今日の一曲!スピッツ「ローランダー、空へ」【平成4年の楽曲】 | A Flood of Music

今日の一曲!スピッツ「ローランダー、空へ」【平成4年の楽曲】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第四弾です。【追記ここまで】

 平成4年分の「今日の一曲!」はスピッツの「ローランダー、空へ」(1992)です。3rdアルバム『惑星のかけら』収録曲。

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 同盤に於けるお気に入りワン・ツーは、シングル曲でもある「日なたの窓に憧れて」と「惑星のかけら」なのですが、両曲に関しては『CYCLE HIT 1991~2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』(2017)をレビューした際に簡単にですが取り上げているので、かぶらないように次点で好きな楽曲から選出しようと思い至りました。「アパート」と迷った結果、より歌詞解釈のし甲斐がありそうな「ローランダー、空へ」にフォーカスすることに決定。


 アルバムとしての『惑星のかけら』は、リマスター盤に封入されている小野島大さんによる解説書、および上掲シングルコレクション同封の竹内修さんによるTrack Notesでも、グランジがキーワードとして挙げられており、そのジャンル名が示す通りに骨太なロックサウンドが特徴のディスクです。竹内さんは同盤のディレクターでもあるので、その言にも説得力があります。

 そんなヘビーなアルバムの中で歌モノとしてラストに据えられ、強烈な余韻を残していくのが本曲です。実際は後に「リコシェ号」というインストナンバーが続き、同盤は明るい印象で閉じられるのですが、これを素直にローランダーが空へ向かうための乗り物のテーマソングだと解釈すれば、その一段階前はローランダーが今居る場所に別れを告げる決意の曲といった理解に落ち着くので、寂しさと力強さが同居したアウトプットにも得心がいきます。


 現状に限界を感じた主人公が"棕櫚の惑星"を目指すというわかりやすいプロットの歌詞ではありますが、このトロピカルな新天地のイメージを補強するために挿入されたのであろうブリッジの一節に宿る高い文学性には、シンプルな内容をいくらでも複雑に味わうための奥深さがあると主張したいです。あまりにも格好良いので丸々引用しますと、"「白い翼と 白いパナマ帽 渚の風を身体にまとう/夢を見たのさ」"となり、台詞の形で提示されているところが意味深長さに拍車をかけています。

 最もストレートに読み解けばこれは主人公の言葉で、ローランドに残る誰かに向けて旅立つ理由を述べている、或いは独白として決意表明をしていると捉えるのが自然でしょう。しかし、夢の中で上位存在から受けた神託を反芻しているようにも、もしくは作詞者(=草野さん)が第四の壁の向こうから歌詞中のローランダーへエールを送っているようにも映り、どちらにせよ外部の存在を匂わせるために鍵括弧を用いた可能性も排除しきれないと僕は考えます。後半については深読み且つ憶測の域を出ない考察ですが、細かな言葉遣いの差異や表示の仕方の違いにまで機微を付与することが得意な草野さんの手に成る歌詞ゆえに、ひねった見方も披露したくなるんですよね。


 あれこれと可能性を提示してみましたが、きっかけは何であれ主人公が未来へ向けて歩を進めることを決意したナンバーであることには変わりなく、サウンドもその強い意志を後押しするかのように、どっしりとした質感を最後まで維持するものとなっています。

 幕開けのヘビーな一音だけでもその程は瞬時に理解可能で、肝心の最初の一歩を大きなストライドで華麗に決めたことが音からも伝わってきますが、その後は着実に前に進むことだけが意識されているようなかっちりとした演奏が展開されており、インパクト重視のアグレッシブさとリスニング指向のステーブルさをロックで両立させている点からは、スピッツというバンドの地力を改めて思い知らされますね。


 こうしてアレンジだけを取り立てると、硬派な向きが強調されてしまいがちになりますが、ここに草野さんのクリアなボーカルと流麗なメロディラインがあわさることで、きちんとスピッツの音楽としてオリジナリティがあるものに仕上がっているところも評価すべき対象です。ここまでは未だローランドに居ることを意識して、敢えて「歩を進める」や「大きなストライド」といった前後の次元で音を形容してきましたが、浮遊感のある歌声と心地好い曖昧性を纏った旋律を抱く"飛べ ローランダー"の繰り返しによって、徐々に上向きの概念が滲んでくる楽想に、伏線的な機能が備わっていると分析します。

 これが鮮やかに回収されるのが、先のブリッジ・セクションです。新たなラインが登場し、前述した意味深な歌詞内容に意識を奪われているのも束の間、その"白い翼"で天へと舞い上がっていくようなエンジェリックなギターソロへとシフトし、ここで実質的に地を離れたビジョンが浮かんできます。この段階的な飛翔のイメージは、バンドサウンドの重さと歌詞の文学性とメロディの馴染み深さとボーカルの透明感の全てが融合した結果の産物であるとの認識ゆえ、スピッツの音楽を構成するプリミティブなエッセンスを余すことなく堪能出来る名曲として、「ローランダー、空へ」は今なお一層の輝きを放っていると言えるでしょう。


【追記:2019.5.20】

 ブログを整理している過程で、非公開にしていた旧い記事に本曲への言及があったことに気が付いたので、どうせならと復活させてみました。