたがゆえか、はっとさせられるような美しさのメロディです。単に聴くだけでも良いメロだと思うけれど、自ら口遊んでみるとその流麗さが一層際立ちます。とりわけ"胸が騒いで"の「わいで」をレガートに歌うと情緒纏綿です。

 

 間奏を挟んでブリッジでは最も感情を揺さぶられます。演奏に因るところが大きいとはいえ旋律そのものも転び落ちそうな勢いを誇っており、"あの日の言葉が消えてゆく"のを止められない焦燥感が顕です。楽想的には2番が無いと言いましょうか、間奏後の展開をブリッジとコーラスだけでコンパクトにしているのも、秋の日は釣瓶落しの画が浮かぶ駆け足の構成でグッっときます。

 

 

アレンジ(編曲:フジファブリック)

 

 イントロのアルペジオだけでも曲名に違わぬサウンドスケープの提示として満点ですよね。舞い散る木の葉が見えた或いは漂う花の香りがしたと表現したい、空気の動きを感じ取れる音遣いと言えます。あとはやはりドラムスの多弁さが素晴らしく、"歩くスピードを上げた"に呼応したロールもブリッジでの激しさも状況および心情にリンクした納得のプレイです。

 

 

 
 

備考:『フジファブリック』(2004)

 

 

 同作は「赤黄色の金木犀」のオリジナルアルバムとしての収録先で、四季盤曲のうち冬以外は網羅されています。プロデューサーはミックスのところでふれた片寄さんで、バンドの持つ魅力を全力以上に引き出すことに成功している名盤です。

 

 自作のプレイリスト(フジは15*3の全45曲編成)準拠でも、上位15曲までに「TAIFU」「赤黄色の金木犀」「打上げ花火」「陽炎」が、上位30曲までに「追ってけ 追ってけ」「サボテンレコード」が、上位45曲までに「桜の季節(Album ver.)」が入っているため、相当に気に入っているとわかります。