| abさんご [ 黒田 夏子 ]
1,296円
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『abさんご』は、漢字使用率が極端に低いことである雑誌に紹介されている。
この小説では2つの特徴的な表記が行われる。「1通常漢字表記されるものが平仮名で表記されている」ものと、「2通常の表記よりも難解な語彙が使われている」ものである。
1ページ目に登場する語彙について、上記の二つに分類してみる。
「1通常漢字表記されるものが平仮名で表記されている」もの
がっこう、百にち、むえん、半せいき、みゃくらく
「2通常の表記よりも難解な語彙が使われている」もの
小児(主人公のこと)、初等教育(小学校)、多肉果(りんご)
作者が何故このような表記を行ったのか?
漢字は視覚的に情報を伝えるものであり、読者にある程度の固まったイメージを伝える。漢字を敢えて用いないことで、漢字の持つ特定のイメージを語彙から排除しようとしたのではないかと考えられる。逆に、2のような恣意的に難解な語彙によって平易な物事を表記することで、漢字の持つ厳格な定義から身の回りのものを考えるきっかけとなる。
1と2を同時に用いることは矛盾であるが、日本語を用いるにあたって我々が如何に漢字に頼った画一的な世界の見方をしているかを認識することができるのである。また、1によって日本古典のような繊細な文章が、2によって海外文学の翻訳のような硬質な文章ができ、二つがないまぜになることで、この小説全体に独特の浮遊感を与えているようにも思われる。