MAN HUMAN / 電気グルーヴ | 今夜だけ / 卓球と旅人 | A Flood of Music

MAN HUMAN / 電気グルーヴ | 今夜だけ / 卓球と旅人

 電気グルーヴの19thシングル『MAN HUMAN』および卓球と旅人の楽曲「今夜だけ」のレビュー・感想です。後者は配信音源を単独で購入しただけなので、レビューの中心は前者となります。本来であればもう少し早くに記事をアップ出来たはずですが、アニソン振り返り連載記事の更新が遅延してしまったがゆえにこのタイミングです。

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 本記事によって「これで久々にアニソンから離れられる!」…と言いたいところですが、「MAN HUMAN」「今夜だけ」共にNetflix配信アニメ『DEVILMAN crybaby』に関するトラック(前者は厳密にはVer.違い)なので、未だに二次元から脱却出来ません。笑


 冒頭に書いた通り、まずは電気グルーヴの作品『MAN HUMAN』から見ていきます。CD+DVDの形態で発売されている方です。18thが2015年2月のリリースなので、シングルとしては約3年ぶりの新譜となりますね。

 ナンバリングアルバムは『TROPICAL LOVE』(2017)が最新作ですが、DVD(LIVE)にはこの盤からの楽曲が多く収録されているので、参考として過去のレビュー記事をリンクしておきます。


01. MAN HUMAN

 アニメ公式サイトやOP映像内の表記だと、この無印の「MAN HUMAN」が主題歌のようなクレジットになっていますが、実際にアニメで使用されているのは次曲のVer.違いの方なので、こちらは純粋に電気グルーヴのニュートラックという扱いでいいはずです。先に書きますが、個人的にはこのオリジナル(?)の方が圧倒的に格好良いと思います。

 というのも、所謂「リードを担っている」と言っていいフレーズが次曲では消えているからです。0:31からインしてくる、いかにも電気っぽいというか卓球っぽいダーク且つややコミカルなメロのことを指して「リード」と表現しているわけですが、これがあるとないとでは満足度が段違いではないでしょうか。

 最初は楽曲の下層(イメージ的にはリズム隊のちょい上)を漂っていたのに、曲が進むにつれて徐々にその存在感が増していき、最終的には上層(ボーカルトラックの近く)まで浮上してきて鼓膜に訴えかけてくるという、この変化がめちゃくちゃクール。

 歌詞は"MAN HUMAN"のみというシンプルさ(後は"Ah"コーラスが登場するぐらい)なので、ボーカルパート以外のフレージングが一層映えているんですよね。

 とは言え、中盤には"MAN HUMAN"がチョップされて複雑なビートを刻み出す箇所がありますし、前述の"Ah"には「嘆き」或いは「呻き」と形容出来そうな哀れな趣が宿っていて、これがイントロから鳴っている鐘の音とあわさることで、どこか読経のような雰囲気が醸されているとも思えたので、人間の声が絡む部分も呪物的で素敵だと言えます。


02. MAN HUMAN (DEVILMAN crybaby Ver.)



 曲名の通り、アニメの主題歌になっているのはこちらの方です。卓球と旅人の「今夜だけ」と両A面としてV.A.名義でリリースされたシングルに収録されているのもこのVer.。OPのはイントロに2:40からの展開を繋ぎ合わせた感じですね。

 01.の項で先にふれてしまいましたが、「リード」のフレーズが丸々なくなっているので僕には正直物足りなく感じます。…が、ポジティブに換言すれば、よりストイックなアレンジになったことで人間の本質に近付いているというか、『デビルマン』という作品らしさは強くなっているのではないかと思います。

 どちらがシンプルにダンスミュージックか?と問われればこちらですしね。01.でも書いた通り「リード」には一部コミカルな趣があったため、それが電気らしさにもつながっていたわけですが、それをなくすということは電気の色を消してトラック自体に真摯に向き合ったということでもあるので、タイアップ先のニーズにあった良い仕事だと評するほかありません。

 このVer.でも"Ah"コーラスは健在ですが、3:37~3:51では幽かにしか聴こえないようになっていて、これが赤ん坊の泣き声のようにも感じられるため、「crybaby」にも納得。


03.は01.の「INSTRUMENTAL」です。



 以上、インストを除いて全2曲でした。それぞれの良さについては各項で提示出来たと思うので、特にまとめとして書くことはありません。


 続いてDVDの内容を見ていきます。収録されているのは「"DENKI GROOVE 10 LIVE STREAMING 2017.7.26"」の模様です。これはベスト盤『DENKI GROOVE DECADE 2008~2017』(2017)の発売記念で行われた生配信番組のことで、「10カメラ&10サービス同時配信」(サービス毎に画が異なる)という斬新な試みが話題を呼びました。

 冒頭にも書いた通り、『TROPICAL LOVE』からの楽曲が多く収録されているので、楽曲自体のレビューを再度詳しく行う必要は無いと判断し、各曲に対してざっくりとした感想を書いていくスタイルにします。ただし、04.は特殊なので言及も多くしました。


01. 人間大統領

 『TROPICAL LOVE』収録曲。今回の配信にあわせて途中の台詞部が簡単な概要紹介になっています。「電気グルーヴ大統領でございます。」と、本当に"全員大統領"なんですね。笑


02. 顔変わっちゃってる。

 同じく『TROPICAL LOVE』収録曲。アルバムレビュー記事の中で「本作でいちばん気に入った」と絶賛したトラックですが、発売から10ヶ月経ってもこの中毒性からは逃れられそうにありません。少しダサいと感じさせる部分も含めて只管に格好良い。ファッションの「崩し」や彫刻の「不完全の美」と同種の素敵さを、僕はこの曲に見出しています。

 ライブだとより顕著ですが、主旋律(特にサビ)が凄く「曖昧」な曲だよなぁと思います。「アンステーブル(unstable)」という表現も過去にしましたが、CDの通りに歌うのは不可能なのではと思ってしまうほど。

 途中で卓球ソロ曲の「gimme some high energy」(2001)が一瞬聴こえたのでびっくりしました。ネタバレになりますがラストでも再度登場するので、これは(間違えたのでなければ)布石と言えるにくい演出ですよね。


03. プエルトリコのひとりっ子

 またも『TROPICAL LOVE』収録曲。ボーカルライン(メロディ)がシンプルゆえにトラック自体がメロディアスだという趣旨のことは以前にも書きましたが、だけあってライブでは細部のアレンジ違いを音源と聴き比べるのが楽しいです。


04. いちご娘はひとりっ子

 これはある意味新曲と言っていいのではないでしょうか。03.からノンストップで突入するのでつなぎ目はマッシュアップのようになっていますが、9thアルバム『J-POP』(2008)収録のナンバー「いちご娘」のリアレンジトラックです。

 元々インストだったナンバーがボーカル曲になっているのが最大の変化。「いちご娘」に元より存在していたメロディラインに歌詞を付けるという作り方で、電気の二人によるパートと03.にも参加しているトミタ栞によるパートが交互に顔を出すという、可愛らしいコール&レスポンスになっています。内容はカオスですが。笑

 この生配信が初出の曲というわけではなく、ライブでは既に披露されていたようですね。調べれば3月の全国ツアーファイナルや、6月の『Perfume FES!!2017』にて披露されていたことが確認出来ます。

 恥ずかしながらこれを知らなかったので、サーチコンソールの検索クエリに「いちご娘はひとりっ子」というものがあり、これが「いちご娘」を「今日の一曲!」にてたまたま取り上げた去年の記事への流入につながっている、この意味が暫くの間わからなくて怖かったです。笑

 実際「いちご娘はひとりっ子」と引用符なしで検索すると、上掲の「いちご娘」の記事が結果の1頁目に出ちゃっている(「電気グルーヴ いちご娘」でも1頁目に来るため、おそらくこの曲に深く言及している頁自体が少ない)ので、今回この記事をアップすることで検索する人のニーズに少しでも近付けたらいいなと思っています。幸いGoogle先生には嫌われていないようなので、そのうちこの記事の順位の方を上にしてくれると願って。



05. Missing Beatz
06. Shameful

 2曲まとめてふれますが、05.は17thシングル曲(2013)/06.は16thシングル曲(2012)です。この曲順は12thアルバム『人間と動物』(2013)の流れをそのまま踏襲しているのでしょうかね。

 電気のシングル曲に限って言えば、お洒落な或いはファニーなタイプのものよりもこれらダークな質感のトラックの方が好みなので、この頃の電気はストレートに格好良いと思ったことを覚えています。実際『人間と動物』はタイトルに似合わず全体的に機械チックというか、インダストリアルなサウンドスケープが感じられる一枚だったので、その冷たさが嫌いではありませんでした。

 05.では瀧のふざけた"(大絶頂)"と"(大絶叫)"に卓球が笑いを堪えきれていないところが、06.では終盤のサンバ感あふれるパートが音源のよりアグレッシブになっているところが、それぞれ好きです。


07. Fallin' Down

 ラストは18thシングル曲(2015)です。『TROPICAL LOVE』に収録されていたのは趣をかなり変えられた「Album mix」で、そちらの方が気に入っていたためシングルVer.は聴く頻度が減っていました。しかしこうしてライブで聴くと、多幸感が一段と増している気がして心地好いですね。

 勘違いというか聴き間違いだったらすみませんが、06.のベースのフレーズが一部そのまま継続している気がするので、そのおかげで新鮮な印象に感じるのかもしれません。

 02.の項で書いた通り、ラストに「gimme some high energy」が挿入され、華麗にライブは終了します。



 以上、全7曲でした。収録時間は33分と短いながらも、内容は濃密だったので満足です。何より、04.「いちご娘はひとりっ子」がいつでも聴けるというのはありがたい。


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 最後に、卓球と旅人による楽曲「今夜だけ」をレビューします。「MAN HUMAN (DEVILMAN crybaby Ver.)」の項でも書きましたが、両A面としてV.A.名義でリリースされたシングルに収録されているナンバーです。今回レビューした電気名義の『MAN HUMAN』を持っていれば、V.A.名義のディスクが両A面である意味があまりなくなるので、申し訳ありませんが「今夜だけ」は配信で単独購入しました。

 一応解説しておきますが、卓球と旅人というのは石野卓球と七尾旅人からなるユニットの名前です。名義は微妙に異なりますが、2001年にリリースされたコラボコンピ『SOUL SCRAMBLE』(からのシングル『ラストシーン』)でも両名はタッグを組んだ経験がある他、七尾さんは卓球のソロ作品や電気グルーヴ×スチャダラパーの作品にも参加なさっているので、勝手知ったる間柄と言えるでしょう。


02. 今夜だけ

 『DEVILMAN crybaby』特別ED曲。なかなかにエクスペリメンタルというか不思議なトラックだなという印象です。あくまでも優しいメロディと切ない歌詞によるナチュラルな楽曲かと思いきや、バックトラックには電子的且つ宇宙的とでも表現したい複雑性が宿っているので、そのギャップが独特の浮遊感を生んでいるといった趣。

 ボーカルに関してのメインは七尾さんですが、卓球も要所要所で同一フレーズの連呼によって顔を覗かせるので、両名共に強烈な存在感でもって楽曲に君臨していると言えます。

 どこのメロも綺麗だと思いますが、特に好みなのは終盤の"最後の夜は 最後のチャンス"~"spin-the-brand-new-lights!"にかけてです。そこまでのゆったりとした音運びに対してここで俄に勢い付くことで、感情の瞬間的な高まり或いは決意や行動の現れを感じ取ることが出来るので、この緩急に心を揺さぶられました。

 "(止められない…)"や"(鳴り止まない)"がリフレインするパートも、物凄く電気っぽいセンスで安心しますよね。



 電気グルーヴ×アニメーションはこれまでに何度も試みられているチャレンジですが、毎回高いクオリティでもって作品が提示されるので、電気ファンとしてもアニメファンとしても嬉しい限りです。

 ちなみに、『DEVILMAN crybaby』の劇伴は電気のサポートでもお馴染の牛尾憲輔さん(agraph)が担当しており、彼によるオリジナルサウンドトラックも既に発売されています。これには未だ手を出していませんが、女王蜂のアヴちゃんによる「デビルマンのうた」も収録されているので、とても気になっているところです。


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