寝るなるな?どーなつ◎くいんてっと「プラチナジェット」レビュー。platinum jet | A Flood of Music

今日の一曲!どーなつ◎くいんてっと「プラチナジェット」

 今回の「今日の一曲!」は、どーなつ◎くいんてっと:宮森あおい(木村珠莉)&安原絵麻(佳村はるか)&坂木しずか(千菅春香)&藤堂美沙(髙野麻美)&今井みどり(大和田仁美)による「プラチナジェット」(2015)です。TVアニメ『SHIROBAKO』後期ED曲。

 このタイミングで本曲を取り上げる理由がなんと4つも重なっているので、前置きとしてはくどいですがレビューに入る前にそれぞれの背景を説明します。ただ、4つめの理由だけは楽曲に対する言及の中でふれたほうが都合がいいため、明らかにするのは最後の最後になるとご了承ください。



 1つめの理由は本記事のブログテーマを「桃井はるこ」にしているのと関係していて、本曲の作詞作曲を務めた彼女の誕生日がつい先日だったことに寄せた選曲をしたかったというものです。ゆえに本当は昨日にアップしたかった…というか、元々のプランではUNDER17ではない桃井はるこ名義のソロ曲特集を書くつもりでいたのですが、別のある記事の改訂作業に長らく時間を取られてしまったために予定を変更しました。

 そのことが2つめの理由に繋がっており、なぜなら前出した「ある記事」とは、僕のアニメ愛をこれでもかと爆発させたものだったからです。その内容は非常にイデオロジカルではあるけれども、アニメ業界アニメである『SHIROBAKO』および「元祖アキバ系女王」たる桃井さんに惹かれて本記事を訪れた方に向けてならば、導線を引いておいても大丈夫だろうと判断しました。

 3つめの理由はその『SHIROBAKO』にあり、これも昨日のうちにアップ出来ていれば真にタイムリーだったのですが、TOKYO MX1で再放送されていた同作がつい先週の木曜日に最終回を迎えたため、主題歌のひとつである「プラチナジェット」にも再度注目が集まるであろうことを意識して、なるべく放送された週のうち(土曜日まで)に更新したかったのです。ただ、実は以前から本曲のことはいつかピックアップしようと目論んでいて、その事情説明のために少し時間を遡って消費増税直前頃の話をしましょう。



 当時の僕には、今まで書店で手には取ってみたものの買い渋っていた本を、どうせなら増税前に買ってしまおうとの算段があって、実際に購入した書籍のひとつに日本動画協会監修・著作の『アニメーション用語事典』(2019)があります。その名の通り、アニメ制作の現場で使用されている言葉について解説する事典で、ちょうど『SHIROBAKO』公式サイト内にある「用語集」みたいな体裁の本です。

 全体索引がない点で不便な(工程・分野ごとに五十音 → 欧文 → 数字の順になっている)のはともかく、今まで意味を曖昧に捉えていた用語の参照先として、教科書的な'正しい'解説があるのは有難いと思いました。ちなみに、適宜挿入されている実例に於いての画像には『ROBOMASTERS THE ANIMATED SERIES』からのものが使われており、同作は過去にアニマックスで視聴したことがあったので、思わぬところで観返す意義が生まれたのも良かったです。

 …と、このような書評と併せて何か音楽をレビューするならば、『SHIROBAKO』の主題歌から選ぶのが取っ付きやすいのではと考えていました。別のアニメ作品の候補は『妄想代理人』(とりわけ第10話「マロミまどろみ」)で、そこからCV:桃井はるこに繋げて紹介するルートもアリだったかもしれません。




 せっかくアニメ制作アニメの音楽を取り上げるのだから、他のアニメの話に寄り道をしてもいいのではないかと脱線を許したのはここまでで、いよいよ本題である「プラチナジェット」のレビューに入ります。桃井さんが他アーティストに提供した楽曲にも名曲が多いことは重々承知していながら、その括りの中で敢えてNo.1の座を決めるとしたならば、僕は本曲に栄冠を与えたいと思っており、それほどには甚く気に入っているナンバーです。以降では作詞・作曲・編曲の各観点から、それぞれに宿る魅力を語っていきます。


 まず歌詞については、冒頭のフレーズからして桃井さんの作詞能力の高さに琴線を揺さぶられました。"ふりそそぐ星たちの光が/今この時のものじゃないように/君のもとへ届くまでに/もう少しかかるの/まってて!"は、"Xデー"までの距離間の喩えのロマンチックさもさることながら、"プレゼント"をサプライズで渡すまでのドキドキ感をありのままに切り取った素直な言葉繰りによって、贈る側もその実贈られる側に等しい幸福を得ているという贈与の本質が、見事に突かれていると絶賛します。

 よりフェチ的な言及をしますと、語調を和らげた終助詞の「の」から文末のエクスクラメーションマークで強調へと移行する対比に、女性らしい緩急が感じられて好みなのです。『SHIROBAKO』に於ける文脈(女同士の友情に基くもの)は無視して、歌詞内容だけを見て仮に贈られる側を男性だと想定した場合に、いじらしさを見せていたと思ったら俄に窺えた芯の強さにドキっとしてしまうような、男性から女性へ対するギャップ萌え的な要素が「~~の。~~!」構文にはあると主張します。贈り物をするような間柄なら尚更です。

 このようにシンプルな語彙のみでグッとくる歌詞を書けるのが桃井さんの強みだと認識しており、過去にはアンセブの「泳・げ・な・い」(2004)の結びに相当する歌詞、"泳げない 水はキライ…/あなたは好き"の素晴らしさを力説したことがありましたが、導入部にハッとさせられる或いは終結部に唸らせられる表現が据えられていると、当然ながら歌詞全体への評価が爆上がりしますね。加えて、先の一節にはアニメ作品が実際に視聴者の元へと届けられるまでを描いている面もあり、『SHIROBAKO』を観ていればこそ過程の大変さを愛おしく思えるところも、主題歌として申し分ありません。


 お次は作曲面を語りますと、桃井さんの持つセンチメンタルな感性とポップセンスが好い塩梅で融合している、ディスコライクなメロディラインが印象的です。Aメロは先述の通り歌詞の力が強いからか、きちんと言葉を聞かせるタイプの旋律になっていると感じますが、Bメロを丸々タメに利用してサビで弾ける構成としている点では、ダンスチューンのマナーだなと聴き解けます。

 特筆したいのはサビメロのラグジュアリーさで、空耳解釈の「寝るな」でも味わい深い"ねえ Lunar Lunar"のコーラスラインをバックとして、その間隙を艶っぽい主旋律が縫っていくという音の並びからは、ミラーボールが幻視出来そうです。それはクラブカルチャー下のビカビカしたものではなく、ダンスホールをささやかに照らす品の良いものから来ているイメージで、5人居る歌い手のひとりひとりが一歩前に出て順繰りにフォーカスされていくビジョンが、リレー形式のメロディに表れていると言いたいのでした。

 最後にふれる編曲面に関しても、全体としては上述したような世界観に根差したダンサブルなアプローチが素晴らしいです。もしかしたら先にサウンドスケープのディレクションがあって、そこから旋律の方向性が決まった(作編曲が実質的に同時進行だった)のかもしれませんが、キュートな音遣いのキャッチーなリフを軸に間奏部を処理したことは、ダンスミュージックに於いて重要な繰り返しによる陶酔性を意識したものとなるため、順序はどうあれ桃井さんの作曲と渡辺剛さんの編曲は互いに良いシナジー効果を生んでいると評せます。



 ちなみに、『Pink Hippo Album ~セルフカバー・ベスト~』(2016)に収録されている桃井さんのセルフカバー音源では、リフ部分を含めてブラスとストリングスが特徴的なアレンジに生まれ変わっており、ここまでに説明してきたような豪華な質感が一層強められているので、カバー音源での音解釈のほうが作曲者の意図をより強く反映させたものと見做して、その感想までもをオリジナルにフィードバックさせている節があると、ここまでのレビュー文を自己フォローする次第です。

 また、見当違いかもしれませんし音楽ジャンルが変わってしまうのですが、改めて本曲のタイトルが「プラチナジェット」であることに鑑みると、日本航空提供によるラジオ番組『JET STREAM』が意識の何処かにあるのではないかと踏んでいて、ラジオオタクとしての一面も持つ桃井さんならあるいはと考えています。




 さて、本記事の冒頭で予告しておいた通り、最後の最後には「このタイミングで本曲を取り上げる理由」の4つめを明らかにします。これに限っては昨日のうちに記事をアップしていたら言及し得なかった事柄なので、一日遅れとなったのは寧ろラッキーでした。勿体つけていますが、4つめの理由となったのは今日の未明~明け方に極大を迎えたふたご座流星群です。午前4時頃がピークとの予想だったため、ベランダに出て南~南西の空を眺めていたところ、45分間で9個は流星を観測することが出来ました。月が明るかったですし少し雲もあって、街頭もピカピカで家々で空が狭かったので、まあこんなものでしょう。

 このことがどう本曲と関わるのかと言えば、歌詞に"Shooting Star"が登場すること然り、上に埋め込んだED映像のラストが流れ星で〆られること然り、単純に結び付けたくなる気持ちはご理解いただけるものと期待します。しかし、この観点で僕が最も熱く語りたいのは、楽曲のラストに来る流星のSE(音源では4:05~4:10、上掲動画では1:26~1:29)についてです。初めて聴いた時からそのあまりにもクリアな音像に驚きっぱなしで、音フェチ的な見地からも最高のイヤガズムを覚えられる絶妙な仕事ぶりだと脱帽します。こんなに抜けの美しい「(キュ)ピーン!」はなかなか耳に出来ません。

 ふたご座流星群の観測中は、その日のうちにレビューをするのでついでとばかりに本曲をイヤホンで流していたのですが、寒空の下で流れ星を探しながら聴く「プラチナジェット」は想像以上に乙なものでした。SEと同時に実際に星が流れるミラクルに期待しましたが、さすがにそれは天文学的な確率だったようです。笑