The Stone Age プチロングラン公演記念                  森達行の『The Stone Age 今昔物語』

The Stone Age 第9回公演<インディペンデントシアター太鼓判>

『時よ止まれ、君よ通り過ぎるな』

2005年11月30日(水)~12月7日(水) 全12ステージ

JUNGLE in→dependent theatre   前売2000円 当日2500円


【出演】緒方晋、中井正樹、アサダタイキ、坂本顕(A公演のみ)

【ゲスト】一明一人(高級社)、希ノボリコ(コリボの木)、蓮森美どり(PEOPLE PURPLE)
      林美紗、原知佐、森世まゆみ、横田江美(A級MissingLink)

【作・演出】鮒田直也

Amebaでブログを始めよう!

最終回 後編 ~時よ止まれ、君よ通り過ぎるな~

さて、この文章を読んでいる大半の方は、

今回の舞台をごらんになったと思う。

A・B・Cのパターンがありました。

複数回見られた皆様、どのパターンが好きですか?

それぞれに味があり、私には甲乙を付けれませんでした。

今回の舞台も、役者の皆さん達は本当に個性があって

(と言うよりも、まともなキャラが一人もいなかった)素晴らしかった。
今ごちゃごちゃ書くと、観て頂いたお客さんの興を損なうので、

ここでは割愛させていただく。


しかし一つ言える事がある。

坂本顕・・・やはり彼は笑いの悪魔である。

Aパターンを観た方は、その異様さに圧倒されたことだろう。

しかも舞台上では、お客を笑わすよりも、

主役の緒方晋を笑わすことに精力を注ぎまくっていた。

それをもって、お客さんを笑わそうとするのだから、悪魔どころか魔神である。

さらに坂本顕のこと。今回の舞台は4次元という魔法の世界。

そんな知らない世界に憧れてたツトムは、

不思議な模様の書かれた2本の柱を交互に

999回タッチすることで魔法の世界に行き、

ラストでは、同じく2本の柱を様々な思いを抱えて999回タッチし、

前の世界に帰る。


坂本顕が出てくるのは、このツトムが帰るラストの直前。

本番前に彼はこう言った。

「出番が終わって引っ込む時に、あの2本の柱の間を、

 デンしてデンして去って行ったろうか?」

マジですかい!それはあかんやろ?されど彼は本当にやりかねないのだ。

ここでブッチャケ本音を言うと・・・見たかった。

その時には緒方晋の頭の中は真っ白になり、

演出の鮒田さんは手で顔を覆って天を仰いだだろう。

そして役者の控え室では、声に出せない歓声と爆笑が巻き起こったに違いない。

その時お客さまは、どう思うだろうか?

観たい!と思ったあなた!立派な坂本予備軍です。


そう言えば打ち上げの席で、鮒田さんが面白いこと言ってくれた。

緒方晋に大入り袋を渡す時の口上で

「久々に主役を演じました!緒方晋!!」
実はこの数回、彼は主役じゃなかったらしい。

それをあたかも主役のごとく演じきった緒方晋。

流石は“自称”看板俳優なり!


最後に、観劇の料金について述べたい。

舞台の2,000円といえば、映画館の入場料より高いのだ。

例えば「スターウォーズ・エピソード3」を

缶コーヒー付で見てもおつりが来る、かなりの金額だ。


しかしThe Stone Ageの舞台は、

その料金を払っても、充分楽しめておつりが来る。
関西に劇団は沢山あるが、

この料金でこれだけ面白い舞台をしてくれる劇団は他に少ないと思う。
この劇団は小劇場を一度も観た事の無い方にも胸を張ってお勧めできる、

数少ない劇団の一つだ。


まだまだ書きたい事はあるが、取り敢えずはこの辺りで筆をおきたいと思う。

これまで数週間に渡り、長々と文章を綴らせていただいたが、

こりずに読んでくださった皆様、ありがとうごさいます。

しかし何度も言うけど、この劇団は面白い。

だからこれから先も、今までと変わらず、

そしてこれ以上に面白い舞台を魅せていただきたい。


作・演出の鮒田さん曰く

「お客さんが観てくれるから、俺たちはこうして舞台が作れるんです」

そんな舞台作りのためなら、

わたしはスタッフとして尽力を惜しまない。本当にそう思う。

                                 

おわり

最終回 前編 ~時よ止まれ、君よ通り過ぎるな~

「時よとまれ、君よ通り過ぎるな」が終演しました。


8日間12ステージ。私も音響で参加しました。

しかし音響プランを行い音も作ったが、

サラリーマンなので流石にオペレーションの全日参加は出来ず、

初日と土日、千秋楽の6ステージのみ行いました。

これでも結構しんどかったのに、

12ステージを演じきった役者の皆さんはスンゴイ。拍手なり。



第9回公演「時よ止まれ、君よ通り過ぎるな」

2005年11月30日(水)~12月7日(水)

ジャングル・インディペンデントシアター


さて、舞台裏を少し。

今回の舞台は、最初っから難産だった。

まずスタッフが決まらなかった。音響のオペレーターがいない。

実は私の会社には“節目休暇”という、

ある程度の勤続年数に対して2週間の連続した休みが取れる制度がある。
今年はこれにあたり、The Stone Ageの本番に合わせて

会社に申請したところ・・・泣かれてしまった、いま休まれては困ると。

かくして音響さん探しが始まったが、なかなか決まらず。

最終的にRinの林智也さんに決まったのが、本番の3週間前。


そして更に、制作チーフの山口知子さんが、

学校の先生になって担任を持ってしまい、充分な参加が出来なくなったのだ。

そこで颯爽と現れたのが、元たらこ劇場制作の閑社明子さん。

さらに超人予備校から尾松さん、ソウル大臣のコンビ。

閑社さんを筆頭に、

彼女達が踏ん張ってくれたおかげで、制作活動が破綻せずに済んだ。

よく、このワガママな劇団を見捨てることなく支えてくれた。

お礼に中井君の“お耳にチュー”を差し上げよう。


客演さんも、なかなか決まらなかった。

そんな中で横田江美さんは、

平均年齢33というThe Stone Age舞台の澱みまくった中にあって、

フレッシュな空気と演技を運んでくれた。

希ノボリコさんは本番2週間前まで、

ご自分の主宰する“コリボの木”の舞台があったに関わらず、

この短期間に見事ヒロインを演じきってくれた。この実力に脱帽である。


こんな難儀な状況の中で、これまでと変わらず影から支えてくれたメンバーがいる。

佐野雀頭である。

ある時は制作に、ある時は稽古の代役に、ある時は舞台袖係と大活躍。

稽古も一度も休まず参加したとのこと。本当に頭が下がる。


それから玉垣裕司さん。

(彼は今年の8月「俺たちは存在していないことになっている」に出演)

A・B・C全てのパターンを観に来てくれたうえに、

バラシを手伝い、打ち上げでは大いに皆を盛り上げてくれた。

彼と一緒にいると、

舞台だけの関係でない友情を強く感じるのは、私だけじゃないはず。

その十三 ~神様が書いた台本~

作・演出の鮒田氏の書く世界は、本当に特異だ。
野球場の外野席であったり、

女子プロレスラーの世界であったり、三途の川であったり。
空間に存在するキャラクターを、

時には遊び、時には弄り、時には馬鹿にして、時には励ます。


第8回公演「俺たちは存在していないことになっている」

(2005年8月 インディペンデントシアター2nd)



この公演では、神様までそのターゲットとなった。
舞台は田舎町の寂れた神社。そこには人の人生を"神"の作った脚本どおりに動かす3人の"神"たちがいた...なんて書き方をすれば、とても大層だが、

神の書いた脚本は本当に人間臭い。

その人間臭い脚本通りに世界を動かす"黒衣"と呼ばれる"神"達も、

人の応援もすれば恋愛もする。

真に日本文化に出てくる"神さん"そのままである。


その神さん達、とある野球青年の脚本を裏から動かすが、

トラウマを克服出来ない青年に強く想い入れ、

終いには「脚本を変える」という禁止事項を犯してしまい、

そこには罰が待っている。

そして結果を最後まで見せることなく、この舞台は終演する。


余韻を楽しめると共に、

私自身にもあった「あの時、もしも」を考えてしまう作品である。
この3人の神さんを演じたのが、

The Stone Ageのアサダタイキ、緒方晋、中井正樹である。

こんな神さん達に自分の人生を操られるのかと思えば

ムカッ腹も立とうものだが、意外と人情味の溢れる姿に共感を得た。


こんな感じで舞台上には個性あるキャラクターが揃い、

中井正樹は相変わらず裸族で、アサダタイキはメガネ族であった。
そこで一見して明確なキャラクターの無い看板役者は、焦っていたのだろうか?

この頃からとあるスタイルを出そうとしていた。
本人が言うところの"ワイルド路線"だが、

明らかに失敗し"不健康不潔路線"となってしまった。


「俺達は~」の台詞で緒方晋の

「これが40男の素顔ですわ。」という科白を聞いて、

それが実年齢と勘違いした人も少なくないよって彼のこの路線は、

客演の女性陣の集中砲火を受けて、

見事に崩壊したが、この過程は見物で爆笑だった。


さて話しは戻り、客演陣の紹介をする。
梅本真里恵さんは、さすがに"売込隊ビーム"という人気劇団に在って、

見事にコミカル且つリリカルにヒロインを演じた。
玉垣さんは、不器用な野球青年をそつなく演じ、

川辺みほさんはホンワカした見習い巫女さんを、

決して他人が真似できないテンポで押し通した。


元気一杯パワー炸裂だったのが、

ご存知!蓮森美どりと一明一人の巫女/神主のコンビ。
一明一人に至っては、

あるネタで本番中に最も笑いを取り「私って緒方さんより面白いかも?」と

言ったか言わなかったかの噂が、あったり無かったりした。
【黒衣塾の理事長】として登場したThe Stone Ageの母、森世まゆみは

彼女にしては珍しく出オチで笑いを取り、

「登場しても笑いが来なかったらどうしよう。」と最も緊張した舞台と言っていた。

ちなみに「時よ止まれ~」での彼女は、完全に出オチである。


その理事長が派遣した<エリート美人黒衣>の橋之爪理絵は

「物の怪が棲む橋の下」以来の久々の登場だったが、

月日は彼女を役者として味を加え、

ダンサーとして魅せることを得た個性的な女優に成長させていた。


この舞台を観て感じた事は、

The Stone Ageは彼ら独特の世界を確立しつつあると言うことだ。


しかし、それで満足する彼らではない。

今回の「時よ止まれ~」では、

次のステップを目指して皆さんを楽しませてくれるだろう。
今回の舞台も必見である。ぜひ予約して、舞台を観に来て欲しい。


P.S

一明一人がファン念願の女学校の生徒を演じます。話しのネタにもどうぞ。

その十二 ~昭和60年に書いた夏休みの日記~

上演まで、あと一週間を切った冬公演「時よ止まれ、君よ通り過ぎるな」 で、

The Stone Ageは皆様に3種類のラストを提供する。

先日、このAパターンを見せてもらった。非常に面白く、B,Cパターンも楽しみだ。


そう言えば以前も、ラストが複数あった作品がある。
The Stone Age 第7回公演「観測史上、最高気温を記録しました。」

(2004年8月 ジャングルインディペンデントシアター)である。


とある田舎町に、

父親(坂本顕)を亡くした主人公の少年(緒方晋)が

母親(森世まゆみ)と二人で住んでおり、

夏休みの宿題としてオタマジャクシの観察日記をつけていた。

しかしある朝、起きてみると

水槽からオタマジャクシがいなくなっていた。

ひと晩でカエルになったんだろうか…。

少年は日記がつけられなくなり途方にくれるが、

想像力豊かな少年は、オタマジャクシと過ごしたその後の夏を、

観察日記の中で創りあげてしまう。


観察日記は現実とファンタジーが交錯する世界。

同級生の金持ちのマサル(一明一人)から聞いた

初恋の女の子ヒロコちゃん(野上マヤ)の引っ越し。

オタマジャクシもヒロコちゃんもいなくなった日。

悲しみに暮れる少年はやがて、

水槽から飛び出していったオタマジャクシの“オタマちゃん”(中井正樹)と

ガールフレンドの“ミドリちゃん”(蓮森美どり)との再会を日記の中で作り上げてしまう。

また、彼らを食べようと狙う“ヘビメガネ”(アサダタイキ)や

オタマちゃんの母親でカエルの国の女王(大北えつ)が入り乱れて物語は進んでいく。

それは見ている私たちに「別れとは何か?」「子供の心とは何か?」

そして「大人になることとは何か?」を思い出し考えさせてくれる内容。


この公演は、劇場が企画した『極~KIWAMI~』で実現したもの。
劇場を和室に変え、9劇団が同じ舞台美術を用いて別の日程で、

それぞれの公演を打つもの。

そしてそれぞれの劇団の公演で

「この舞台を再演するとしたら、もう一度観たいですか?」というアンケートを取り、

上位の3劇団が1日ずつ再演をする企画。


The Stone Ageは、この投票で見事に1位を獲得し、夏の終わりに再演を行った。

再演作品 「観測史上、最高気温を記録しました!」(2004年 8月)


初演と再演のラストは、全く違うものだった。
一方は、主人公が子供の心のまま大きくなり、

久々に帰った田舎にて昔と同じく、

オタマちゃんやミドリちゃん、ヘビメガネや幼馴染達と出会う。


もう一方は、帰省した主人公にオタマちゃんとミドリちゃんが会いに来るが、

大人になってしまった主人公は、その姿と声に気づかない。

そうそう。この作品は初演と再演とで役者が異なるキャラがあった。
オタマジャクシの“ミドリちゃん”役だ。

初演は蓮森さんが演じてくれたが、再演日が自劇団の公演と重なり参加できなかった。

そこでやってきたのが、

「たらこ劇場」で“音響君”というキョーレツなキャラを持つ、きくりんこさん。
この二人の“ミドリちゃん”は演技の質は違ったが、

それ故にそれぞれ心にしみる大切な役割を演じきってくれた。


そして坂本顕。

初演では参加の日程が合わず、亡くなった父親ということで、

部屋にある遺影の写真のみの登場であった。(この写真だけでも笑いを取っていた)
しかし再演では、幽霊として登場し嵐のように暴れまわって去っていった。

お客さんも驚いたことだろう。


この舞台、2つのラストを比べて互いに遜色なく、観ていて心が切なく痛かった。

そして子供の頃の、優しくて楽しかった生活を思い出した。

この作品を観ていないで気になる方は、当日にDVDを販売するので、

ぜひ観て頂きたい。


そして「時よ~」での3パターンも、ぜひ堪能して欲しい。


ジャングルシアターの作った和室のセットも凄かった。

田舎の民家を、あのシアターの中に再現したのだ。ジャングル恐るべし。

このような理解と情熱のある劇場さんと感覚の皆さんに支えられて、

The Stone Ageは舞台を続けることが出切るのだと、強く思った公演である。

その十一 ~この世とあの世の境目に優しき鬼たちがいた~ 

物事に真剣に取り組んでいると、ふと気になってしまう時がある。
自分達はシッカリと出来ているのだろうか?

たとえ未熟であっても、発展し続けているだろうか?
そして周りの皆さんの反応と評価は、どのようなものだろうか?


私の様なファンからすれば「今さら、何をいらん心配しとんねん!」と思うが、

The Stone Ageのメンバーは、このことで悩んでいた。
その中でもウカツに謙虚で名高い作・演出の鮒田氏が、

はじめてお客様に愛されていることを実感した作品。


第6回公演「三途の川を渡る君を見送る」(2004年3月 HEP HALL)である。


この世とあの世の境目が舞台。

そこに、人の現世での記憶を消すのが仕事の鬼達がいる。
鬼の見習い・ボンが記憶を消されたくないため、

鬼たちから逃げている女性に恋をするお話。


この舞台は前述したとおり、見事なセットを作りこんでの一幕もの。
私はこの舞台には、音響ではなく制作と舞台写真撮影で参加した。
中央に銭湯と番台を作り、「男湯」と「女湯」の暖簾と入り口がある。

舞台の下手には滑り台(この世の出口)と上手には長い階段(あの世の入り口)がある。

登場人物はそこを滑り降りたり、駆け上ったりの大忙しの躍動感のある舞台だった。

若い客演さんには大した事の無い労働だが、

ええ年を迎えたThe Stone Ageメンバーには辛かったろうね。

(幸い、森世さんはこの坂を滑ったり転んだりすることは無かった、良かったですね)


この舞台、ゲスト陣の個性が光った。


元タントリズムの田所草子さん。

彼女の幅広い表現力と深い台詞回しは、この舞台のヒロインにもってこいだった。


西坂舞さん(劇団赤鬼)は天然キャラのOLから硬派な警察官の変身は見事。
また、警察官から女泥棒への変身で爆笑をとっていた一明一人。

70年代のレトロなファッションと雰囲気を醸し出した、ゆであずきさん(仏団観音開き)。
The Stone Ageの母、森世まゆみさんは、やっぱり女将さんだった。

(今回の「時よ止まれ・・・」では、女学生を演じる。いろんな意味で乞うご期待!)

見た目と演技プランで、ドンピシャにはまったのが原知佐(たらこ劇場)の幼稚園児。

野上マヤさんは相変わらず、オトボケヒロインを演じつつ、得意なダンスを披露していた。


そしてThe Stone Ageのメンバー。
中井正樹は最初から最後まで、ほとんどパンイチ。とっても嬉しそうだった。

前回の「まんがの星」では、ずっと服を着ていたのでストレスが溜まっていたんだろう。
何よりも嬉しかったのは坂本顕が三途の川の番人の“黒鬼”としてフル出演したのだ。

かなり迫力があり、相変わらず怖くって・・・面白かった。
前回の「まんがの星」から、

正式にThe Stone Ageのメンバーとなったアサダタイキは、やはり旨かった。

自分の美味しい所を押さえながら、他の出演者のネタを食いまくっていた。

その姿、まさしく鬼のごとく。
“自称”看板役者の緒方晋は、彼の得意ネタというかライフワークというか、

私生活そのままの“あかん子”ぶりを発揮していた。

彼の“あかん子”ぶりは、私生活と共にこの時期に完成したといえる。


この舞台から、鮒田氏の演出が変わった。
一幕ものは難しいと思う。固定された空間で全てを表現するから。
この舞台では、その環境でストーリーと笑が旨い具合に融合していた。
舞台の最後、鬼によって記憶を消され、

三途の川を渡るヒロインを見送る為に追いかけていく“あかん子”の姿。


雨が降れば、彼の記憶は消えてしまう。

ラストで坂本顕が励ましのドラを鳴らした時、私は涙が出た。
こうやって何かを忘れる事はあっても、

誰かを好きになり、そして助け合って活きたいと心から思った作品だった。

その十 ~アサダタイキと中井正樹のマンガチック舞台~

最初に、チラシを作成した森★直子さんに一言。
あなた天才!見事なセンスに脱帽。

チラシを見ていただきたい。


JUNGLE劇場’03「まんがの星」(2003年7月 ジャングルインディペンデントシアター)


某有名漫画家の特徴を見事に再現した上に、

この絵の2人がThe Stone Ageのどのメンバーかが一発で分かる。

私はこのチラシを見て爆笑したよ。



さて本題。
この物語の主役は中井正樹とアサダタイキである。

そして二人の起用は今後に繋がる成功を収める。
最近の作品「俺たちは存在していないことになっている」は黒衣の3人が主役だったように、

The Stone Ageのキャスティングの幅を広げた作品と、私は捉えている。

それがこの「まんがの星」である。



場所は狭い狭いアパートの一室。

学生時代に発表したデビュー作が、

爆発的にヒットした2人組み漫画家の中井とアサダは、

現在では掲載が全くないにもかかわらず、夢をあきらめずに漫画を描き続けていた。

そこに昔の作品のファンという編集者(一明一人)が、執筆の依頼にやってくる。

作品は方向性が異なってきた二人(中井は劇画志望、アサダはギャグ漫画志望)であるが、

何かと衝突しながらも意気揚々と作品に取りかかる。

そんな彼らと、行きつけの喫茶店のマドンナウェイトレス(野上マヤ)や、

アパートの女大家(森世まゆみ)、行方不明だった二人のまんがの先生(坂本顕)が絡んで、

夢とは何かを問いかける作品。



The Stone Ageには、二つの舞台スタイルがある。

1つは、E-1や先日の「俺たちは~」のように、一幕の舞台で、ひとつの世界観を見せる作品。

1つは、何人かの作家(鮒田、アサダ、中井)がひとつのシーンを描き、構成の妙味で見せる作品。

私は両方とも好きだ。それぞれに鮒田氏の脚本と演出が活きているから。

この「まんがの星」は後者に近い。私も音響として、バカバカしい音楽を存分に流させてもらった。



劇中劇で二人の描いたまんがを再現したシーンは秀逸。

まんがに出てくる登場人物はみんな個性派であった。

その中でも、客演の糸川さん(仏団観音びらき)の演じたキャラは、

実際の彼の行動と相まって、えもいわれぬ雰囲気をかもし出した。

樺島さん(ントログリセリン)と射場さん(P・カウンシル)の凸凹コンビは本当に凸凹だった。

そーいえば本番を射場さんのお子さんが観にきた。

お子さんを目の前にして緊張する射場さんに対して、

お子さんから「お父さん頑張って」と、

声援が飛んだ時は会場は拍手に包まれたっけ。(あかんやん!)



ヒロインの服部まひろさん(キリンバズウカ)は、

清楚でエロエロで私と鮒田氏と射場さんのハートを打ち抜き、

森世まゆみさんのミニスカート姿は、女優魂を痛いほど我々に示してくれた。

このメンバーを見て分かると思う。

そう!前回のE-1グランプリ大阪決勝で対戦した劇団から、

特に個性的な役者さんを引っ張ってきたのだ。



ここに、「そーいえば、看板役者はどうしたの?」と思う方もいるでしょう。

ぶっちゃけ彼は2.3シーンしか出ていない。

それは何故か?直前まで、他の劇団に客演していたからだ。

なんでそんな事に?

看板役者は、The Stone Ageの本番直前まで、他の舞台に出る事に引き受けてしまった。

こうなると自然に練習量が足らなくなり、

舞台の質を落とすことをタブーとする鮒田氏は、彼の出番を減らしたんだと思う。(たぶん事実)

って事だけど、ぶっちゃけ

「ちやほやされてエエ気になってる緒方くんに、頭を冷やさせた」って事だろうな。(推測)
だとしたら、観客と自分の組織をしっかりと考えて決断した鮒田氏に拍手を送りたい。

その九 ~E-1グランプリ大阪大会~ 後編

E-1大阪決勝の当日、The Stone Ageと私が参加するントログリセリンは、第一日目の組だった。
参加する劇団は、各々の荷物を持って指定された時間に搬入場所へ集合した。
するとそこに一台のトラックがやってくる。
主催者側のトラックかと思っていたら、何と中から緒方晋が降り立ったではないか!
荷台のシートを剥がす…私たちの目に飛び込んできたのは、見事な桜の木のレプリカ。
その他、人形らしきもの、更には大量の畳。


唖然と見守る私たちをよそにThe Stone Ageの搬入は続く。
振り分けられた楽屋に入り、一通り片付いたので、他劇団へ「よろしくお願いします」と挨拶に行った。
最後にThe Stone Ageの楽屋。ドアを開けると坂本氏が白衣を着て寝転んでいるじゃないか。
具合でも悪いのかと声をかけようとした瞬間に気づいた!それは坂本顕の等身大模型だったのだ。
後に聞いたのだが、御本人から直接型を取っただけあって、とてつもなくリアル。
(ち○ち○まで再現されていた!)
私はこのフィギュアを「ほぼ坂本君」と名づける。


The Stone Ageの大道具の出来栄えに他劇団は圧倒されていた。
そしてロビーで各々の劇団員が、不安を払拭するように気合を入れている。
とある劇団さんは
「道具が良かても、やっぱ内容やで。俺らは内容で勝負しよ」
とか、
「インパクトは、私たちの劇団の方がある!」
とか、
「あれだけセットを作っていると言う事は、ストーリーがたいしたことないんちゃう?」
と話しをしていた。


皆さんは、The Stone Ageの舞台を観たことがなったのだろう。

その時、あの男が通りかかった。
胸から上を真っ黒に塗りつぶしたスキンヘッドで、目の下に白いアイラインを入れた、
パンイチ姿の中井マサキングである。E-1の舞台を観た人は思い出して欲しい。
観ていない人は想像して欲しい。あの黒人スタイルを。
いきなりの登場に、彼が通り過ぎる先から「ギャッ」とか「うわっ」と悲鳴が聞こえてくる。
マサキングには快感だったろう。
ロビーにいた皆さんは、お互いしばらく目を見合わせ、それから俯いて会話が途切れた。


やってくれた!本番前の緊張も何のその。私は心の中で拍手と爆笑を送っていた。
しかし私にも意地がある、その場を立ち上がりThe Stone Ageの楽屋に抗議に行った。
「大人気ない!そこまでして勝ちたいか!」全くの言いがかりである。
「絶対、勝ちたいねん!」鮒田氏の言葉にぐうの音も出ない。まさしく勝ちにきたのだ。


時間は押し気味ながらもリハーサルは無事終了。
そして決勝戦第一日目(2003年4月 近鉄小劇場)の幕が開いた。
客席は超満員。順当にプログラムが進んでいく。
以前にThe Stone Ageに客演した、

植田さとみさんが主宰する劇団「キリンバズウカ」も無事演目を終えた。
その演目は、かなり印象に残っている。
他と異なったスタイルの舞台演出を展開したのだ。
その時に主役をした服部まひろさんは、

The Stone Ageの次の公演「まんがの星」に客演として招かれる。



そしてThe Stone Ageの順番。3番目だったと思う。
タイトルは『師匠ーッ!』
三味線と鼓笛によるお囃子の中、落語家姿の坂本顕が登場。
落語のネタ「寿限夢」という演目が滑らかにはじまるが、
その落語家が本番中に急死してしまい、幽霊になった“師匠”の
お通夜に来た“落語家の弟子達”と師匠の女将さんとのスッタモンダがこの舞台の内容。
物語のキーポイントとして、弟子の中であかんたれの緒方晋にだけに師匠の姿が見える。

師匠が倒れて暗転、その間に場転があった。
明転すると舞台中央に、あの桜の木が!

落語のシーンでは、舞台の中央に幕を張り隠していたのだ。
その手前に白衣を着た師匠(坂本顕)の身体。この身体が「ほぼ坂本君」だった。
照明を受けた桜の木の美しさに、みんな心を奪われる。


その瞬間、死んでしまった師匠の身体が起き上がってくる。
「ほぼ坂本君」から本物の坂本氏が登場。見事な幽体離脱のシーン。

三途の川を渡る手前でどうしても気になることがあって、戻ってきたのだ。
この作品の最大の演出である。


客席のみんなが息を呑んでシーンとする緊張感が、一番後ろから見ていた私に伝わる。

舞台上では次々と師匠の下に弟子達が駆けつける。
ところが、どの弟子達も今ではみんな落語をしていない。ただ一人を除いて。
一明一人は特撮ヒーローショーで食いつないでいる3番弟子。
アサダタイキはマジックコメディーをしている2番弟子。
中井正樹はアフリカからきた1番弟子だが、現在は芸事とは全く関係ないタクシー運転手。
緒方晋は、あかんたれの4番弟子であった。
森世まゆみは、師匠の女将さん。この演技から彼女はストーンエイジの母と呼ばれることになる。

落語はもうしないと話す弟子達を前に悲しみに暮れる師匠。


そんな師匠の姿に

あかんたれだった4番弟子がいつの間にか憶えていた「寿限夢」を師匠に聞かせる。
夢だった弟子の落語を聞きながら幽体離脱していた師匠は

桜が散りゆく背景と共にゆっくりと成仏していく。
桜が散りゆく間に時は流れて、

成長した4番弟子が落語「寿限夢」を堂々と演じる姿とともに舞台は終演。
拍手の渦である。私は感動して、涙が出そうになった。


ここから少しントロの話し。
客席からロビーを通って楽屋に行くまでに、私の気持ちは切り替わっていた。
楽屋ロビーでThe Stone Ageメンバーと鉢合わせる。
「お疲れ様!」
「おう、そっちも頑張ってな」
短い挨拶の後に、ントロの楽屋に。するとメンバーが手をつないで輪になり、
主宰の樺島氏が皆に語りかける。「僕達は勝つ。普段の力を出そう!」
静かに気合を入れて準備に入る。ントロは最後の5番目。
幕が開き、役者は出来る限りのことをした。スタッフもトラブルがあったが力をあわせた。
各劇団、各メンバー、そしてスタッフは力の限りを尽くした。


全ての演目が終わり、充実のひと時。そして観客による投票が始まる。

ここで、投票の方式について説明する。
観客は入場の際に、色の付いた5本の棒の束を渡される。
その棒は5色に塗り分けられており、
例えばThe Stone Ageは赤、ントログリセリンは黄色と、各色毎に各劇団が振り分られている。
そして観客は、面白いと思った劇団の色の付いた棒を、スタッフの持つ箱の中に入れていくのだ。
何本入れてもいい事になっていた。

面白いと思う劇団が3つあれば、その観客は3本の棒を投票する。
自分が贔屓にしている劇団に加えて、本当に面白いと思った劇団にも投票できる。
つまり、一人で複数の劇団に投票できるのだ。


投票が終わり、その場で開票。結果発表、緊張の瞬間。
司会が少し驚いた声でアナウンスした。
「1位。The Stone Age!」
そのとき、緒方が吼えた。お客が350人に対し、280票ほど獲得していたと思う。
ちなみに決勝2日目に優勝した「ザ・プラン9」よりも80票ほど多かった。
2位は同率でントログリセリンとP・カウンシルだった。
1位と2位の得票差は、120票あった。
The Stone Ageの圧勝である。悔しいが、これほど嬉しい事はなかった。


そして、その10日後、The Stone Ageは東京に出発する。
私は見送る為に、大阪大会決勝の会場であり、今回の集合場所である近鉄小劇場の前にいた。
ここから出発しようとする演出が心憎い。
小雨が降っていた。しかし皆は意気揚々である。
出発の時、鮒田氏が車に乗り込みながら行った。
「じゃあ森さん。行ってくるわ」

行ってらっしゃい。そして勝ってらっしゃいと、私はつぶやいた。


全国大会決勝戦(2003年4月 下北沢・本多劇場)の結果は皆さんご存知の通り、
地元東京の2劇団のうち、一つを破り堂々の3位入賞である。
本当におめでとうと思う。
いい劇団にめぐり合えたと、今でも思う。


次回予告「衝撃!看板役者が主役を降ろされる日!?」~まんがの星~

その八 ~E-1グランプリ大阪大会~ 前編

E-1グランプリ大阪大会決勝戦(2003年4月 近鉄小劇場)

仲が良くって、お互いを認め合っている分、時にはライバルになる時がある。

E-1グランプリ大阪大会決勝戦の

The Stone Ageと私(親戚のおっちゃん)がそうだった。





その前にE-1グランプリと何ぞな?って方のためにしばし説明を。

知ってる方は飛ばしてください。

早い話が小演劇界の全国大会で

勝敗は観客の投票によって、決まるシステム。

地方大会は北海道・東京・大阪・九州で行われた。

大阪からの主な参加劇団「鹿殺し」「糾~あざない~」「キリンバズウカ」

「仏団観音びらき」「売込隊ビーム」「P・カウンシル」「ントログリセリン」

「ザ・プラン9」そして「The Stone Age」などなど。


それらが東京での全国大会決勝(下北沢・本多劇場)への出場枠の2席を争う。

一次予選を勝ち抜いた10組が決勝を二組に分かれて実施され、

それぞれの優勝組が東京に行く。持ち時間は20分。


まずは一次予選(2002年12月 近鉄小劇場)

The Stone Ageは、『蔵』という作品を披露した。

「お仕置きで蔵の中に閉じ込められた丁稚が

そこを棲み家にしていた河童と天狗に助けられる」という物語。

音響はオープニングとエンディングの音楽のみなので、

主催者側にお願いし、私は不参加だった。

また私は仕事が忙しく、この舞台を観に行くことができなかった。

結果は、その組でThe Stone Ageはダントツの1位。観たかった。

その1ヶ月前に「The Stone Age」の弟劇団(と、勝手に私は呼んでいる)

「ントログリセリン」が予選を通った。これもダントツの1位。

その他、有力劇団も順当に駒を進め、

大阪決勝はレベルの高い戦いになると期待できた。

主催者側の思惑通りである。


The Stone Ageの決勝戦のネタは『師匠ーッ!』という落語家の物語。

音楽は、実際に三味線と鼓で生音を入れるので、今回も音響の出番なし。

グスンと思っていると鮒田氏から電話が。

「今日から稽古やるから遊びに来てや。」「行く行く!」

そして、私は制作なり細々とした事を手伝うつもりで家をでる。

練習場所に車を停めて、中に入ろうとしたときに携帯が。

相手は「ントログリセリン」のメンバー。以下その会話


ン 「森さん久しぶりです」

森 「元気か?一次予選、ダントツやったらしいな。大阪決勝、頑張れよ」

ン 「それなんですけどね、森さん音響をしてもらえませんか?」


何ですと!その瞬間、はっきり言って瞳孔が開きかけた。

目の前の建物の中にはThe Stone Ageのメンバーがいる。

The Stone Ageとントログリセリン。

この2劇団は決勝で同じ組になっていて、

一方が優勝すれば、もう一方が落ちる。

少し考えさせてくれと言って電話を切る。植え込みに持たれかけて、しばし黙考。そこに出演者の森世まゆみさんが稽古参加にやってきた。


森世 「どうしたん?こんなところで格好つけて。早く中に入ろうや」

この頃には考えは決まっていた、引き受けよう。建物の中は携帯が通じない。

森世さんに嫌な役を押し付けた。


森 「うん、練習場に遊びに来たんやけどな。

   いまントロから音響して欲しいと頼まれた。

   鮒田さんに後で電話するから、すまんと言っておいて」

中に入れない。これから闘う相手の手の内を見てはいけないし、

何より決心が揺らぐ。

簡単に、森世さんに事情を説明して建物を後に。

実は帰りの車の中でも悩んだ。引き返そうと思ったよ。


夜、鮒田氏に電話する決心がつかず、その前に森世さんに状況を聞いた。

森世さんが私のことを伝えた瞬間、練習場はシーンとしたそうだ。

鮒田氏も少なからずショックを受けていたらしい。


私は鮒田氏に電話した。

鮒 「そうか。負けへんで~」

森 「こっちこそ」

電話は短かった。それだけで充分だった。

そしてントロの樺島氏に電話を。


同じ組には「P・カウンシル」「仏団観音びらき」「キリンバズウカ」

「The Stone Age」がエントリーされていて、敵達はあまりにも大きい。

しかし、最有力はThe Stone Age。レベルの高さは知っている。

だからこそ、彼らに勝てば東京へのキップが手にはいる。

「絶対に優勝して、東京に行こう!」

私はントログリセリンの樺島君に電話で伝えた。


つづく


次回予告 

E-1大阪大会決勝戦

東京行きはどこの手に?!の巻

その七 ~あの男が本格参戦!~

一つのプロレス団体があり、発展するか衰退するかの瀬戸際に、

強い個性を持った者が加わる。

その個性が周りと上手くかみ合えば強力なメンバーとなるが、

反発したり溶け込めなければマイナス要因となる。

マイクパフォーマンスが上手く、動きにキレがあり技にセンスがある。

そいつが“桜女子プロレス”に参加した。



The Stone Ageプロデュース公演Vol.2

「その時、桜は咲いていた」(2002年7月 ジャングルインディペンデントシアター)




この舞台から、アサダタイキが本格参戦した。(この公演終了後、彼は入団する)

「将来の夢は世界制服!」以来、彼はThe Stone Ageと交流を続け、

「その時、桜~」に参加した時から、

The Stone Age内部に、劇的な変化が訪れ、練習形態が変わったのだ。



それはどういう事なのだろう。

The Stone Ageの練習は面白い、1回の見学あたり500円だしても良いくらい面白い。

作家が台本を書き、それを役者が立ち稽古をし、演出が指示をする。

アサダ氏は、この立ち稽古において、演出の意図を汲み取りながら、

ありとあらゆるアドリブを行うのだ。それが面白い!

これで他のメンバーが触発されないはずがない。

つまり格闘技で言うと、これまで筋トレばかりしていたのが、

パワーだけではなく、技や駆け引きを覚えたことになる。

The Stone Ageの頭脳派レスラー。アサダタイキ!

彼がいなければ、現在のThe Stone Ageの面白さは半減していただろう。

と言うよりも、The Stone Ageは存続していなかったかもしれない。

それと同時に学生演劇の波が、このオッサン劇団にまでやって来た。

現役女子大生の植田さとみさん、斉藤加奈さんを迎えた時は

「鮒田さんは気がフレたんちゃうか?」と思ったが、この二人がなかなか。

ここで私に、この二人に格闘技を教える仕事が廻ってくる。

ちょっと待って、私は音響さんよ?

と一緒だけ思ったが、元プロキックボクサーで某流派拳法の黒帯で

現在は指導員と言う経験を活かして、二人に基本を教えた。



するとこの二人、自分の出番が無くっても他の人が演技しているときは、

それを食い入るように見ているが、休憩時間になると鏡に向かい。

植田さんは“突き”と“蹴り”を、斉藤さんは“パンチ”と“キック”の練習を始めるのだ、

黙々と。

この真面目さは、おっちゃん達の軟派系格闘技心を刺激してくれた。

演技も素直で、将来を期待させる女優さんであった。



そして森世まゆみさん。彼女は斉藤さんの母親役で出演。

ちょっと待って? 年の差は10歳離れて無いんですけど母親なん?

されどそこは演技派女優の森世さん、軽快に母役を演じました。

The Stone Ageの色物ヒロイン野上マヤさん。

彼女の可憐で濃ゆい演技は、その地位を他人に譲ることなく君臨し続ける。

今は芸能関係の仕事で舞台から離れているが、早く帰ってきて欲しいと思う。



話しをアサダ氏に戻そう。

彼の役どころは、花形ヒロインレスラー(野上さん)の熱狂的なファン。

少しストーカーが入っている。

あのメガネ姿に“ソフマップ”の手提げ紙袋を持って練習場に来た時は、

ほんまもんのオタクかと思った。

あれは素なのか役を作り込んでいたのかは、いまだに謎です。誰か教えてください。



中井正樹は、桜女子プロレス専属レフリー。スキンヘッドで登場。

彼の“シャドーレフリング”つまりレフリーの練習するシーンは秀逸。



坂本顕は、桜女子プロレスのいかがわしい社長。

相変わらずである、観ていて心地よい恐怖と笑いを与えてくれた。


そして緒方晋は、桜女子プロレスの職員。皆に触発されながら生きていく。


この話しは、鮒田氏の熱狂的なプロレスファンぶりが如何なく発揮された作品。

過去の出来事として、映像ありコントありで非常に楽しめた。

そう言えば、坂本顕と緒方晋の漫才があったなぁ。

そのシーンになると、当時の緒方晋の彼女だった「○っちゃん」が、

両手を合わせて祈るように見守っていた逸話は涙を誘う。


あ、今でも彼女だったっけ?



続く。

次回は「驚愕!親戚のオッチャンが敵になった。E-1グランプリ大阪大会決勝戦」

その六 ~橋の下で千年待つ~

どんな劇団でも、転換期と言うのがある。
それまで培ってきた演出力、演技力、技術力、制作力とコネが一体となって、

固有のスタイルをまとめ上げ、次へと進む足がかりとなる。


The Stone Ageにとっては、それは

第5回公演「物の怪が棲む橋の下」(2001年12月 HEP HALL)である。


物語の内容は、平安時代に添い遂げることの出来なかった男女が、

江戸時代で河童と少女と言う形で出会い、そして再び生まれ変わって現在で出会う話。
ストーリーの中に、人の優しさと愛情、それから輪廻と言うものを盛り込んでいた。

メンバーは全てに対して気合が入っていた。

場所は梅田のHEPホール、これまでに無く大きい会場だ。
私は以前にOMS(扇町ミュージアムスクエア)で音響をした事があったので

「何とかなる」と思っていたが、他のメンバーの不安感は大きかった。

ある意味、背水の陣である。

その不安を払拭する救世主がThe Stone Ageの前に降り立つ。
名前は青野守浩。舞台監督である。

不甲斐ない我々に対して、怒る訳ではなく、上手く諭しながら皆を動かし、

黙々と舞台進行に勤めてくれた。
舞台装置の上手が壊れてたと聞いては行ってナグリを振るい、

下手の袖明かりが暗いと聞いては行って明かりをともす。

暗転場転の切っ掛けにはインカムで合図を送り、

ダレたメンバーがいれば静かに活を入れた。そんな舞監の彼は偉い。

しかも、大道具として舞台セットを作った一員である。


セットは舞台上に、人が渡ることの出来る橋と川。

そしておみやげ物屋をたて、それが時代ごとに早変わりをするという演出を実現させた。

現代のシーンから、暗転が明けると平安時代になっているのだ。

そして、江戸時代→現代へと変化していく。


衣装も凝っていた。本物の時代劇の衣装を用いたのだ。平安時代の服装と江戸時代。
俄然、着付けが必要となる!そこで名乗りを挙げたのが、

制作手伝いの前田・宮森コンビ。何と彼女達は着付けの師範免許を持っていたのだ。

更に床山さん(かつら係)も2名加わり、楽屋は大賑わい。
そこに水野さんの河童の衣装が加わる。あのコミカルかつリアルな河童である。

フライヤーも目を楽しませてくれた。とある作家の画風をアレンジして世界観を出し、

チラシを見た者に大きな期待を抱かせている。作った森☆直子さんに拍手である。


演出の鮒田さんは、役者を使うのが本当に上手い。
一癖も二癖もある客演陣を、見事に当てはめたのだ。
ヒロインを演じた大西明子さんは、特に良かった。ファンが倍増したのではないだろうか。
そして”お茶屋の女将”を演じた森世まゆみさんは、

この時からThe Stone Ageの母となる。

中井正樹と坂本顕も、これまでのスキルを全て使い切った。
パンイチで現れた中井正樹と、笑いながら走る坂本顕からは、

驚きと恐怖と爆笑を与えてもらった。

初めてThe Stone Ageを観た客様には衝撃だったろう。


ここで、一際光った役者がいた。“看板役者”である。
彼の河童は、ドン臭くって、臆病で、キュートで何よりもすばらしく、

河童が身を引いて川に帰る場面と、現代に橋の下で女性と再会するところは、

スタッフでありながら感動した。
舞台上には、鮒田氏の演出を見事に受けきった、

気力とパワーに溢れた緒方晋が立っていた。

しかし良かったことばかりではない。演出も舞台転換を懲りすぎた為、

暗転が長くなってしまい、私自身も小さなオペミスがあった。役者も更に伸びていかなくては。
メンバー、スタッフ共に、観てくれるお客の存在を、強く意識した舞台でもあった。


打ち上げは、皆でしこたま飲んだ。舞台の歓びと反省をもって。
そして夜明けに、私はThe Stone Ageのメンバーと難波にいた。
始発までもう少しの気だるい時間。いきなり緒方晋は言った。
「俺、芝居していくの不安やけど、これから絶対やって行けると思うたわ!

 俺はやるで、やったるで!」“看板役者”が小さな声で、力強く吼えたのだ。
中井正樹が静かに頷いた(と思う)。
そんな皆を、私はしばらく見ていた。


つづく。
次回予告「ついにあの男が本格参戦!~桜女子プロレス編~」