新潟・佐渡旅行記 番外編 | 964 makes me happy

964 makes me happy

試験運転中

 【蔵元見学へ…。と、その前に】
 
 旅行記を続ける前に、何故、佐渡への旅を選択したのか。
 それに関した思い出話を書き綴りたい。
 学生時代のいい思い出である。
 
 佐渡旅行の第一の理由、それが「蔵元を訪ねる」であった。
 学生の頃、確か「地域文化論」とかいうコマの番外編の講義の中で、担当の助教授が「日本酒ランキング」なる話をしてくれた。
 助教授は「強くはないけれど、日本酒が好き」だということで、全国の地酒を取り寄せては飲み比べ、毎年独自の「日本酒ランキング」を作成し、それを講義のネタに使っていたようである。
 そして講義の締めには、「皆さんの地元のお酒を教えてください。もしよかったら、私の研究室にこっそり持ってきてもらうと助かります」と。
 結局、番外編の講義は助教授の趣味と実益を兼ねていたということなんだろう。
 (おそらく、この講義は今でも続けていると思われる)
 
 助教授作成のランキングで堂々と一位に輝いたお酒。
 それが佐渡の赤泊地区にある北雪酒造の「北雪」であった。
 「北雪」とは、助教授曰く「目からうろこが落ちた」お酒だという。
 「以前、『越の○○』というお酒がブームになりましたが、『北雪』はその比ではありません。とにかく、佐渡は良質の水に恵まれているんですよ。そしてお米も。もし、この中に佐渡出身の人がいたら私に教えてください。なかなか手に入れづらいお酒なので」
 
 講義終了後、同期のMちゃんに声を掛けた。
 Mちゃんは佐渡の両津の出身だった。
 学科は違ったけれど、新入生歓迎会の時、たまたま席が隣で互いに酒好きだということで意気投合して、二人だけで安物の日本酒を飲み明かした仲であった。
 「Mちゃん、『北雪』ってお酒知ってる?美味しいって話なんだけど、一回、飲んでみたいな~」
 
 彼女はその時の会話を覚えていたのだろうか、それは年に一度、学生寮が無礼講になる日だった。 
 「もぐさちゃん、これだよ、これ!『北雪』!実家から送ってきたから飲もうよ!」
 彼女はこの日に合わせて実家から「北雪」を送ってもらったという。
 勿論、遠慮なく頂いた。
 「うわっ!何だこコレ!まるで水やん!!」
 今まで私が飲んでいた日本酒は一体何だったのか?
 一口飲んだ瞬間、私のそれまでの日本酒観を一気に覆してくれたのがこの「北雪」だった。
 
 それからMちゃんとその友人達、そして私は寮の談話室で和気あいあいと飲んでいたのだが、その楽しい雰囲気に気づいたKちゃんが「何飲んでんの?」と訊ねてきた。
 「Kちゃん、このお酒美味しいから一口飲んでみて~」
 「え~、でも日本酒やろ~。私、お酒は苦手やねん」
 「そんなことないって。このお酒は違うから!」
 「…!なに、このお酒、水みたいやん!」
 「そうやろ~、美味しいやろ~」
 「うん、これなら、うちでも飲めるわ~」
 
 「北雪」はお酒が苦手な子でも「美味しい」と思わせるだけの力量を持っていた。
 そう、本当に美味しいお酒というのは、適量を守れば悪酔いどころか、全く酔わないのである。
 それまでワインやウィスキーばかりを飲んでいた私であったが、「北雪」に逢って以来、日本酒の魅力に取りつかれてしまった。 
 「どうせ日本酒を飲むのなら、こだわりを持って飲みたい」
 この時、私の日本酒に対する意識がまさに変わった瞬間でもあった。
 
 Mちゃんとはその後も色々話した。
 「こんな美味しいお酒を造りだせる地に行ってみたいな」
 「うん、おいでよ!佐渡はいいところだよ!夏もいいし、冬も案外、雪は少ないから」
 「いつかきっと佐渡に行くね!」
 彼女と約束を交わした訳ではなかったが、「北雪」との出会い、彼女とのこうしたやりとりが私を佐渡島に誘わせたことは間違いなかった。