雨の音がする
いつも雨の音がする
硝子の中に生きている
日々に伝う雨の音
雨の音がする
雨の音がする
いつも雨が ざああと降っている
温室に栽培された
ビニールのお部屋で遊ぶわたし
雨の音がする
雨を他人事のように眺める
ビニールが隔てる雨の滴と
隔たりきれない雨の音
ざああ ざああと
雨の音
耳を塞いでも 雨の音
手に取れるものは沢山
与えられてきた 土 光 栄養 アイジョウ
声も 視界も 遊び場所も
このビニールの中に沢山溢れている
ビニールの中ではいつでも 昼
いつ起きようが 寝ようが
昼寝であり 夜更かしにもなる
いつでも 食べたい時に与えられ
学びたいときに学べ
歌いたいときに歌え
眠りたいときに眠れた
外が嵐でも そよ風でも
極寒の冬でもピーカンの夏でも
ビニルの中はいつも適温
空気の匂いすら感じない
無色透明な平安地帯
ごとごと ごとごと
電車に揺られる夜の夢
ドア硝子伝う雨は重たく光る
ごとごと ごとごと
町をゆく
夜がびしゃぬれに光る
町をゆく
硝子の面に写った向こうに
背を向ける自分が見つめる
はすかいに反らす視線逆光の影
音のこもる夜のとり籠
移動する密室のとり籠から
覗く沢山の沢山の視線
地面を地面を 夜のどしゃぶりのレール
ごとんごとんと引きずられてゆく
漏れる明かりは雨にかき消されず
滲んで滲んで雨粒をぼかす
溢れて止まない闇の雫の群れを
とつとつと写し出しては去る
濡れなくて済む 密室の硝子に
額を押し付けて 冷たいガラスを
伝う伝う伝う伝う沢山の光る闇の雨粒を
ガン見する
ココロが硝子の向こうで濡れてる
闇と隔たれた此方から叫んでる
冷たい感覚のとれぬ額から
飛び出した部分から濡れてく
守られている筈の密室の硝子は
冷たく冷たくとても冷たく
こんなんなら額を割られた方がましだと
思うくらい闇と隔たれた
雨のざああざああと振り付ける音が
乾いた室内の明かりに襲う
手に取れないどしゃぶりの水が
硝子の向こうからわたしを濡らす
泣きたいときに泣けなくても
泣きたい訳じゃないなんてしまい込んで
ただレシートのようにぽいっと捨てる
硝子の向こうにぽいっと捨てる
お面を張りつけた道化師が
営業終了後に堕ちる世界
暗闇も朝の光も区別のつかなくなった
カナシミの世界
ただどしゃぶりの中に打たれて
ただ暗闇のただ中に落とされて
身を守るものも何もない飛沫のただ中に
素直に惨めに放り込まれたいだけ
無味無臭透明無色のビニルハウス越しの
雨は切ないの
ざああざああとただ音だけが襲う
白昼の平安地帯は不自然なの
冷たい冷たい玉ねぎの皮のような
ビニルの膜が隔てる
様々な生きてる闇と光の気象を
生身の膚でボロボロになるまでじかに受けたい
雨の降りしきる硝子を眺めるより
雨に打たれて泣く方があたたかい
雨のざああざああと一緒になって
あたしもざああざああと流すの
ざああ ざああ
雨の音がする
ざああ ざああ
いつも雨の音がする
わたしの生きる ビニルの部屋を破いて
硝子のとり籠を叩きわって
ざああ ざああと
今まで浴びたことのない
生温かなかなしみを知る
...