今日の一曲!Ken Ishii「Green Flash」【『Möbius Strip』感想】
今回の「今日の一曲!」は、Ken Ishiiの「Green Flash」(2019)です。『SUNRISER』(2006)から実に13年振りのリリースとなったニューアルバム『Möbius Strip』の先行EP収録曲で、同盤には「(Album Mix)」として収められています。なお、記事タイトルでは字数制限の都合上省略しましたが、厳密にはKEN ISHII with DOSEM名義のトラックです。
当ブログにケン・イシイの単独記事を立てるのは、テーマ【平成の楽曲を振り返る】の一環で代表曲「EXTRA」(1995)をレビューして以来となります。当該エントリーそのものには記さなかった情報ですが、コメントへの返信の中に「本人のTwitterを見たところ、今年はアルバムを出すそう」と書いてある通り、去年は元日から来る新作に大きな期待を寄せていました。いくつかの楽曲が先んじて公開されつつ、満を持して11月27日に放たれた『Möbius Strip』は、デトロイトから続くソリッドな流れを確かに現代へと受け継ぐ;変わらぬケン・イシイらしさと、細やかな音遣いと多彩な音色によって高度なリスニング体験に至れる;進化したケン・イシイのスタイルが、絶妙に配されて良質のハーモニーを奏でている一枚だったと評せます。
児玉裕一監督によるMVがまさに楽曲の世界観を表現していると感じた01.「Bells of New Life」は、無機質な建造物の隙間を透過していく陽光のようなと喩えたい、テクノらしい硬派な音の積み重ねとグリッターなサウンドが織り成す多幸感が素晴らしい名曲です。祝福の鐘によって華々しく飾られた新生活ないし新生命の幕開けが、ラストの13.「Like A Star At Dawn」で影を落とした幕引きを迎えるストーリー性も好みで、音のひとつひとつは綺麗目のつくりでジャジーな質感すら漂わせているお洒落なテイストでありながら、断続的に押し寄せる波の如き揺らぎが全体を支配しているせいで、表題よろしく夜明けに姿を暗ます星の定めに想いを馳せて切なくなってしまうのと同時に、また夜になれば視界に収めることが出来るといった循環への意識が、メビウスの帯を冠した作品のクロージングに相応しいと絶賛します。
この旅路の道中に位置付けられる02.~12.の各曲には、種々の経験を思わせる多様なアイデアが鏤められており、電子音楽好きとして…というか奇妙な音へのフェティシズム持ちとして、惹き付けられるトラックが多かったです。個人的な嗜好では本作のマスタリングを砂原良徳が手掛けていることも大きく、まりんの作品では『liminal』(2011)のエクスペリメンタルなサウンドスケープをいちばんのツボとしているので、本作でもIDM的またはインダストリアルな趣のある楽曲の響きを特に気に入っています。中でもGo Hiyamaとの共作である06.「Silent Disorder」は、中盤の「もはやSE集」と表現したいコードレス且つメロディレスなセクションが衝撃でした。また、巨匠・Jeff Millsとのコラボナンバーも二曲収録されていますが、より好みだったのは実験的な11.「Quantum Teleportation」のほうです。単独名義曲でも、ビート構築に並々ならぬこだわりを覚えた09.「Skew Lines」には、とりわけ繰り返し聴きたくなる魔力が宿っていると主張します。
おまたせしました、ここからが記事タイトルに据えた05.「Green Flash (Album Mix)」への言及です(上掲動画の試聴音源とは異なります)。冒頭でも軽く説明しましたが、スペインのクラブシーンに於ける重要人物・ドゼムと制作を共にしたトラックで、元々は先行EPの収録曲でした。アルバムを初めて通して聴いた際に、最も「ケン・イシイっぽいな」と感じたのが同曲でして、殊更にらしいと思ったポイントは、2:49から始まる旋律性の高いベースラインです。過去曲を引き合いに出すならば、「Visionary World」(2002)のそれを彷彿させる低音部で、しかしそれをリフ的に最後までゴリ押すのではなく、あくまで楽曲の一要素として扱っている(3:50以降には登場しない)ところに、年齢を重ねたことで滲み出る類の確かな進化が窺えます。
当該のラインが同曲では最もキャッチーな部分との認識であるため、それを主軸に置いて聴けばノリやすいテクノと言えるものの、細部にまで意識を向けてみると、その実かなり作り込まれた複雑な音像が浮かんできて、こうした二段構えの構成にこそ枢機がある印象です。この観点は『Sound & Recording Magazine』2020年2月号で読めるインタビューでもずばり語られていて、聴き込むことで全ての音に身を任せられるようになってからが本番と評せるタイプのトラックの存在が、そのまま一流の証であると考えます。
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当ブログにケン・イシイの単独記事を立てるのは、テーマ【平成の楽曲を振り返る】の一環で代表曲「EXTRA」(1995)をレビューして以来となります。当該エントリーそのものには記さなかった情報ですが、コメントへの返信の中に「本人のTwitterを見たところ、今年はアルバムを出すそう」と書いてある通り、去年は元日から来る新作に大きな期待を寄せていました。いくつかの楽曲が先んじて公開されつつ、満を持して11月27日に放たれた『Möbius Strip』は、デトロイトから続くソリッドな流れを確かに現代へと受け継ぐ;変わらぬケン・イシイらしさと、細やかな音遣いと多彩な音色によって高度なリスニング体験に至れる;進化したケン・イシイのスタイルが、絶妙に配されて良質のハーモニーを奏でている一枚だったと評せます。
児玉裕一監督によるMVがまさに楽曲の世界観を表現していると感じた01.「Bells of New Life」は、無機質な建造物の隙間を透過していく陽光のようなと喩えたい、テクノらしい硬派な音の積み重ねとグリッターなサウンドが織り成す多幸感が素晴らしい名曲です。祝福の鐘によって華々しく飾られた新生活ないし新生命の幕開けが、ラストの13.「Like A Star At Dawn」で影を落とした幕引きを迎えるストーリー性も好みで、音のひとつひとつは綺麗目のつくりでジャジーな質感すら漂わせているお洒落なテイストでありながら、断続的に押し寄せる波の如き揺らぎが全体を支配しているせいで、表題よろしく夜明けに姿を暗ます星の定めに想いを馳せて切なくなってしまうのと同時に、また夜になれば視界に収めることが出来るといった循環への意識が、メビウスの帯を冠した作品のクロージングに相応しいと絶賛します。
この旅路の道中に位置付けられる02.~12.の各曲には、種々の経験を思わせる多様なアイデアが鏤められており、電子音楽好きとして…というか奇妙な音へのフェティシズム持ちとして、惹き付けられるトラックが多かったです。個人的な嗜好では本作のマスタリングを砂原良徳が手掛けていることも大きく、まりんの作品では『liminal』(2011)のエクスペリメンタルなサウンドスケープをいちばんのツボとしているので、本作でもIDM的またはインダストリアルな趣のある楽曲の響きを特に気に入っています。中でもGo Hiyamaとの共作である06.「Silent Disorder」は、中盤の「もはやSE集」と表現したいコードレス且つメロディレスなセクションが衝撃でした。また、巨匠・Jeff Millsとのコラボナンバーも二曲収録されていますが、より好みだったのは実験的な11.「Quantum Teleportation」のほうです。単独名義曲でも、ビート構築に並々ならぬこだわりを覚えた09.「Skew Lines」には、とりわけ繰り返し聴きたくなる魔力が宿っていると主張します。
おまたせしました、ここからが記事タイトルに据えた05.「Green Flash (Album Mix)」への言及です(上掲動画の試聴音源とは異なります)。冒頭でも軽く説明しましたが、スペインのクラブシーンに於ける重要人物・ドゼムと制作を共にしたトラックで、元々は先行EPの収録曲でした。アルバムを初めて通して聴いた際に、最も「ケン・イシイっぽいな」と感じたのが同曲でして、殊更にらしいと思ったポイントは、2:49から始まる旋律性の高いベースラインです。過去曲を引き合いに出すならば、「Visionary World」(2002)のそれを彷彿させる低音部で、しかしそれをリフ的に最後までゴリ押すのではなく、あくまで楽曲の一要素として扱っている(3:50以降には登場しない)ところに、年齢を重ねたことで滲み出る類の確かな進化が窺えます。
当該のラインが同曲では最もキャッチーな部分との認識であるため、それを主軸に置いて聴けばノリやすいテクノと言えるものの、細部にまで意識を向けてみると、その実かなり作り込まれた複雑な音像が浮かんできて、こうした二段構えの構成にこそ枢機がある印象です。この観点は『Sound & Recording Magazine』2020年2月号で読めるインタビューでもずばり語られていて、聴き込むことで全ての音に身を任せられるようになってからが本番と評せるタイプのトラックの存在が、そのまま一流の証であると考えます。