今日の一曲!ALI PROJECT「暗黒天国」 | A Flood of Music

今日の一曲!ALI PROJECT「暗黒天国」

 「今日の一曲!」は、ALI PROJECTの「暗黒天国」(2007)です。シングルとしてリリースされたナンバーで、アルバムとしては『La Vita Romantica』(2010)に収録されています。

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 本曲はTVアニメ『かみちゃまかりん』のOP曲として有名ですが、当時は「夕方の女児向けアニメにこの曲!?」と、起用の意外さに衝撃を受けた方も多いことでしょう。ニコニコ大百科の「OP詐欺」の項目に作品名が連ねられているぐらいには、多くの人が同様のリアクションを見せていたと記憶しています。言葉が悪いのでフォローしておきますが、同ページ内では「意図的にミスマッチな演出をしている作品」として紹介されていて、「本編視聴後には批判的な声は鳴りを潜めた」といった旨の好意的な文脈です。

 …とはいえ、今でも正直「よくこれでOKが出たな」と思っています。当時既にアリプロにはハマっていて、且つ漫画原作のコゲどんぼ(現・こげどんぼ*)先生がダークな一面を持っていることは『デ・ジ・キャラット』と『ぴたテン』でよく存じ上げていましたが、それでも放送時間帯と本来のターゲット層を考慮すれば、外部からの待ったが何処かで機能してもよさそうですよね。でも、そうはならなかった。表現へのリスペクトを感じさせる好例ではないでしょうか。


 ということで、まずはこのギャップのわかりやすい面として歌詞を取り上げます。サビ始まりの歌い出しは、"Darling 目を開けて"。はい、ここまでは良しとしましょう。しかし続くは、"この世の悪の巣窟で/啄まれる心を頂戴"。仰けから厳しい現実を突き付けていくスタイルに驚愕です。

 Aメロの歌詞は更に苛烈となります。"バタフライの羽も/天使の唾液も/あなたをまだ見ぬ極楽へ/連れ出せはしない"は、勿論言葉通りにファンタジックな理解をすることも出来るでしょうが、僕にはトリッピーなフレーズに思えてなりません。刻印や通称を意識した比喩なのかなぁと(あくまで僕の妄想解釈なのでマジに捉えないでいただけると幸いです)。また、"煉獄の焔で ZERO から/済世しましょう"も、「子供にわからせようとする気がゼロだな」と、そう感じてしまう程に攻めた内容が素晴らしいと絶賛します。


 その後も"祈りは果てて/牢獄で昇天の姫君"や、"死に至らぬ病/心臓には毒薬[プワゾン]"、"カラダは裂けて/天国で再会の片割れ/二人は半神[デミゴッド]"など、アリカ様らしい嗜好と教養に満ちたフレーズのオンパレードに惚れ惚れしますが、この"半神"や前掲の"煉獄"に代表されるように、歌詞全体としては「中間」が意識された言辞であると分析可能です。「板挟み」的なニュアンスを含ませたいので、「矛盾」と換言しても構いません。

 例示には事欠かなくて、"腐りかけた自由/垢に塗れた愛[アムール]"のように「そのもの自体が変質してしまった」というタイプもあれば、"失する妄想 堕ちる現実"のような「二進も三進も行かない」系も出てきますし、"恋する右脳 臆する左脳"なんかは「二律背反然としたどうしようもなさ」が発露した表現だと思います。"至極の善と魅惑の奈落"で逡巡する場面も好みですが、この手の袋小路に陥った中では、"Darling 声上げて/このいま刺し違えるほど/大事なものが欲しいのなら"は実に正しく映り、「一瞬のために一切を捨てるほどの覚悟が肝要である」と受け取りました。


 続いてはメロディに言及します。僕は時々「ジェットコースターのような」という形容を旋律に対して用いますが、本曲はまさにその適例と言ってよく、緩急自在で乱高下の激しいラインが非常に魅力的です。

 それが最も顕著なのは当然ながらサビで、前半の激流も味わい深くはありますが、後半("怒りの拳も"~)には流麗なメロが据えられているので、情動後の冷静にも似た対比の美学が際立っており、「板挟み」になっている自身に陶酔するかのようなマゾヒスティック且つナルシスティックな趣を、旋律からも感じられる点をとても気に入っています。楽想的には、サビの終盤を落ち着かせることで、Aメロへの移行を自然にする意図があるのでしょうけどね。


 この流れで最後はAメロバックのアレンジの良さについて語ります。オフボで聴くとよりわかりやすいですが、乾いたドラムスが醸すトライバルなビートを軸にして、0:45で左側に出現する歪んだ金管系の音のセクシーさ、"連れ出せはしない"と重なるように右側で鳴るノイジーな音のコミカルさ、"自由"と"で ZERO"の裏でリズムを補助しているアクセンチュアルな音の跳ね感と、それぞれが的確に役割を果たしては消えていくという、この目まぐるしさこそが編曲上の個人的なツボでした。

 本曲に限らずアリプロの楽曲ではストリングスに耳を傾けがちになるので(その妙技も大変に素晴らしいのでわかりますが)、敢えてそこ以外の要素を掘り下げてみた次第です。殿(片倉さん)の細部のサウンドにまでこだわる姿勢は、僕がアリプロを好いている理由のひとつでもあるので、インストナンバーは勿論のこと、オフボをそれ単体でも気に入っているパターンが結構あります。


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