鏡面の波 / YURiKA | A Flood of Music
2017年12月06日

鏡面の波 / YURiKA

テーマ:┣ アニソン(切ない系)
 YURiKAの3rdシングル『鏡面の波』のレビュー・感想です。アーティスト盤とアニメ盤で収録内容が異なりますが、ここではアニメ盤を扱います。表題曲は現在放送中のTVアニメ『宝石の国』のOP曲です。

鏡面の波(アニメ盤)TVアニメ『宝石の国』オープニングテーマ/YURiKA

¥1,404
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 YURiKAの作品を買うのは本作が初ですが、TVアニメ『リトルウィッチアカデミア』は楽しく観ていたので、その主題歌だった「Shiny Ray」及び「MIND CONDUCTOR」(1st/2ndシングル曲;共に2017)にて、彼女の楽曲の良さについて多少は把握していたということを補足しておきます。




 アニソンレビューでは恒例のアニメ語りから入りますが、『宝石の国』は今期の中では最も面白い作品だと思っています。魅力は色々とありますが、まずは映像美ですよね。CGアニメだからと言って敬遠しているとしたら、非常に勿体無いと言わざるを得ません。

 凄く雑な表現を敢えてしますが、擬人化された宝石が仏像とバトルするという「美しさ×脆さ×アクション」とでも表現したい要素を持つ作品なので、この魅力を最大限に引き出すには寧ろCGしかないだろうと納得しています。

 それでクオリティが低かったら目も当てられませんが、今のところ『宝石の国』のCGは高い水準を維持しているという認識です。特に3話のダイヤモンドの動きには感動を覚えるほどでした。序盤のウェントリコスス(蝸牛形態)との戦闘シーンも中盤の疾走シーンも、CGのというよりはカメラワークの妙である気もしますが、それも含めてCGだからこそなせる技なのだろうと推測します。




 世界観や設定のぶっ飛び具合も好みの点です。ウェントリコススが語ったこと(=アドミラビリス族に伝わる話)がそのまま真相なのかはわかりませんが、6度目の流星衝突で遂に陸を追われた人間が海に入り、その魂は月人に/肉はアドミラビリス族に/骨は宝石へと変わり、魂である月人は肉と骨を取り戻そうと彼らに襲い掛かるという理。この神話のようなスケール感は素直に凄いと思いました。考察の楽しみもありますしね。

 魂が仏の形を成していることと、骨が宝石(鉱物)に姿を変えるというのは直感的にも理解しやすいのですが、どうして肉は軟体動物(貝類)モチーフなのだろうと最初は疑問に思っていました。しかしよくよく考えると、例えば真珠は貝から採れる宝石(生体鉱物)として有名ですし、そもそも貝殻自体が宝飾品とされる場合もありますよね。そして5話でシェル・アゲート(貝瑪瑙)に話が及んだのを観て、宝石と深い関わりがある生物は人類と貝類だということで得心がいきました。

 こういうところからも設定が深く考えられていることがわかるので、漫画原作者である市川春子さんの凝ったセンスが窺えて好みです。作中で冬が来た際に喋る流氷が登場しましたが、これ(氷)も地味に鉱物要素ですよね。

 あとは単純に勉強になるところも魅力。先に出した貝の瑪瑙化や氷が鉱物に含まれるというのもそうですが、双晶という特殊な結晶例があることや、アンタークチサイト(南極石)という面白い性質を持つ鉱物の存在なども、この作品を通して知ることが出来てためになりました。


 音楽の素晴らしさも特筆すべき点で、来月発売のサウンドトラックも購入しようと思っています。特に月人が登場する時にかかるガムランのような曲がお気に入りで、早く音源で聴きたいです。

【追記:2019.5.3】

 今更のお知らせですが、後にサントラのレビューを行いました。

【追記ここまで】

 話を音楽に持ってきたところで、このまま本作のレビューに入ります。今期アニメ主題歌のレビュー記事は既に5本分アップしていますが、欲しかった曲の中では本作の発売が最も遅かったため待ち焦がれていました。

 
01. 鏡面の波



 TVアニメ『宝石の国』OP曲。有難いことにノンクレジットOP映像が公式にアップされていたので埋め込みました。公式(TOHO animation チャンネル)には、アニメ本編の映像を使ったショートMVや実写MV(これはフルで聴けます)もあるので、お好きな形態でお楽しみください。

 先にクレジットを処理します。作詞も作編曲も全て照井順政さんによるトラックで、All Other Instruments & Programmingにもお名前が記載されているという、制作者によくある表記のされ方です。

 ただしDrumsとCelloに関しては別にプレイヤー名が載っており、前者は樋口幸佑さんが、後者は徳澤青弦さんが担当なさっています。チェリストの徳澤さんに関しては、RADWIMPS及びillionの作品レビューでもお名前を出したことがあるので、参考までにリンクしておきます。


 イントロはなく、音数を絞った静かなアレンジと共に歌唱開始。ここのシンプルなピアノの反復が曲の軸になっていて、安直ですがまるで宝石を思わせるようなサウンドを奏でているので、この部分を聴いただけでも作品に寄り添った楽曲だとすぐに理解出来ましたし、本作を買おうと思った動機のひとつであるぐらいには素晴らしい音作りだと絶賛します。

 このピアノは特にアウトロでの切なさが良いと思っていたのですが、どうやらTVアニメOPのはそれ専用の別バージョンだったようで、フルでは1番の終わり方も曲の閉じ方も異なります。そこだけは少し残念でしたが、サントラにはTVサイズ版が入るだろうと楽観視。


 Aメロ部はじわじわと音が重ねられていくところが素敵です。最初はピアノも極々シンプルでギターも断続的、その間を縫うようにYURiKAの透き通った声が訥々とメロディをなぞっていくというストイックさで、微かに電子由来の音(ノイズやパッドなど)も聴こえますが、それらはあくまでもアクセント程度にとどまっています。

 "水際に"からピアノが疾走感を帯び始め、"行き先を"からバンドサウンドが顔を出し、ブレイクビーツ然としたドラムスと、完全な旋律を思い出したかのように繋がり始めるギターによって音の隙間が埋まっていくので、最初は途切れ途切れに思えたボーカルラインにもいつの間にか流麗さが宿っています。


 次の"夕立が"のところを便宜的にサビとしますが、このパートの瞬間的な熱量の大きさこそが最大の聴き処だと評します。

 まずメロディが素晴らしい。長く歌い上げられる"夕立が"で大きく力を溜めて、崩壊を予感させるような不穏さを孕んだ"名付"の2音を経て、"けられた世界を"で一気に駆け足になるところには、バラバラになって尚煌く宝石達の美しさが込められているように感じました。

 アレンジとしてはドラム(シンバル)が技巧的なのだと思います。シンバルロールという用語で正確かはわかりませんが(単に早く連打することとロールとの境界が人によりけりな気がするので)、その使いどころが巧いと感じるということです。

 ドラマーではないので自分的にわかりやすい用語に変えますと、リバースシンバル("名付")の後のクラッシュ("け")で硬度の限界を超えて破壊点に至り、再び戻ってくるブレイクビーツ("られた世界を"以降)で粉々の状態を表現しているのだと解釈しました。


 続くサビ後半("形を変え"から)は、それ自体が1番にしか出てこないという儚さを内包しています。ここでアレンジが落ち着いて、そのまま静かに曲が閉じられるという流れが好きだったということは、先にアウトロのくだりで書いた通りです。

 ではフルではどういうアレンジなのかと言うと、ここで満を持してチェロが登場し、そのまま2番("夜の中を"から)に雪崩れ込むという展開を見せます。2番というかプレコーラスかな?表現に迷いますが、つまりは新たなメロに移行するということです。

 普通にカウントするとBメロになる気がしますが、1番サビと2番Aの間に挟まれているものをBとするとややこしいので、Cメロ的/大サビ的な意味合いを全て持たせてここではプレコーラスという言葉を採用します。「2番Aの前なんだからプレコーラスはおかしいだろ」というツッコミは尤もですが、このパートは落ちサビの前にも再び出てくるので、そこでの振る舞いも考慮しての苦肉の表現です。

 ごちゃごちゃと書きましたが、要するにメロディ構成がプログレッシブで面白いということがここで伝えたかったポイントです。それさえクリア出来ていれば、上の小文字部は独り言だと見做していただいて構いません。

 ここは歌詞的に夜のパートなので、シンシャのことが歌われているのかなという感じですね。彼の特異体質ゆえの悲哀を、チェロという楽器が持つ暗くも美しいイメージと重ねているのかもしれないと思いました。


 そんなチェロの憂いを纏ったまま2番Aに進みます。弦楽器が衝突するからかギターは何処かへと消えましたが、軸となっているピアノは健在で依然宝石感は継続しています。エラー信号のような電子音が追加されているのも印象的です。

 2番はサビがなくそのまま間奏に入る構成なので、それにあわせてか2番Aは後半の旋律が変えられています。変化を楽しんだのと同時に、凝った作曲術に感心しました。

 間奏はチェロソロで切なさが一層際立っていますが、ここは何気にピアノも格好良いと思います。総合的に聴くと、宝石らしいというよりは水のような質感を漂わせている演奏だという印象です。「鏡面の波」という題がまさにですが、"水際"、"夜露"、"夕立ち"、"波"、"水面"、"雫"と、水に纏わるワードが多く登場するのも歌詞の特徴ですからね。


 間奏後はプレコーラス再び。と言っても、よく聴くと1回目とは微妙にメロディが異なっています。歌い方のせいかもしれませんが、1番Aの冒頭にあったような訥々とした感じが戻ってきているような気がする。細かい部分ですが、1回目は"移ろう季節の忘れ物"だったところが、2回目では"移ろう季節 忘れ物"になっているので、この感じは意図的に演出されているのだと理解しました。

 そして落ちサビへ。ここで俄に泣きそうになります。落ちサビで泣きのモードに入るのはよくあることだろうという一般論は扨措いても、ここまでの複雑なアレンジを処理するのに忙しかった耳が、ここで急に真空中に放り出されたかのように解放されるので、拠り所を失った気分にさせられそれが涙に繋がっているのだろうと自己分析します。

 これは歌詞の力も多分に大きい。"舞い上がる風がわたしの声を攫ったとき"と音の消失が意識されていますし、そこから"少しでも 迷わない様に 歌に変えていく"と前向きに結ばれているところが、また一段と涙を誘うのです。主人公のフォスフォフィライトが、精神面だけでなく物理的にも変化していくのを見ていると、いつか同一性を失ってしまうんじゃないかと不安になるので、そこに思いを馳せずにはいられませんでした。

 ラスサビ~アウトロは、ここまであまり意識していなかったベースが格好良くて驚いた。なかなか独特のフレーズを刻んでいて、少しIDM寄りとでも表現しましょうか。最後まで特にジャンル名は出さずに書いてきましたが、一言で形容出来ないジャンルレスな曲だとまとめておきます。


02. Dive into the colors

 c/wも照井さんによるナンバーです。流石に01.ほど複雑な曲ではなく、基本的には爽やかなロックナンバーの趣を有していると言えます。

 しかしキラキラした音遣いであることとか、メロディ自体や全体の構成をひねってきているあたりには、普通の曲ではつまらないという照井さんなりのこだわりを見た気がしますね。

 個人的に気に入っているのはベースの疾走感で、プレイヤーは蛇石徹さんです。


03.~04.は、01.~02.の「(Instrumental)」。



 以上、インストを除いて全2曲でした。アーティスト盤にはこれらに加えてあと3曲(及びそのインストも)収録されていますが、冒頭で書いた通りアニメ盤のレビューなのでここまでです。

 01.を書くのにエネルギーの殆どを使ってしまったため02.が短くなってしまいましたが、両曲とも照井さんのハイセンスなトラックメイキングによって、YURiKAの新たな魅力を引き出すことに成功しているナンバーだと言えます。

 「宝石の国」という作品の美しさにあてられてか、「鏡面の波」のレビュー文には陶酔して書いたような雰囲気が出ている箇所もありますが(そのせいか音楽的な記述にもフィーリング的な側面がある=正確性を欠いている?)、それも含めて感想なのだと開き直って、レビューを終えることとします。