その十一 ~この世とあの世の境目に優しき鬼たちがいた~
物事に真剣に取り組んでいると、ふと気になってしまう時がある。
自分達はシッカリと出来ているのだろうか?
たとえ未熟であっても、発展し続けているだろうか?
そして周りの皆さんの反応と評価は、どのようなものだろうか?
私の様なファンからすれば「今さら、何をいらん心配しとんねん!」と思うが、
The Stone Ageのメンバーは、このことで悩んでいた。
その中でもウカツに謙虚で名高い作・演出の鮒田氏が、
はじめてお客様に愛されていることを実感した作品。
第6回公演「三途の川を渡る君を見送る」(2004年3月 HEP HALL)である。
この世とあの世の境目が舞台。
そこに、人の現世での記憶を消すのが仕事の鬼達がいる。
鬼の見習い・ボンが記憶を消されたくないため、
鬼たちから逃げている女性に恋をするお話。
この舞台は前述したとおり、見事なセットを作りこんでの一幕もの。
私はこの舞台には、音響ではなく制作と舞台写真撮影で参加した。
中央に銭湯と番台を作り、「男湯」と「女湯」の暖簾と入り口がある。
舞台の下手には滑り台(この世の出口)と上手には長い階段(あの世の入り口)がある。
登場人物はそこを滑り降りたり、駆け上ったりの大忙しの躍動感のある舞台だった。
若い客演さんには大した事の無い労働だが、
ええ年を迎えたThe Stone Ageメンバーには辛かったろうね。
(幸い、森世さんはこの坂を滑ったり転んだりすることは無かった、良かったですね)
この舞台、ゲスト陣の個性が光った。
元タントリズムの田所草子さん。
彼女の幅広い表現力と深い台詞回しは、この舞台のヒロインにもってこいだった。
西坂舞さん(劇団赤鬼)は天然キャラのOLから硬派な警察官の変身は見事。
また、警察官から女泥棒への変身で爆笑をとっていた一明一人。
70年代のレトロなファッションと雰囲気を醸し出した、ゆであずきさん(仏団観音開き)。
The Stone Ageの母、森世まゆみさんは、やっぱり女将さんだった。
(今回の「時よ止まれ・・・」では、女学生を演じる。いろんな意味で乞うご期待!)
見た目と演技プランで、ドンピシャにはまったのが原知佐(たらこ劇場)の幼稚園児。
野上マヤさんは相変わらず、オトボケヒロインを演じつつ、得意なダンスを披露していた。
そしてThe Stone Ageのメンバー。
中井正樹は最初から最後まで、ほとんどパンイチ。とっても嬉しそうだった。
前回の「まんがの星」では、ずっと服を着ていたのでストレスが溜まっていたんだろう。
何よりも嬉しかったのは坂本顕が三途の川の番人の“黒鬼”としてフル出演したのだ。
かなり迫力があり、相変わらず怖くって・・・面白かった。
前回の「まんがの星」から、
正式にThe Stone Ageのメンバーとなったアサダタイキは、やはり旨かった。
自分の美味しい所を押さえながら、他の出演者のネタを食いまくっていた。
その姿、まさしく鬼のごとく。
“自称”看板役者の緒方晋は、彼の得意ネタというかライフワークというか、
私生活そのままの“あかん子”ぶりを発揮していた。
彼の“あかん子”ぶりは、私生活と共にこの時期に完成したといえる。
この舞台から、鮒田氏の演出が変わった。
一幕ものは難しいと思う。固定された空間で全てを表現するから。
この舞台では、その環境でストーリーと笑が旨い具合に融合していた。
舞台の最後、鬼によって記憶を消され、
三途の川を渡るヒロインを見送る為に追いかけていく“あかん子”の姿。
雨が降れば、彼の記憶は消えてしまう。
ラストで坂本顕が励ましのドラを鳴らした時、私は涙が出た。
こうやって何かを忘れる事はあっても、
誰かを好きになり、そして助け合って活きたいと心から思った作品だった。