今日の一曲!ALI PROJECT「コッペリアの柩 (Noir Ver.)」 | A Flood of Music

今日の一曲!ALI PROJECT「コッペリアの柩 (Noir Ver.)」

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」Ver. 2.0の第一弾です。【追記ここまで】

 本日の出目は【5, 10, 2, 3】だったので【2ndの030番】の楽曲、ALI PROJECTの「コッペリアの柩 (Noir Ver.)」を紹介します。

コッペリアの柩(Noir Ver.)/Victor

¥価格不明
Amazon.co.jp

 「コッペリアの柩 (Noir Ver.)」(2001)はALI PROJECTの10thシングル収録曲です。タイトルに「Noir」とあることからもわかるように、TVアニメ『ノワール』のOP曲として有名(だと思います)。アニメは観たことがないので断定は出来ませんが、当時既に人気曲だったという記憶はある。

 以前のアリプロの記事でも似たようなことを書きましたが、僕がアリプロを好きになったのは2000年代の前半で、本格的にハマったと言えるのは第一次アニヲタ期(2004~2007年)と重なる頃だと言えます。しかしそれに先行する形でネットで(FLASH作品か何かで?)既にアリプロの存在は知っていたので、アニメを観たことはないけれど音楽好きとしてシングルは持っているという、言わば「手を出し始めた頃の楽曲のひとつ」なので妙に思い出深いですね。


 wikipediaに詳しく載っていますが、「コッペリアの柩」には様々なバージョンが存在し、種々のアルバムに散らばって収録されています。「Noir Ver.」はこのシングルにて初出と言えど扱いとしてはリカットになるので、原曲はこれよりも前にリリースされたアルバムに収録されています(それにも2パターンある)。

 それぞれアレンジが異なるわけですが、「Noir Ver.」は原曲と比べると全体的に音がクリアになっている印象を受けます。後発版だからマスタリングが云々と言いたいわけではなく、ミックスの妙だと思う。また、アニメの主題歌らしいキャッチーさが希求されたのか、サビ始まりに変わっているのも特徴です。


 そのサビですが、「これぞ黒アリだ!」と思えるような代表的な旋律ですね。インパクトのあるタイトルがそのままフックとして歌詞の頭にも据えられ、仰けからダークな世界観が提示されているわけですが、そこから瞬時に抱いたイメージに寸分も違わずまるで誂えたかのような妖美なメロディが展開されていくので、こういうのが好きな人には文字通り堪らないでしょう。

 サビの歌詞で昔から難読だなと思っている"和毛"という言葉、『広辞苑』によるとこれは「にこげ」と読み、「鳥獣のやわらかな毛」のことだそうです。"死は天使の和毛の/匂いをさせて舞う"という一節で登場するのですが、天使の羽根の質感を表す言葉として的確且つ上品なので流石だと思っています。

 サビにはもう一つ見慣れない言葉というか漢字があり、久々にこのシングルを引っ張り出して歌詞カードを眺めたことで気が付いたのですが、歌詞に出てくる「ひつじ」の漢字は「羊」ではなく"羔"だったんですね。『漢字源』によるとこれは「こひつじ」のことで、字の成り立ちとしては「羊+火」となり、「まる煮するのに適したこひつじ」だそうです。笑 成程、だから"祭壇の羔"と。


 ダークだけれどある種の豪華さを備えてキャッチーさを誇っていたサビとは対照的に、Aメロはアレンジも控えめで怪しい雰囲気が醸されています。ベースの存在感が露になり、空気の澱みのようなストリングスが場に漂うという編曲からは、「疲弊」や「倦怠」の感覚を覚える。あまり使われない言葉かもしれませんが、「倦み疲れたような」と表現するのがぴったり。

 こう思うのには歌詞の力も大きいです。"コッペリア"というのはバレエの作品名に由来し、作中に登場する機巧人形のことでもあるのですが、サビに"人は踊り疲れた人形"と出てくることからもわかるように、Aメロの歌詞は人を人形に見立ててこの世の異常さを描写したパートだと解釈しています。


 続くBメロはじわじわと静かな盛り上がりを見せるセクションですが、これは祈りの表現だと思います。着想は2番Aラストの"祈りだけが昇る"というフレーズからですが、ストリングスの奏で方に上昇の趣を覚えるところがあると感じたので。Aの「空気の澱みのような」とは打って変わってはっきりしているというかね。

 1番2番では"神"が、ラスサビ前では"愛"が登場するというのも"祈り"と関わる表現だと思いますし、これら諸々を考慮した結果の「祈りの表現」です。静謐な祈りというよりは懇願に近いような気がします。


 ここまでの描写だけでは救いの無い歌のように思えてしまいますが、ラスサビの歌詞はとても前向きだと捉えています。手放しで前向きだと言いたいわけではありませんが、"コッペリアの鼓動/生きることは痛みを知ること"や"ネジの途切れた夢は/どこに向かってゆく"などの歌詞には、人形としての役割や檻から解き放たれ人として歩いていくといったような自立心が見える気がするので、これは前向きではないでしょうか。少なくとも物語が動く締め方だと思います。


■ 同じブログテーマの最新記事