今日の一曲!坂本真綾「another grey day in big blue world」 | A Flood of Music

今日の一曲!坂本真綾「another grey day in big blue world」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:雨】の第四弾です。【追記ここまで】

 注:曲名が長く字数制限に引っ掛かったため、記事タイトルでは意図的に「the」を省略していることをお詫びします。

 「今日の一曲!」は坂本真綾の「another grey day in the big blue world」(2001)です。1stミニアルバム『イージーリスニング』収録曲。「雨が降る」(2008)と選曲に迷ったのですが、過去記事を漁ったところ、脱・菅野よう子以降の楽曲レビューが続いていたとわかったので、今回は菅野さんが携わっているナンバーを紹介することにしました。


 この曲の魅力は、とにかく救いがないところだと思います。物憂げなピアノサウンドを軸に、胸を締め付けるような切ない旋律と重苦しい歌詞が連なっていくという、終始暗く…しかし何処か美しくもあるナンバーです。

 雨に関する記述は次の通りで、"Count a thousand drops of rain/Washed down the drain/Is life the same, in a way?"と、問い掛けの形ではありますが、人生(訳詞では"生きる")が何たるかを絶望感または虚無感のある喩えで表現したという文脈。歌詞に於ける雨の使い方としてはオーソドックスだと思いますが、描写が細かいのでそれだけ情緒纏綿になっていると言えるでしょう。


 わかりやすいように以降は訳詞から引用しますが、この"生きるって おんなじこと?"に絡める形で登場する喩えが、どれも非常に哀しく胸が痛いです。上掲の雨パートの訳は"幾千もの雨粒を数え/すべては無に帰す"ですし、他にも"決して来ないバスをつかまえる/雲は陽を翳らす"、"手紙も電話もこない/たずねてくる人もいない"、"時計の針がまわる/時間をかたむすびして"と、徒労に終わることや誰にも気にかけられないことが、ループを表しているであろう時間の表現によって、永遠に繰り返されていくという無常が匂わされており、シビアな人生観が提示されているなと思いました。

 その他の箇所に目を向けても逃げ場がない感じで、"彼女"の置かれている状況の悲惨さが際立つのみです。この部分まで引用してしまうと歌詞の大部分を記すことになってしまうので、敢えてフランクな表現に置き換えて要約しますが、部屋は鳥籠だわ赤ん坊は泣き止まないわ花は元気がないわベッドは空っぽだわ星は出ていないわで、歌詞の通りに"ねえ、愛はどこへ行ったの?"と言いたくなるのも宣なるかなといった趣ですね。

 この曲がここまでハードに徹底されているのは、ポジティブな要素を次曲の「birds」に委ねているからこそだと考えます。というのも、本曲には"明日は何をもたらすの?/鳥はうたうのですか?"というフレーズが全てのサビの結びに登場し、アルバムのラストを飾る「birds」が非常に前向きな内容であることも考慮すると、この問い掛けに対する答えはイエスであり、つまり鳥は歌うし明日は来るんだということが示されていると理解出来るからです。冒頭で「とにかく救いがない」と書きましたが、大局を見れば絶望し続ける必要はないと言えます。ただ、そのことをこの曲に於ける"彼女"は未だ知り得ていないので、救いがないのもやはり事実でしょう。


 最後はメロディについて言及します。旋律に対する英語の宛行が素晴らしいので、ここからは再び元詞からの引用になりますが、Aメロでは後半部分;たとえば1番では"And her room's a tiny cage for a golden bird"の螺旋を描いて落ちていくような流麗さが、サビでは二行目;1番では"Washed down the drain"のパートで爆発する悲愴感と、結びの部分;"What will tomorrow bring?"に宿る素直な美しさが、それぞれ好きなポイントです。

 Aに関しては、2番の"As she sits and stares with eyes, sad circles of red"の変形メロも気に入っています。また、サビに関しては、2番では"Tie time in knots"の踏韻が上手いと感じました。


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